第45話 6階層-2

3人称視点です。


前回これを貼り付ける方を間違えてました。今は修正済みですm(_ _)m。

――――――――――――――――――

「ここが6階層か。広いな」

「『ノースライン』の狭くっるしい洞穴とは大違いっすね。あそこは21階層までずっと狭い洞窟っすから」


増蝕の迷宮エクステラビリンス』6階層。

次階層の通じる砦、それを一周するように築いたモフモフな肉壁の前で未だに立ち往生しているプレイヤーが大半の中。

今その入り口にはワンフロアの高い天井を見上げ感嘆の声を上げる『快食屋』の2トップが並んで立っていた。


「にしてもまさかあの意味ありげな扉がただのフェイクだったとは」

「あれ知った時はうちの調査班含め俺も思わず脱力したっすね……」


『快食屋』が到着した時には5階層のボス部屋の扉はいつの間にかリフォームされていた。無駄に複雑な模様があった扉は消えてただのバカでかい鉄扉に変わっていたのだ。それと鉄扉にはドロップした謎の石を嵌める場所なんてどこにもなかった。


今では普通のボス部屋と同じくあの階層ボスの兎男を倒せば開く仕組みになっていた。


「ここがあのプレジャってガキが言った通りやつのダンジョンなら俺らその時まんまと野郎に騙されたことになるっす。まぁ個人でダンジョン所有とか理論上無理なんでそんなわけ無いんすけどね」

「いや、俺はそうでもないと思っている」


自分の言をあり得ないと笑うクランのサブマスに、しかしモルダードが異議を唱えた。なんでという顔でモルダードを見るサブマスに顔を向けて目を一旦閉じてからその理由を述べる。


「あの生放送は俺も見たが……あの顔が嘘を付いてようには見えなかった」

「え、それだけっすか?」

「ああ、それだけだ。ただの根拠のない勘でしかないからあまり真に受ける必要はない」

「ふーん、そうなんすか。……これはもしかするともしするかもっす」


何でも無さそうに流して小声で呟くそうサブマス。こういう時に案外にこの人の勘はあたると経験則で知っている彼はより一層注意を払って6階層を進むことに決めた。


それにこういうことを言う時に必ずと言っていいほど……


「……トラブルになるんすよね」

「どうした立ち止まって、早く来い」

「へーいへいっす」



◇ ◆ ◇



ほら言わんこっちゃない。

という言葉を飲み込んだサブマスは自分を褒めたいと今本気でそう思った。


前後左右と上。その全部がけむくじゃらな壁に覆われた『快食屋』の面々は緊張を露わに警戒を促していた。既に入ってきたメンバーから数は半分に減りその残りもモルダード以外は疲労の色が濃い。


そもそも何故こんな状況になったのか。

最初は順調だったのだ。予定通りにここに着き、例の肉壁とやらが居る坂上の砦の近所まで行った。そこにあった壁は“肉の壁”と言うには見え上げても頂点が霞むという異様な高さをしており、そこから覗く兎の耳や目がないと本当に巨大な防壁ぐらいにしか思わなかったことだろう。


異変が起きたのはそこからだ。いつもの調子でクランメンバーの料理をかっ喰らいその壁を粉砕しようとした矢先のこと。今まで何をしようとびくともしなかった肉の壁が唐突に倒れた。しかもまるで狙っていたかのように


あまりにも予想外の事態に対応出来たのは、やはりもっとも器量に優れていたモルダードひとりだった。インベントリで緊急用の料理を食らい体をさらに肥大化して他のメンバーの盾となる。それでも足りず壁に潰されるメンバーが出たので肥大化した手足を駆使して兎共を吹き飛ばし一時的に活路を開く。そうやって命からがら壁を抜けた思ったら……先程に述べた状況に陥っていた。


「これは……もうほぼ確定っすね」

「うむ、本当のところまでは分からないがここがプレジャとやらの領域なのは間違いない」


じゃなきゃこんな狙い撃ちみたいな状況になるはずがない。

少なくともここのキメラがプレジャの手のものであることは『快食屋』全員の共通認識となった。


「転移アイテムは使えそうもないっす。これどうするんっすかクラマス?」

「どうもこうもない。引けないなら突っ切るのみだ」

「はぁ、やっぱそうなるっすよね……おっしゃテメェら、火を上げろ!」

「「「おうーッ!」」」


ぴっちり過ぎて外の光すら通さない兎のドームを見上げてため息が漏れる。

こんな場合でも脳筋全開なクランマスターに呆れながらも、この背中に憧れたのが運の尽きだとクラン一丸となり気合いを入れ直す。

結局のところ彼らは全員脳筋気質であった。


「まず俺が道を切り開く。お前たちも遅れず付いて来い」

「はっ! 了解っす!」


モルダードはさっきの手応えでこの壁を今は壊せないと知った。ならばと兎のドームを個々に押しのけ自身の背後に道を作る方向にシフトするだけと断ずる。


今度こそメンバーたちの料理をかっ喰らい、気合いを入れ直そうとした矢先。白い影がモルダードとクランメンバーの間を横切りそこのあった料理をかき消す。


「何っ!?」

「もぎゅ」


影が行ったと思われる場所を見てみるとそこには今さっき掻っ攫った思われる料理を美味しいそうに頬張る、親指サイズの兎がいた。


「ちょっ!? それこっちに返すっすよ!」

「ッ、ダメだ近付くな!」

「え」


その見た目に油断し料理を取り返そうと不用意に近付いたサブマスが素っ頓狂な声を上げて倒れる。よく見ると彼の足は何かにもぎ取れるようにして無くなっていた。その近くにはそれを成したと思われる小さな毛玉がダメージエフェクトを被りぐちゃ、ぐちゃと何かを咀嚼している。


その光景と自身のHPを見てもう自分は助からないと悟ったサブマスはせめて最後に今見た敵の情報を仲間に伝えようとした。


「こいつら、食ったら増えるタイプの敵っす! 範囲技で一気に――」


だがサブマスの彼が喋れたのはそこまでだった。次の瞬間には彼が言った通り爆発的に数を増やした毛玉の群れに全身を食い付かれ……一瞬の間もなく食い潰されたのだから。







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