第12話 とある重戦士のダンジョン探索-1(別視点)
数日後、無事目的のジョブを得た俺は……多数のプレイヤーに追いかけられていた。
「待てテメェ!」
「俺の金返せっ、そして賞金を落としやがれ!」
「ようやく見つけたわよ、くそPK野郎がっ」
「ははは、ヘイトやべー!」
「きゅう」
ま、そんだけのことをしたからなんだけども。振り返って見ると色んなやつがいる。レアモンスターを狩ったあとドロップ奪ったやつとか、ゴールドが溜まるのを見張ってからキルしてこっそり持ってったやつとか。あ、初日にローブ奪った女魔法使いいるやん。装備新調出来たんだな。
と、まあそんなご具合でPKしまくって賞金首になりこの有様な訳だ。正面戦闘とか無理だから不意打ちばっかだったのが更にいけなかったんだだろう。追手は今やパーティー関係なく人が増えて10人以上はいる。そしてその人数は今も増え続けていた。
―― 大体計画通りに。
このために態々キャラ名が公開出来る表の販売所を使って自分の存在をアピールしたのだから、寧ろ来てくれないとそっちの方が困る。
それからも木々を掻き分ける、森の……俺が所有している森に入り込む。ここも逃亡ルートを何日も通って地形を細かく確認し、今や魔法で俺だけ走りやすいようになっている。その森の中心辺りに来た時だろうか、目の前には異様な光景が飛び込んできた。
それは例えるなら岩で出来た頭蓋骨だろう。ただし人間のではなく鼻の部分がとんがった動物の頭蓋骨だ。見る人が見るとそれがうさぎの頭蓋なのが分かったかもしれない。
頭蓋骨は門歯がある部分がぽっかりと開いており、そこから洞窟が伸びてるのが見える。俺がそこに滑り込むように潜ると他のプレイヤーも少し不気味がりながらも続いて入ってくる。
「よし、ちゃんと入ってきたか」
「きゅう」
俺と追手のプレイヤーが洞窟を走り逃走劇はまだ続く……と、思われていたその時。曲がり角からモンスターが飛び出して俺の首に噛み付き、それで俺はあっさりと死んだ。
『……え?』
突如のターゲットの死に呆然したプレイヤーたちは気付かなかった。死ぬ直前の俺の口角が―― 異様につり上がっていたことを。
Side とある重戦士
何だったんだいったい。
この気持は俺だけに限らずここにいるプレイヤー全員が思っていることだろう。
「なんだよ、折角ここまで追い詰めたのに」
「きゃはは、まったくだな!ゴールドは戻らねーが、あん野郎の死に様で少しスカッとした」
「私は納得行かないんだけど! ぐぬぅ、次会ったら今度こそボッコボコにしてやる!」
最近悪い意味で有名になったPK、『プレジャー』だったかを討ち取るために集まったプレイヤーたちが口々に文句や嘲笑を漏らす。
それも当然だ。
やつは今まで決して自分では前に出ず、狡猾に罠を張り巡らせ、戦闘は全てテイムモンスターに任せっきりにしていた。だが一番の決定打はやはりやつが販売所にPKで奪ったアイテムを堂々と売り出したことであろう。
その悪逆非道かつ挑発的なやり方は周りの反感を買い、やがてプレイヤーの有志が募り討伐隊が結成されるほどにまでなった。
で、そいつはその自覚がないのか何なのか、呑気に人の多いエリアをうろちょろしてるもんで、そのままひとりふたりと追撃者が集まり……今に至る訳だ。
「あれ? あのあいつといつも一緒にいた兎はどうなった? 確か従魔ってものによっちゃフィールドで戦闘中に使役者が死ぬと野生化するのもあるよな」
「あ、それなら私が見たけど。普通に他のモンスターに一緒に殺されてたわよ」
「なんだ、つまんねーの。1度懐いたモンスターは確率上がるからテイムしようって狙ってたのに」
「くくっ、そういやお前リリース当初に爆死したんだっけ」
「うっせー、ほっとけ」
標的があっさりと消えたことで気が抜けたのか思い思いに雑談が始まる。一応このは洞窟はモンスターも出るみたいだが、最弱モンスターの兎系統しか出現しないので皆片手間でも十分戦えるからだ。
「にしてもここはなんだろな。夢中で追っかけてたから現在地もよく分からんし」
「今マップ見る……お、ここダンジョンみたいだぞ! しかも聞いたこともないやつだ」
それを聞いて俺含む全員が一様にマップを覗くとそこには確かに『
「どうする、このまま凸るか?」
「当たり前っしょ」
「まぁ、折角の手付かずのダンジョンだしいいんじゃない?」
未発見ダンジョンにウキウキしてる他プレイヤーに適当に答えてたらこちらに来た女の魔法使い……俺の相棒が明らかにぶーたれた顔で話しかけてくる。
「あー、もう。結局あいつ逃しちゃったわ。無様に死んだのはざまぁ、ってなったけどね!」
「まあまあ、落ち着けって。またどっかでチャンスがあるだろ」
「ふー……そうね。でも次はこの手でブッ殺す!」
初期資金を叩いて買った装備を奪われて以来、うちの相棒はずっとあのPKのリベンジに執着している。俺はというと一応は被害は受けたが経験値と所持金がちょっと減っただけなので見かけたら殺っとくかぐらいの心情だ。
でも基本的にふたりで遊ぶから俺は大体巻き込まれてる。流石にPKKジョブを取りにいった時には止めたが。こっちもやりたいことはあるんだ、貴重な枠をそんなPK特化ジョブで潰したくはないし、潰して欲しくもない。
「なんつーか。兎ばっかだな」
「でもその割にゴールドめっちゃ落とすからいいじゃん。げへへ、入れ食いだぜ」
なんだかんだとダンジョンを探索して10分ほど。ここには本当に兎系統モンスターしかないようだ。それなりに深くまで潜ったがそれしか出ていない。一応は繁殖兎と大兎の2種あるのだがそんぐらい。だがその割に何故かゴールドの獲得量が多い。
「兎からはたいして落ちないのが普通なはずだけど」
「いいじゃない、稼げるんだし。あんたは細かいこと気にし過ぎなのよ」
で、範囲魔法で収入がザックザクなうちの相棒はすっかり機嫌が治り、金の亡者と化している。と言いながら金はあればあるだけ嬉しいので俺も協力するが。だってタンク装備は耐久減ることが多い分、修理代が嵩むんだ。
浮かれていた。
そりゃ、金が降って湧いたような状況だからそうなるのも仕方がない。その油断をずっと待ちわびてかのようにダンジョンが牙を剥く。
「おっらぁ! 次はあ――」
『え?』
まず最初に皆の先頭を行っていた、斥候のプレイヤーが唐突に消えた。
「わ、罠だ。そこに落とし罠がある!」
「はぁ? あいつ感知持ちだろ。気付かなかったのか」
「……いや、こっちの感知スキルには“魔力の痕跡がある”としか出てない」
別パーティーの斥候ジョブ持ちが言うには通常のダンジョンの罠なら感知スキルには“罠が仕掛けてある”って知らせがくるらしい。
「うわぁ……すげー深いし、底には針山みてーな石筍がびっしりだ」
「お、今メッセ来た。そこに落ちてすぐ死に戻ったって……げっ、マジか」
「あん?どうした?」
「いや、今のメッセにここで死ぬとゴールドごっそり持ってかれるって。こいつは大体4割ぐらい飛んだらしい」
こんな浅いエリアのダンジョンに即死トラップ、しかもデスペナが増える特殊エリア。
どうやらここは見た目と違って一筋縄じゃいかそうだ。それでも無事帰れれば稼げるし今度は気を付けながら慎重に攻略して行こう……などと思ったのが俺たちの不幸の始まりだった。
居合わせた皆で協議した結果。通常の罠は今まで通り斥候が発見次第に解除。魔力の痕跡がある罠……仮称・魔法罠は魔法ジョブが弱点属性を見つけ相殺して解除するって方針で攻略は再開された。
「お、魔法罠だ。属性は土か」
「任せなさい、風魔石ならたんまりあるわ」
相棒が意気揚々と対
さっさと終わらせると言わんばかりに相棒が速攻で強風を放つ。魔法の余波で少し浮き上がったか?――
―― と思った矢先、その場で俺の相棒は光の粒となり砕け散った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます