第14話 ダンジョン紹介

「何人か逃げたけどほとんどは壊滅っと。概ね想定通りに進んだな。生き残った連中には精々このダンジョンの宣伝に励んで貰うとしよう」


我がホーム『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の一室。俺は初の侵入者から得た収入を見てほくそ笑んでいた。


「ふふふ、当初の予想以上にゴールドが手に入った。手間かけてまで繁殖兎を養殖した甲斐があったってもんだ。ファストの身代わりも立派に務めてくれた訳だし」


他のは兎も角ファストを犠牲にしたくは無かったからね。あの時に侵入者のプレイヤーたちを油断させるためだけに死んだあいつには黙祷だ。南無~。


そんなことよりも今回華麗にお披露目をやり遂げたうちのホーム兼ダンジョンの全貌を紹介しよう。

まず階層はまだ一階しかいないが全体の面積はかなりのもので5✕5km四方、天井高さ5mぐらいはある洞窟型ダンジョンだ。その内側は複雑な通路が入り組んでいて全てマッピングするのに数時間は優にかかる。2階部分は今鋭意製作中。予定としては5階層までは同じ広さの洞窟にするつもりだ。趣向の変更は5階層ごと挟むつもりでいる


罠の部分は全部俺が自作した。そもそもホーム機能に罠は売ってないし、NPC、プレイヤーショップ売りのは足がつくからだ。元からそれが得意なジョブでもあるということでやっていたが、途中で面白いことが判明した。


破壊不能の地形は破壊は無理だが場合によっては変形は出来る。破壊不能だけど戦闘が前提の場所……通常のダンジョンやPVP用の空間は大体このルールが適用される。


だから穴とか作ると維持する魔法が解けると一瞬で元に戻るのだが、この際窪みとかにものが置かれているとそれが弾き出されるのだ。これを利用して穴と石筍を別々に作って組み合わせ魔法が解けると四方八方に飛び散るように設計した訳だ。更に飛び出す石筍は魔法とは関係ない採取物を俺が形を整えただけのものだから属性弱点は特になく解除を難しくしてある。

それ以外にも生えていた石筍や鍾乳石を平面にならしてから、魔力の消失と共に罠が飛び出させるなんてのも作ったな。

これの唯一の難点は通常フィールド比べ罠状態を長時間維持するのに莫大なMPが掛かる点だ。罠ひとつ少なくともポーション10本は飛ぶからまた俺の懐が圧迫されている。


いや~、それにしてもあの特殊罠で初っ端から急所に罠が直撃したやつがいたから久々に爆笑したわ。あれはデタラメに飛び散るだけのはずだけど、運のないやつだ。


一定規模のホームはホーム内の様子を持ち主だけ仮想スクリーンで観察出来る。多分広くなり過ぎたホームの管理用の便利機能だったんだだろうな。プレイヤーが当たり前に入れて狩りが出来るのもホーム入場『無制限』、ホームエリア『闘技場』、ルール『無制限』に設定しておいたからだ。ホーム機能様様だな。

ただ唯一の難点は俺自身が侵入者と同じ闘技場エリアにいないと経験値もドロップももらえないどころか従魔ですら攻撃不可になること。まぁ、これは仕方ない。それを認めてしまえば安全圏でPKし放題だし。


あ、ログアウト時にはちゃんとホーム入場『主以外不可』にしてあるので空き巣とかの心配はない。その際にプレイヤーも全員排出される仕様。他にも似たような時間制限付きダンジョンがあるので特に不自然さは出ていない。ゴールドだけでなく経験値とかドロップが異常に美味しいところは限定感を出す為か特にそんな場所が多いから尚更目立たない。


次に配置モンスター。広いダンジョン全域をカバーするには質よりも数が必要。そこで着目したのが『繁殖』というスキルを持つ兎型のモンスター繁殖兎だった。『繁殖』は同進化系譜の個体が2匹以上近くにいると発動し通常の条件を無視して子を産むポップする。ただし49レベルのモンスターまでだけど。モンスターはレベル50から固有種になって一気に強くなるものがあるのでそれを基準にした制限だと思われる。固有種に関してはテイマー系統ジョブのやりこみ要素に近いものだけど……これはまたいつかの機会に話そう。


ここに配置されているモンスターは全ては地上に棲んでいた大量の兎たちがその元となっている。これもまた苦労したものだ。


最初に繁殖兎をテイム、『繁殖』スキルで増やす。とやっていたんだがここで問題発生。それは『繁殖』した同士が俺の従魔でも産まれるのは敵対モンスターになるということ。これをそのまま配置するとホーム状態を解除した際に土地が未占領状態になってしまう。そのせいで生まれたのを排除して隔離してと大慌てだった。


これはいけないと繁殖兎の徹底検証を始める。そうしてスキルを何度も観察し、進化先を探って行く中、それらをひっくるめて解決する方法を見付けることが出来た。それがこいつ……


「クイーン、ご飯だぞ~」

「ぷきゅ~」


俺が飯時を告げるとぽっちゃりシルエットの桃色巨大兎がのしのしと飛び跳ねてきて山のように積まれた餌アイテムを貪る。こいつの名前はクイーン。繁殖兎の進化2段階めの女王兎というモンスターだ。ファストに次ぐ新たなパートナー、つまりダンジョンの幹部枠である。


この子のスキルは『繁殖』の他に『多産』、『統率』とあり、『多産』は『繁殖』で産まれる子の数を増やし『統率』は自身の系譜にいる子を全て支配下に置ける。そしてクイーンが『統率』スキルで従えているのは俺がテイムしたのと同じ判定になるようだ。


この統率のお陰で土地を未占領にせずモンスターを増やすのに成功したが、話はそこで終わりではない。ここで俺は『繁殖』スキルを有効活用するための一計を案じた。


まず敵対の繁殖兎を効率よく増やす繁殖場をダンジョンとは別の場所に作った。それで上手いこと増えると従魔の待ち構えるダンジョンに通路を開けて放流し処理する。更にレベルアップした従魔を繁殖場に放り込む。そうすると『繁殖』の仕様上、番のレベルの平均レベルをした子が産まれる。あとは低レベル個体を排除して上記をエンドレス。結果、俺の従魔はひたすらに増えて高レベルだけのモンスター配置が完成する。


補足すると俺がクイーンの由来の従魔を解放すると絶縁したとでも見做されるのかそいつはクイーンの系譜から外れる。だからついでに敵対状態の兎の繁殖場もいくつか設けておいた。こっちは丁度いいレベルで『繁殖』させているので安全に経験値と金稼げて便利なんだよな、これが。


「同じ種族でも高レベルの方がゴールドも経験値も出るからな。それを狩れば固定収入もばっちりだぜ、ぐへへ」


実際にこの“兎農場”を設けてからは安定した収入を手に入れ、今のとこゴールドの心配せずに拡張が捗っている。その資金と外でのPK時のドロップで装備もMP増加と土属性補正のものに更新して作業効率も更にアップしている。

まぁ、広くなるとその分だけ指数関数的にホーム範囲指定の必要経費が増えるのでそのうちまた足りなくなるだろうけどさ。結局金稼ぎの坩堝からは抜け出せない。


「と、いつもなら嘆くところだが。今回そのための対策はばっちりだ!」

「きゅう?」

「ぷきゅ?」


いきなりドヤ顔で叫んだのを見て揃って首を傾げる大小の兎2匹。なにそれかわいい……じゃなくて。


ではお見せしよう、これが今の俺のステータスだ!


_____________________

名前:プレジャー ランク:★


セットジョブ

密偵LV6:『擬態』

盗賊LV4:『盗術』


*装備

上衣:増魔のローブ

下衣:増魔のサルエル

武器:地脈の長杖

装飾:親愛の証

装飾:地属の琥珀


所有ジョブ(残り枠1)

大地術士☆ 魔物使い☆ 密偵 盗賊


従魔

ファスト・蹴兎LV27

クイーン・女王兎LV24

1Fグループ・TN300

_____________________


ここで先に注視して欲しいのは密偵のスキル『擬態』だ。このスキルは少し特殊でランクとジョブの強さに応じた数だけ対象の外見を隠せたり変えたりという効果をもつ。その中には自身のホームのマップ表示も含まれる。

それどころか自分の姿も紐付けられてるUIも効果の対象内とする。直接触っている間は他人の姿や物も擬態出来るが流石に他人の個人的なUIまでは対象外となる。これのお陰でマップに誰々ホームと表示される問題は解決した。現在隠せる数は2、マップに出るホーム名表示と全従魔の名称マーカーに使っている状態だ。

従魔の名称マーカーは従魔全体を一括擬態で1枠扱い出来て良かったよ。代わりに全体か一体づつかのどっちかしか枠に選べないけどね。ちなみに一括擬態した従魔はダンジョンラビットってまるでここの固有種っぽい種族名にしてある。


盗賊のスキル『盗術』はPK時のゴールド、アイテム獲得増加だ。

これが何を意味するのか? まず侵入者がモンスターを狩る→俺の従魔たちがそれを狩る→スキル効果と高レベルモンスター討伐の2段ゴールド増殖現象が起きるということだ。

しかも調べたところ巷ではうちのダンジョンは弱いモンスターで金が沢山出るゴールドの稼ぎ場という認識らしい。だからもしプレイヤー側が獲得ゴールドアップとかのスキル、アイテムを使うと更にこっちの稼ぎもあがる。要するに侵入者を撃退すればするほどこちらの収入が増えるのだ。

ちなみに転職クエストは密偵は不意打ちでPK5回と盗賊はPKでアイテム略奪5回だ。


それとあの1Fグループとか言うのは従魔が増えすぎた時用の便利機能で多数のモンスターでグループを作って纏めて管理出来る。テイムに所持上限は特にないからこの類の機能を熟しておくのは必修とも言える。


と、ここで1Fグループの内訳ついでに配置モンスターも少し語っておくか。

兎農場の兎に万が一にもやられないために基本1段階めの進化は済ませてある。まず跳兎50、大兎50の主力部隊が常駐。これらとダンジョン内整備、隠形任務などを任せる土兎50と『波』を起こす重大な役割を持つ呼兎よびうさぎが50。ここに検証で生まれた雑多な種類の繁殖兎の進化体が100となる構成だ。これ以上が生まれたら今はまだ置く場所がないので基本従魔から解放して兎農場にブチ込んでいる。

そしてその兎農場で事前に溜め込んだ兎をあの『波』を作る時に解き放って使う仕組みだ。

何故か野生のモンスターも入場無制限にするとホームに入れるからね。運営がどういうつもりでこんな設定にしたか分からないがこちらには好都合だし有効活用しない手はない。ちなみにプレイヤーはともかくホームの閉鎖は敵MOBがいると出来ないが閉じる前には従魔たちに排除させているので特に問題はない。それに『波』の敵対兎たちは従魔の呼兎に誘導されて常にこちらの手勢で包囲されているので残るなんて心配もない。


「くく、やっとダンジョンらしくなってきたじゃないか。そうだよ、俺がやりたかってのはこういうのなんだよ」


でもまだまだ足りない。『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の名に相応しいようにこれからも継ぎ足して継ぎ接いでもっと強大に広大にしていかなければ。それにそのためには俺のホームはダンジョンとしてまだ重要なものが欠けている。


「次はダンジョン攻略の目玉。ボスモンスターを創り出す!」


そのためにも早速準備に向かうとしよう、次の目的地は調教職テイマーギルドだ。


――――――――――――――――――


・追記


『呼兎』:スキル『遠吠』を持つ兎型モンスター。名前で大体察してると思うが要するに“仲間を呼ぶ”が出来るやつ。同じ括りの種(兎、猫みないな)なら全て敵味方関係なく対象となる。この手のスキルは発動時に専用ボイスあったりするらしい。


9.28 本文内容を少し修正

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