第84話 《遍く輝きを掴んで》ー6

クエストのボス、サルタ・ガルノルとの戦闘が終わった。

それをきっかけに塔の出っ張りに張られていたボスエリアが消失する。それを確認した俺は決定的な瞬間に駆けつけてくれたあの少女の元に走り寄る。


「エル! ありがとう本当助かった。危うくやられるところだった」

「ふん、まったくよ。何格好つけて出ていってやられそうになってるのよ……ばか」

「あはは……。それより体の調子は? もういいのか?」

「ええ、反動はもう抜けたわ。あとは……」


塔の床……今は壁のようになっているそこで十字架みたいなのに縛られ宙釣り状態になってエルの親御さんたちを見つける。

塔が倒れてからずっとあの状態だったのかと思うと少し申し訳無い気分になりながら魔法で上に登り拘束を解く。


……その際、塔が街に倒れている件でひと悶着あったのだがエルの仲裁と街に実質被害がないことを説明して事なきを得たのでそこは割愛。


「……まだ色々と言いたいことはあるが。この度私と私の家族を助けてことについては誠にお礼申し上げる」

「感謝いたします」

「ああ、頭まで下げなくていいですって!」


そう言いって頭を下げるエルの親御さんたち。流石に気まずかったので頭を上げてもらう。何だかんだとこっちも結構やらかしてるし、はっきり言って俺の方がエルに助けられているからな。


ちなみに父親の方は厳格そうな雰囲気の中々厳ついがナイスミドルなおじさんで、母親の方はお淑やかで物静かな絵に描いたような清淑美人さんだ。


あの娘にこの親だなと感心しているとエルのお父さんが妙なことを言い出した。


「恩人へのお礼も済んだということで……。それでは本当の意味でこの騒動を終わらすとしようか」

「えっと、それはどういう……敵はもう」

「……」

「……お母様」

「直にわかる……ほら、あそこを」


おいおい何か重苦しい雰囲気になってんぞ。ボスも無事に倒してたってのに何が……。


と状況が読めず困惑していると横の壁……もとい塔の天辺の中央に赤黒い何かが出現する。

何の前触れもなく突如虚空から這い出たそれはまるで生きているかのような生々しさを帯びてその場に浮いていた。


「何だ、あれ?」

「恐らく貴殿と娘が倒したという怪物……その復活の起点であろう」

「え、あれは死んだはずじゃ」


今回は間違いなく死亡エフェクトを確認している。あれは、サルタ・ガルノルは間違いなく死んだはずだ。


「その怪物がどのようにして生まれたのかは私も見ている。残念ながら塔を利用し神なる空に魂を刻み、星の輝きから供給を受けるあの怪物は死なない。例え身体が塵になろうとな。つまりは……神々が描きし空で星が瞬く限りそれこそ無限に蘇ることだろうよ」

「マジかぁ……」


あいつリポップすんのか?

というか、もしかしてまたいつか戦闘になるフラグかこれ。それで次はもっと強化されて出てくるとか? 今回もぎりぎりもいいとこだったし流石に勘弁して欲しいんですけど……。

その俺のうんざりな心情を察したのかエルのお母さんが一歩前に出てこう言い放つ。


「その心配は無用です。あれは私めにお任せください」

「いや、お任せくださいって……どうするんですか?」

「封印を施します。私自身を楔として。彼の者同様に塔を介して星の力を授かればあの怪物が消えるその時まで封印は維持されると思いますので」

「なるほど……」


分からん。


「私が代わりになれるなら、どれほど良かったか……。今程己の非才を呪ったことはないっ!」

「お母様……それなら私でも……!」

「だめよ、あなたはまだ子供だもの。こんなことで自分の人生を棒に振るべきではないわ」

「でも、でも……!」


分からないが……この人が自分を犠牲にしようとしてることだけは察した。


ふと自分の母親の姿が過る。

気が弱くて嘘も付けず。そこか常におどおどしてる人相を受ける人だけれども……いつも自身を顧みず俺のことを思ってくれる人だった。

あの人にとって俺はさぞかしい重荷だったことだろう。どんな綺麗事を並べたところで女手ひとつで俺を育てるのが大変でなかったわけがない。


ゲームのキャラに現実のそれも親の誰かを重ね見るなんじゃこっ恥ずかしいことこの上ないとは思うが……放っては置けそうになかった。それにだ――。


「だぁー! 揃いも揃ってしんみりしてんじゃねー! あれは俺が何とかしてやるから。お前ら余計なことすんなよ、いいな!」

「え、いや……でもこれは私たちの役目で」

「んなことはどうでもいいんだよ! ――俺にもちったぁお前のこと助けさせろ! 分かったんなら俺はもう行くぞ」

「ッ! ま……」


それだけ言って返事も聞かずに俺は魔法でもう一度壁を登り赤黒い物体……サルタ・ガルノルの起点に着く。


「大見得を切ったわいいが……どうしたもんかね」


起点はまるで肉塊ような質感で脈動などはしていないが、やつが纏っていた禍々しいオーラを今も垂れ流して気力が溢れているように見える。じっと観察してみるとほんの僅かづつではあるがその質量が増していってるのも感じられる。

このままだと言ってた通りにそのうち復活するのは間違いなさそうだ。


「今の状態でもう一度破壊は……ぐっ!?」


安直に破壊出来ないかと思ったが謎のカウンターを食らい逆にダメージを負う。起点は……無傷。これは多分反射タイプのカウンターか。破壊は無理そうだな。


それからも一応色々と試してみたが有効打は出ず、俺がボロボロになるだけで終わる。まぁこれが出来るんだったら犠牲を出して封印とか言い出さないか。


「他に何かないか。俺の手札でこいつに干渉出来そうなもの……」


考えろ、どこかにヒントがあるかも知れない。

エルの言葉、エルのお父さんの言葉。そしてあのひょろがりが変容する前の言葉……。それらひとつひとつを記憶から掘り起こすようにして思い出す。


―― 創造と叡智の輝き持つ星にて加護を受けたあの塔の周りで“それ以外”の魔法は許されないの


―― 神々が描きし空で星が瞬く限りそれこそ無限に蘇ることだろうよ


―― 塔よ、古の一筆いっぴつよ、世界を創りし痕たる星々よ……俺を書き換えろォ!!



……要となるのはどれも“星”というキーワード。

ここまで考えて俺が分かったのはこの世界の星は創世神話とかに出た神の力の名残みたいなもので、凄い力を秘めていることぐらいだ。世界観的にも重要なファクターだとは思うがそれ以上のことは俺にはよく分からない。


「解決法としちゃその星の力とやらを遮断すればいいってことになるが……」


どうやってだ?

そもそも星から出てる力って何だ、魔力なのか?


「魔力だったら同じく魔力で防ぐなり相殺し続けるなり……ああ、だから自分を楔に封印ってわけか」


多分この塔を利用してこの起点と同じく星の力で半永久的に魔法を使い続けるとかそんな方法だ。それも自分自身を封印の維持装置と割り切ることによって……。


「そんな胸くそ悪い真似、させて堪るか!」


はっきり言ってこれはだたの自己満足だ。正義感とかそんなご立派な飾りがあるものですらない。ただ俺がその光景を目にしたくないという、駄々をこねてるようなもんだ。


「上等、自分が満足してこそのゲームだ」


つまりはあれだ。何であれ入ってくる力以上に消せれば万事解決なわけだ。

そしてもうひとつ……この起点、生命活動してないってことは再生してはいるけどまだ死体なのには変わりはないってことだ。


「はっ、ならこうすればいい」


俺はメニューでステータスを開きセットジョブを変更し錬金術師と測定士を入れる。

生産施設以外でも生産が出来る錬金用の簡易生産セットを広げキメラ作成項目を立ち上げ、起点を鷲掴みしてキメラ作成の生産器具に放り込む。

それから視線を手元にある短杖……石王のバジリスクワンドに落とす。


「今までご苦労だった。ま、今からも苦労してもらうが、な!」


『測定』で完璧に測ったタイミングで起点の肉塊の盛り上がり部分に挟むようにして石王のバジリスクワンドをぶっ刺す。やつの再生を逆利用してほぼ傷付けずに埋め込んだが、それでもかなりのダメージが跳ね返ってくる。が、そんなことは今はお構いなしだ。

そして……。


「キメラ作成、開始!」


起点と刺さった石王のバジリスクワンド両方から別々の眩い魔力の光が溢れ出し絡みあう。まるでお互いを喰らい合うように激しくぶつかりあっている魔力を観察し時に介入してバランスを整える。

お互いが喰い合って相殺する丁度いい加減を慎重に探りながら作業は進み、やがて……


「これで……完、成!」


危うくリソースを尽きかけながらもそれは誕生した。

外見は石王のバジリスクワンドの瞳っぽい宝玉を真ん中に据え、外周を土属性の魔石を明るくした……星明かりのような色合いをしてる思っきし眼球の形をした物体だ。それが俺の掌で僅かに浮いて滞空を続けている。

よく見るとその宝石のように透けている体内では何かが常にぶつかり合うようにパチパチと弾けており、上手く狙い通りの効力を発揮していることが窺える。


成功を報告するため下にいるエルたちのとこまで降りて、だった今完成したそれを見せて説明する。


「俺が持っていた石王のバジリスクワンドの石化能力を、こいつと繋ぐことで拮抗する威力にまで引き上げて内側でその……星からの力?みたいなものの相殺が完結するように仕向けた。これでこいつはもう復活出来ねー。だからこれでエルのお母さんが犠牲になる必要もない、そうだな」

「あ、ああ。私から見ても問題は、ないように見える……。私は夢でも見ているのか」

「現実よ、あなた。私も信じられないけど……本当に助かったんだわ」

「ああ、そうか。君は助かったんだな。本当に、良かった」


感極まったのか抱き合っているエルの親御さんたち。


「エル、良かったなこれで……」

「バカ!」


それを見てこれで一件落着、すべて上手くいったとエルの方に顔を向けたら開口一番で怒鳴られる。


「凄く……すっごく心配したんだからね! あれがどれだけ危険なものだったか分かってるの!? 下手したら本当に、それこそ大変なことになってかも知れないのよ!」

「わ、悪い」

「もうー……本当にバカ」


まさかこんなに怒るとも……心配されるとも思わなかった俺はバツが悪るそうに頭を描いていることしか出来ないでいると、エルは――。


「でも……ありがとう。私たちを助けてくれて」


―― 最後にそうとだけ言って満面の笑みを浮かべるのであった。

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