第83話 《遍く輝きを掴んで》ー5
このクエストのボスの第2形態、
「グァアア、ハッハッハハァー!!」
「レーザー来るぞ!」
「きゅ!」
サルタ・ガルノルの全容は
まずはギザギザの乱杭歯が覗くがワニのような頭に真上に向かっていくつも腕が伸びいて。
今はその大小ある腕を起点にして例の黒い光線を乱射しながら笑いか鳴き声か分からない音を喉から吐き出している。
「と、次は突進! 魔法でスライド&ステップ!」
「きゅきゅう!」
次に肥大化した頭を支えきれず四足歩行になった肢体。これらも変異しており、元のガリガリな腕はどこへやら、やたらデコボコした力こぶや鋭い鉤爪などが生えている。
ただし狼などのスマートなそれではなく不自然な位置にボコボコと盛り上がってる感じだが。その癖、なかなかの怪力で相当な俊敏さも発揮しているのが何とも不気味だ。
その四肢から繰り出される爪を魔法で生成した土塊でスライドし加速させたステップで躱す。かなりの速度で横移動した筈だがそれでも間一髪だったのか服の端に爪先が掠った。
「失敗したキメラみたいなりしやがってなんちゅう挙動してんだ。牽制程度の魔法じゃまるで効果ないし」
「きゅう」
肌は全体が黒く分厚く変質していて、俺が半端な魔法を撃ってもかすり傷も付かない。実際に合間合間に石礫ぐらいは飛ばしているが頭上にいるHPバーは1ミリも動いていない。
そうなると、俺が大魔法を当てるかファストを主軸して削るかの2択になるな。
どっちもきついな……出来ればボス戦を一旦キャンセルして準備からやり直したい。いきなり始まったせいでリトライの仕方もよく分かんないから一発クリア目指すけども!
「ま、やるだけやってみますか。ファスト!」
「きゅう!」
俺の号令でファストが先に突っ込み、大きな魔法を溜めながらそれに続く。
「グァギャハハ!」
「きゅ!」
不規則なサルタ・ガルノルの噛みつきや爪撃を軽やかに掻い潜る、懐に潜るファスト。
「きゅ、きゅ、きゅう!」
「グ、ガァ、ギギャ!?」
得意なゼロレンジまで詰めて蹴りのラッシュ、ラッシュ、ラッシュ!
やつの分厚い皮膚を物ともせず小さな白い影がその装甲を踏み砕く。
「ギァァアア!!」
「きゅ!」
サルタ・ガルノルは堪らずといった感じで自傷覚悟で懐のファストに黒い光線を撃つ。事前にそれを察していたファストは『跳躍』で緊急離脱して難を逃れる。
光線がスカってそこに入れ替わるように俺が割り込む。
「ナイス、ファスト! お陰でいい感じ魔法が溜まったぜ」
ファストが惹きつけていた間に溜めていた魔法を解放。まずこの真っ平ら塔の出っ張りの壁に周囲から土を集めて覆う。それで出来た地面から圧縮され頑丈そうな土槍を凄まじい勢いで生やす。
土槍を叩き折るべく、デコボコな腕を振り回すサルタ・ガルノルだったが……。
「グァ、ギャギ……ハァ?」
「残念、ハズレ」
……その手は土槍の幻影をすり抜けて空を切る。攻撃が空振ったせいで大きく体勢を崩したやつに本命の魔法を発動。土が縄のようにサルタ・ガルノルを拘束し、そこに刺々しい突起を敷き詰めた板が2枚両側に聳える。
その板でサルタ・ガルノルにプレスする。だけでは終わらず突起が高速回転を開始して黒い皮膚を文字通り削り取る。
「グァアァァァァアア――――ッッ!!」
「だぁ! うるっせー!」
「きゅう!」
暫く攻撃を受けていたサルタ・ガルノルはそれが余程鬱陶しかったのかまたも手を自分に向けてダメージもお構いなく黒い光線で板をバラバラにする。とばっちりを食いそうだったのでふたりして下がり仕切り直しとなった。
野郎。割と構築するの大変だったんだぞ、それ。
あーもう、こんな時に無属性があれば楽だったのに。
魔法で物を浮かせたりするのは無属性だ。だから無属性適正がない俺の場合小さな礫程度なら動かした慣性を利用して飛ばすことも出来るが、デカい岩とかはそれも無理だし、そもそも浮遊、飛翔させるとかも出来ない。
要は俺はあんまり遠距離だと大技が使いづらい。別に出来なくはないが長い範囲に地続きで魔力を浸透させる必要があるので隙がデカい。無属性で飛ばすよりも大体は2、3倍か場合によってはそれ以上に。
「そもそも機動力あるボスとタイマンとか魔法使いのやることじゃねーだろ。はぁ、とにかくダメージは負わせた。このまま追撃……」
「きゅ!」
愚痴ってもしょうがないと再度サルタ・ガルノルに向こうとするとファストからの警告。足を止めサルタ・ガルノルを見てみると頭上の手が光球を作り天に掲げていた。
それに連動してすっかり暗くなった夜空の星が輝く。その輝きがサルタ・ガルノルを照らしやつのワニのような口が変形。歯といった末端が手指となり蠢きだして……
「ッ、ブレス攻撃、来るぞ! 大きく避けろ!」
「きゅう!」
過程を見て何が来るのか察した俺はファストに指示してその場から大きく離れた。その次の瞬間。
「グァ――――――――ッッ!!」
サルタ・ガルノルが声なき声を上げて極大の光砲を解き放つ。それはやつの前方を扇状に薙ぎ払い轟音と猛威を振るう。
なんつー攻撃範囲だ。それに余波だけでも吹き飛びそうな衝撃波で威力も明らかにやべー。耐久ペラの俺なんぞ当たったらひとたまりもないぞ。
「でも今がチャンス!」
「きゅ」
ボスの大技は隙も大きいと相場が決まっている。
サルタ・ガルノルもその例に漏れず、口が元の状態に戻り反動で硬直しているようだ。
かなり余裕があったのでファストの『肺合』した煙でバフを貰い回転する土槍で胴体を穿つ。ファストも自身に切れたバフを掛け直しと同時にデバフも撒いてまたもやラッシュを掛ける。
「グァア、ギャァアーッ!!」
「おっと」
「きゅ」
ゴリゴリと気持ちよくHPが減り、半分ほどになった時にサルタ・ガルノルの硬直が解けた。腕をめちゃくちゃに振り回し虫を追っ払うように無理矢理に俺たちを遠ざける。
そして距離が開けると見るやまたも光球を作り天に掲げる予備動作に入った。
「また回避の……がッ!?」
「き、きゅ……ッ!?」
またブレスかと身構えていると今度さっきとは違う形で星が輝き突然体が重くなる。
重りでも付けたように一歩一歩が重く、走るなど到底出来そうにない。
この感じ……重力が増すとかそれとも体重を上がるとかその類の能力か。また厄介な。
そんな中サルタ・ガルノルは軽快な動きで俺に近寄りその凶爪を突きつける。多分俺の方が組みやすいと思っての行動だろうが……。
「ぐぅ、舐めんじゃ、ねー!」
「グヒャ!?」
俺は自分に魔法を当ててその場で離脱し、後ろに隠していたもうひとつ魔法をカウンター気味にやけに伸びた鼻柱にぶち当てる。それが余程堪えたのか情けない悲鳴上げて顔を覆うが……随分と余裕だな?
「きゅ!」
「グ、ハッ!?!?」
「アホが、俺が動けんのにファストが大人しいわけねーだろ」
俺が離脱すると同時に魔法で宙高く跳ね上げていたファストがグルグルと回りながら踵落とし風にスタンピング!
どうやらサルタ・ガルノルの技は範囲内重力を自分以外に上げるものだったようだ。明らかにファスト蹴りだけでは説明が付かない轟音と衝撃波が広がりサルタ・ガルノルの頭蓋が陥没する。どう見てもクリティカルヒットだ。
その証拠にHPも一気に消し飛び、危険域まで達した。完全に自分の技が裏目に出た形になった。ざまーみろだ。
「グァァァァァァァァアァァア――――ッ!!」
「うわっと!? はは、発狂モードか。お約束だな!」
「きゅ~!」
それで何かの条件を満たしたのだろう。サルタ・ガルノルは全身から赤いオーラを発しては怒り狂った咆哮を上げいていた。
俺はちょっと驚くだけで済んだがデフォで耳がいいファストはあの咆哮が不快なのか不機嫌そうに鳴いて長いうさ耳をぺたんと畳んでいる。
それからやっぱり何かしらのバフが入ったのかサルタ・ガルノルの攻勢が激しくなった。引っ掻き、噛みつき、光線、また引っ掻きと荒々しい連撃が次々繰り出される。
ふたりして避けては防壁を作りと何とか凌いでいるが反撃に出る暇がない。
あともう一発ぐらいデカいのを食らわすと倒せそうなのにと焦れったさを覚える。
ダメだ、ここで焦るな。慎重に慎重にだ。こんな時に先走ると大抵碌な事にならない。確実に、最大限引きつけてから嵌めるそれだけでいい。
「グァギャハァ、ギャハ!」
「まだ、まだ……」
ジリジリと集中力が追いつかずHPを削られていくが、まだサルタ・ガルノルの注意は散漫だ。もう少し……あと少しこいつの気を俺に引いて――
「今!」
―― サルタ・ガルノルが大ぶりの構えを見せた時に俺は捨て身で懐に飛び込む。やつは寧ろご都合とばかりに俺に凶爪を下し……今回も盛大に透かした。
またもや『映身』の幻影により攻撃が空振ったサルタ・ガルノルに違う方向で近付いていた俺は魔法を発動してトドメを刺そうとし……目の前にやつの手が、伸びていた。
「グァハハ!」
「しまった!」
やつは見抜いていたのだ、『映身』の幻影に。だから敢えて引っ掛かったフリをして俺を誘き寄せた。確実に殺すために。これはもはや絶体絶命――
「―― なーんてな」
「グァハ?……ッ!?」
「きゅう!」
悪いな、こっちも囮だ。
こんだけの性能のボスだ、そりゃ何度か目の前で使うと見抜かれるのは分かっていたこと。ならその見抜いた事実も込みで罠を張る。ペテンとしては寧ろこっちの方が嫌らしい手口だろうよ。
俺を仕留めたと思って完全油断していたサルタ・ガルノルにファストの強烈な蹴りがめり込む。発動していた魔法も実はファストを補助するためのものだったのでその分も上乗せされている一撃だ。
今の一撃で遂にサルタ・ガルノルのHPが底を突き……サルタ・ガルノルは地に伏した。
「はぁ……これで勝――」
「――グァアァァァ!」
それは不意の出来事だった。
確かにHPが空になって倒れたはずのサルタ・ガルノルが伏してた体を跳ね上げ俺を襲う。
よくよく考えれば倒した敵は本来、光の粒となって消える。そうなっていない時点で警戒を解くべきになかったのだ。これは疲れたのもそうだが、俺の経験不足が如実に現れた形でのミスだった。
今から避けるには間に合わない、ファストもさっきの蹴りの反動で割り込めない。
あーこんなことでクエスト失敗かぁ。
と、半分諦めていたその時。
「させ、ないわよ!」
「グァァアァア……ァ」
眩い光の雨が俺の視界一面を覆い尽くした。
攻撃の主……エルの魔法によって全身隈無く穴だらけにされたサルタ・ガルノルはそこでようやく光の粒となって消え去るのであった。
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