第46話 6階層-3

「お、ラッキー。指揮官ひとり撃破だ」


仮想スクリーンで『快食屋』の様子を監視していた俺はその場面を見てを思わず声を上げる。やはり策が上手く嵌った時は気分がいい。ピッタリとパズルのピースが嵌った時に似た快感がある。これだからダンジョン運営は辞められない。


「予想よりも上手く行きそうだな。今回の初投入した新戦力は」


6階層にラインラビットしかいないと誰が言った。

当然の他にもモンスターは配置しているに決まっておろうに。


6階層のモンスター構成は3体。みんなご存じのキメラ連結兎ラインラビット

今回活躍した玉兎からの進化モンスター餓鬼兎ガキト

そして最後にその餓鬼兎を現場まで飛ばした影の立役者―― 吐栗鼠。


そう、ついにうちのダンジョンも兎以外のモンスターを採用したのだ。暇がある時にちょくちょく外に出ては『繁殖』持ちのモンスターを探して『調教術』でテイムして回っていた。場所は前にネットで調べたから知ってたしね。


割と人があってそう頻繁には行ってないけども。『繁殖』持ちのモンスターは弱くて数が多いから範囲攻撃で殲滅して序盤の経験値稼ぎによく使われるらしく。居る辺りには人が集るのだ。MMORPGだとよく見る光景である。


閑話休題


もちろんそこで新しく迎えたモンスター……繁殖栗鼠からの進化系のひとつが、この吐栗鼠だ。

スキル『繁殖』、『頬袋』、『吹弾』とレベル20以上の進化2段階めのモンスターに該当する。通常進化ルートのものなので特に進化条件などはない。


『頬袋』で餓鬼兎を込めて、『吹弾』で目標に狙撃する。さっき『快食屋』がやられたのはそれだけだ。吐栗鼠自体の戦闘力は然程ないので見付かれば終わりだ。

ただしこの小さな狙撃手はラインラビットの壁の中を小さな体を生かして泳ぎ回っているのでほぼ発見される事はないと思うがな。


で、次はわざわざ吐栗鼠の弾に選んだモンスターの餓鬼兎についてだ。

今回、吐栗鼠とコンビを組んでいる餓鬼兎も『食裂』、『矮小』、『飢饉』とレベル20以上の進化2段階めのモンスターだ。ただしこいつは少しばかりと進化条件が面倒だった。


「プレイヤーキル666回と空腹状態異常の累積666分なんだよ。悪魔を呼び出す儀式じゃあるまいに。検証するのも死ぬほどダルかったし」


『波』に混ざってキルを稼ぎまくり、多くなりすぎた従魔の餌を金欠で賄えなかった時に偶然発覚した進化先だ。正直その前から餌代が勿体ないので代わりが効かないの以外は空腹になってる個体をよく『波』に組み込んで特攻させたりしていたのでそのせいもある。


それと『繁殖』が変化した『食裂』ってスキルがまた曲者だ。『繁殖』とは大分仕様が変わり番がなくても子が増えるがそのために食料を食わす必要がある。つまりはこいつを維持するために出費が増えたってことだ。


「なんでうちのダンジョンはこう、いくら稼いでも飛ぶようにゴールドなくなるんだだろうね……はは」


出費が止まらない現実に思わず乾いた笑いが漏れるが……それは今はいい。現状は使った以上に稼げているからひとまずはよしとする。


この餓鬼兎が『快食屋』対策であるもっともたる所以は『飢饉』のスキルにある。効果はモンスターを常に空腹の状態異常にし、あらゆる摂取可能なものを食えるようになること。

本来従魔は餌アイテムという種類のものしか食えないし、フィールドの野良モンスターはイベントやスキルが関わらないとそもそも食事をしない。『飢饉』はその制限を取っ払いなんでも食べれるようにする……それこそプレイヤーの料理だろうが、プレイヤーそのものだろうが食えるなら何でも、命を顧みず必死に食らい付く。もし『調教術』の束縛がなかったら味方すらも……。


料理を出し食わせるのが前提な『快食屋』の戦術にとってこれ程嫌な敵もそうそう居まい。


ただ常に空腹状態だからとにかく弱い。俺から逃げれもせず小突けば簡単に瀕死になるレベルで激弱だ。だからか『飢饉』のスキルにはちょっとした隠し効果がある。敵を食うために攻撃した際……つまり噛み付き限定でたった1だが固定ダメージが発生する。あの指揮官役らしき男を瞬殺出来たのはそういう理由だ。


防御も速度も0。攻撃力は1。だが食欲と数は無尽の捕食者。それが餓鬼兎ガキトなのだ。


「さて、どうする。お前らにとって相性最悪の難敵だろうが……」


あの男がこの程度で落ちるはずもない。俺は半ばそこは確信している。

多少の小細工をしたところであの男ならそれを力ずくで踏み砕いてくるはずだ。


「だからあまり俺を……いや、俺たちをがっかりさせないでくれよ。下に色々と期待して待ってるやつが居るんだからさ」


とは言ってもお互い勝負はまだまだ着いていない。想像してるシナリオに駒を進めるにはまだ俺が頑張らないといけない場面だ。待ってろよファスト、今からお前がご所望のブツをお届けしてやるからな。


それにモルダード。覚悟しておけ。お前にとって本当の死神がすぐその下にまっているのだから―― 



――――――――――――――――――

・追記

空腹:プレイヤーに空腹度みたいなのはないため実質従魔系の専用状態異常のひとつ。この状態になると全能力が大幅に落ちる。餌アイテムを与えると回復する。


Q.作者:なんでファスト以外は味方にもそんな厳しいの?


A.主人公:ゲームの推しキャラとモブの扱いを区別するのは当たり前では?(真顔)

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