第13話 とある重戦士のダンジョン探索-2(別視点)

Side とある重戦士



「は?」


今なにが起きた。俺の目には相棒が罠に魔法を放って突然死に戻ったようしか見えなかった。そう呆然と相棒が消えた場所を見つめているとそばにいた別のプレイヤーが叫ぶ。


「二重罠か。解除すると石筍が飛んでくる仕掛けだ」


ああ、なるほどそれで相棒は偶然それがクリーンヒットする射線上にいたと。死ぬ直前に少し浮いたのは攻撃の反動で、か。

……この前といい相変わらず運のない。狙ったドロップが出ない、ピックアップが引けないといつも嘆く我が相棒兼親友であるが、最近その不運にも磨きがかかってきた気がする。


「どうやらここの製作者は随分と性格が悪いらしい。ここからもっと慎重に、罠を解除する時は常にタンク系ジョブと一緒にやってくれ」


こういう仕切る輩が出ると反発も出そうなものだが、皆折角稼いだゴールドを落としたくないのか不満は出なかった。

あ、ちなみに秒速で相棒の泣きの入ったメッセが来たが今は忙しいのでスルーだ。悪い気はするが無事戻れたらなんか奢るつもりだから許して欲しい。


ダンジョン突入から30分。


罠解除役とタンクを組ませる作戦は上手くはまった。斥候か魔法使いが罠を解除し射出罠が作動したらタンクの誰かがカバーする。この形が出来上がった事によりあれから死んだものは出ていない。ただまぁ、不満があるものはいる訳で。


「あの魔法罠どうにかならんの?こっちの耐久消費がヤバいんだけど」

「穴が広範囲で飛び越せない、飛んでくる石筍は属性なしのオブジェクト、物理的には仕掛けに届かないんじゃ今のやり方しかないって。それにそれ以上に稼いでいるからいいだろ」

「はいはい、文句言わずやりますよ。ったく」


さっきからこういう会話が何度も行き交っている。そういう俺も耐久が大分減っている。まだマッピングも終わってないようだが、この耐久値じゃそろそろ引き際か。ここは相当広いダンジョンのようだ。

ひとりふたりそんなことを思案していた頃、それは起きた。


……ドド。


「うん?今何か聞こえなかった」

「んー……あ、本当だ。これ足音」


……ドドドドドドッドドドドドッドドドドドッ。


「お、おいなんか地響きもしてねーか」

「ッ!?全員構えろ、前方から大群が来るぞ!」


それを何かに例えるとするなら白い『波』だった。

その白い『波』が集まり過ぎて積み重なりながら押し流される兎なのだと気付くまでに数秒を要した。数にして何百か何千か。いやもしかすると万を超えるかもしれないと思うほどの地鳴りと圧力。ゲームの仕様のせいだがその状態で鳴き声が一切ないのがいっそ不気味さすら感じる。


「タンク前へ、後衛は範囲魔法の用意! ここにも罠はあるから気を付けろよ」


掛け声にゲームにも関わらず圧倒されていたタンクジョブたちがハッとなって盾を構える。それに釣られて後方の遠距離アタッカーたちも各々狙いを定める。


「ビビるな、どうせ最下級のモンスターだ! タンクジョブの防御が抜かれたりはしない」


数の多さに気圧されていたが、実際に受けてみると仕切ってる誰かが言う通りそれほどダメージを受ける訳でもない。そして一瞬でも群れが止まると魔法で瞬く間に消滅するのみだ。

どうにかなりそうだな、と安心していたからだろうか視界の片隅に蠢く小さな影を捉えた。


「茶色い……兎か?」


本当に兎ばっかだなと考えながら、そういや何であの兎だけ挑発スキルが効いてないと呑気に思っていた。すると……。


「どうした!よそ見するな」

「おう、悪い。なんか一匹だけ抜けた兎が……」


俺が言い終わる最中、最初に横にいる同ジョブのプレイヤーが何かに脳天を貫かれ白い『波』に呑まれた。体勢が崩れたのもそうだが不意打ちの大ダメージでひるみ状態になりスキルが強制キャンセルされたせいでそうなったのだろう。

『波』に呑まれたそいつは、全身に兎がまとわり付き装備の耐久が一瞬で溶かされ自慢の防御力がガタ落ちする。そしてそいつはそのまま光の粒さえ波に呑まれながら死んだ。

その後も次々と天井から槍が降ってきて同じ光景が繰り返され、前線が崩れていく。このままじゃまずいと判断した俺が咄嗟に後退した直後さっきまでいた床から石筍が飛び出した。後ろでも悲鳴が上がるのを聞くにそっちでも同じことが起きたと予想される。


「どういうことだ! 敵に魔法使うのがいんのか!?」

「ち、違う。周りの罠が勝手に発動してる!」


何で罠が……と思って周囲を見渡すと先程茶色い兎がいた場所に穴が開いてるのを見つけてすぐにピンときた。多分だが壁の裏に罠のスイッチとかがあってあの茶色兎だけそれを押すためにこっそりと抜けてきたのだ。『波』の兎は全部陽動で茶色兎の罠が本命だった訳だ。

なんつー質の悪い……ここを作ったやつは絶対に性格がひん曲がってる。


「モンスターだ、モンスターが罠を作動さてるんだ!」

「はぁ!?どういうことだ」


前線が崩壊した事によりすでに逃走が始まっている最中に簡潔に推測を述べながら俺も走り出す。追いつかれたら足が止まってる間にいつ罠をけしかけられるか分かったもんじゃない。


「それが本当ならまんまとやらたな」

「ああ、それにもうさっきのでタンク数が減りすぎて立て直しは無理だ。転移アイテムは?」

「持ってた後衛の連中はとっくに使って逃げたよ。あとは残ったのはタンクとさっきまで攻撃してた近接アタッカーだけだが……あっても使用制限がな」


転移アイテムは攻撃をするか、されると30秒のチャージタイムが発生する。俺は現在20秒ちょいで行けるが兎モンスターは総じて早い。10秒すれば追いつかれるだろう。

焦って逃げる内にも足が速い何パーティーかが転移アイテムで離脱するか、出来なかったものは罠を踏んで消える。


最後に残ったのは逃走の最後尾にいた俺とタンク数人だけとなる。転移アイテムのチャージタイムあと5秒。『波』との距離あと……数センチ。


「こうなりゃ一か八かだ!」


このままだとどの道死ぬと思った俺は賭けに出た。自分の前方にいる罠のスイッチに必死に走りより押す。当然罠が作動し俺は……下に落ちた。


「よし、勝った! じゃあなぁ! うさ公ども」


そのまま深く深くまで数秒落ちて石筍に刺さる寸前、俺は転移アイテムでその場を去った。

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