第44話 6階層-1


全プレイヤーに対する宣戦布告をしてから1週間と少し。新階層の整備、調整をしながら過ごしていたある日。俺たちにとって無視出来ない客がダンジョンを訪れていた。


「む、あれは……」

「きゅう!」


ゲームにログインし今日もまた仮想スクリーンを眺めていた俺の目にある意味懐かしいプレイヤーの姿が飛び込んで来た。相変わらずの裸装備の巨漢とそれに付き従うシェフ服の集団。トップクランのひとつであるクラン『快食屋グルメ』だ。


「『Seeker's』より先に『快食屋』が来たか……面倒ではあるがこれはこれで悪くない」


連中噂ではここで搾り取った資金でついこの間まで3rdステージで活動していたというではないか。


「3rdステージのドロップか。何か持って来てるといいんだが……流石に望み薄か」


連中……というか主にモルダードはあの戦闘スタイルのせいでまともに防具、武器を装備しない。本人曰くゲームだから服も体に合わせて変形はするがそれが寧ろ動きに邪魔だとかなんとか。武器も素手なので特に必要なしときた。

ゲームで武器防具なんて使ったほうがいいに決まってるのにセンス盛々の天才の言葉はやはり理解し難い。

それにモルダード以外の『快食屋』のメンバーもインベントリの殆どを食材で埋めていると聞いたことがある。料理はストック出来ず嵩張るから食材を目一杯詰めるてフィールドに出るんだそうだ。


「まぁどちらにせよだ」


こちらのお陰で得したのだから多少の徴収は当然の権利だよなぁ。何よりいつかこんな日も来るだろうとお前らの対策はしっかりと考えれて来てるんだ。


「覚悟しておけ。今度こそごっそりと搾り取ってやる」

「きゅ、きゅう!」

「ん? なんだファスト。お前自ら出るって言いたいのか」

「きゅ!」

「あーそういや前にモルダードに会った時あっさり死に戻りさせられたんだっけ。ということはリベンジしたいと、そういうことか」

「きゅうー!」


そうだ!と主張するように大きな声で鳴くファストを見下ろす。確かにファストはあの時より格段に強くなった。この日のための仕込みも『錬金術』を用いた製薬でいくつかしてある。

……なら問題ないか。作戦に少し修正を入れる必要があるが、この子が自分自身のためだけにワガママ言うなんじゃこれが初めてのことだしな。なら眷属の願いくらい叶えてやるのが主人の度量ってやつだ。


「よし、モルダードを倒すのはファストに任せる。万が一にもしくじるんじゃないぞ」

「きゅ!」


問題はどこで迎え撃つか。

多分『快食屋』の戦力なら通常運転のラインラビットの壁を突破するのもそう難しくない。となると迎撃は坂上の砦の先に……7階層でになる。

ただその前に『快食屋』の戦力も削りたい。理想はモルダード以外を全滅させることだが……そこまでは欲を出し過ぎか。

相手は圧倒的に格上、あくまで慎重に確実にいこうじゃないか。


「で、どの道ファストにモルダードは任せるとして他のはこっちが担当しないとか。ならキメラの調整もして置かないとな。どいつがどれだけ溜め込んでるか分かんねーんだし」


ここでキメラの仕様について少し触れるとしよう。

キメラは従魔とはまた扱い違う。それを簡略的に列べると。


・キメラは寿命があり一種の消費アイテムである

・従魔と違い主人と隔離されたエリアでの戦闘も可能

・従魔と違い主人と隔離されたエリアでの勝利報酬を獲得可能

・従魔と違いAIの自律性が欠け行動を変えるには命令し直す必要がある


と、こんなとこだ。


何故こんな違いあるのか。例えばトラッパー系とういうジョブ群がある。字面で想像がする通り罠を設置して獲物を捕まえたりそのまま狩ったりするジョブたちだ。

もちろんこのようなジョブの場合自分は安全地帯で待っているのが普通だ。もしトラッパー特化とかそれで経験値や報酬が貰えないと誰もやりたがらなくなる。


報酬制限は付くけどトラップとかの消費アイテムでの勝利報酬は貰える。そしてシステム上でキメラは錬金術師が作る消費アイテムの一種だ。


だからって安全な隔離地に居られるわけでもないがな。普通に今でも従魔たちは1~4階層で頑張ってるし6階層以降でも色々とやってもらうことがあるからね。寧ろ何かある度にいちいち命令を更新しないとだからより面倒になったまである。


「ま、お陰でホーム領域から留守にしてても少しは収益が出るようなったのは助かるけども」


なんだかんだと『錬金術』の材料とかをダンジョン内だけで完結させるのは素材農場が居てもまだまだ難しい。だから今も不足した物資は外で買い出しなりモンスターを狩るなりして調達することはままある。特に今回のは自分の足で行かないと調達出来ないものだったからな。


そんなわけで外に出る時間は以外とある。

今は微々たるものだが、これが長期で見るとその利益が結構バカにできない数値になるのだ。なのでキメラの管理を面倒、もうやーめたというわけにもいかない。


まぁその管理も、今も続けている進化先の検証で見つけたある個体により多少はマシになっていたりするがな。今が使い時だし早速呼ぶとするか。


「近くの伝声兎。居るなら来い」

「ひゅ」

「よし『伝令』だ。これを聞いている伝声兎は6階層にて展開。キメラどもに俺の声を届けろ!」


さぁ、それでは……俺たちと『快食屋』との勝負、その第2ラウンドと行こうか!



――――――――――――――――――

・追記

『伝声兎』:呼兎の進化系統のひとつ。スキル『伝令』はその名の通り同種を通じて周りの仲間に主人格のものの命令を伝える効果がある。この手の進化系統は群れをなす種族に主にあり、テイマーやネクロマンサーなどモンスターの大量使役が前提のジョブに重宝される。



作者:ゲームで武器防具なんじゃ使ったほうがいいに決まってる( ー`дー´)キリッ(とあるソシャゲから目を逸らしながら









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