第1層 始動編

第11話 大地術士

翌日、昨日と同じ俺が所有する森の一角。

そこのホーム設定を解除した俺はまず土属性の魔法で洞窟を掘っていた。今の自分でどれほど掘削が進められるか確かめるためだ。それで穴を広げ続けていたら満タンの状態でも10分程でMPが尽きた。


「う~ん、全然だめだなこりゃ」


自分で掘った、人が4人ほど横になれば狭く感じる洞穴を見回しての第一声がそれ。

こんな調子じゃ最低限の広さを掘るのに何日かかるか。ポーションで時短は出来るがゴールドがいくらあっても足りなくなる。

いや、それよりも問題は増改築の際に1度ホーム設定を解除する必要があることのほうか。地形の変形、破壊はどれほど酷くても30分ぐらいで治る仕様だからな。

再設定する度に範囲も広がることを考えるとゴールドの消費がどんどん嵩んでいくから……ざっと計算しても間違いなく破産する。


ホームの構造物、地形は破壊不能オブジェクトになるのも問題だ。その状態だと壁を掘って広げるのは当然無理。範囲の境界線に沿って穴を作っておくって手もあるが凄まじく手間が掛かって逆に時間が伸びる。

一応隣に別の空間を作ってホーム機能で遮っている部分を撤去したり通路を置いたり出来るが……これは出来ればしたくない。


理由は、単純にここがホーム機能を使ってると他プレイヤーにバレたくないからだ。それをやるとその手のシステム任せの改修はみんな同一規格の見た目で「あ、これホーム機能でやったやつだ」って一瞬でバレる。

リサーチした限りだとこの方法でダンジョンを再現する方法は俺しか気付いていないはずだ。少なくとも広く知られてはいない。

元のダンジョンマスター系のジョブならこんな細かい部分も魔力だけでパパッと出来るんだけどな……ま、それは言っても仕方ないか。


「今は、この方法での優位性を活かさないと。これからの資金繰りが立ち行かなくなる」


ダンジョンマスター系なら魔力……要はMPだけでダンジョン設置も改築も思いのままだが当然俺には出来ない。

だからどのような方法を取ろうがその過程でホーム機能を活かすしかない。そうである以上、莫大なゴールドがかかるのには変わりない。そうなってくると、どこでそんな資金を手に入れてくるかって話になる訳だが……。


「ダンジョンを実稼働させる以外に思いつかないんだよな、そこは」


俺はそもそもダンジョンを作るつもりで『イデアールタレント』を始めている。当然金策もそれを前提に想定、準備してきた。いきなり狩りだとか、プレイヤーショップとかで稼ぐには実力も計画もない。俺は凡人だ、そんなもん急に始めてはい大金持ち!とか凄いモンスター素材探したぞ、高く売れる!なんてのは夢のまた夢だろう。それに……。


「ダンジョンそのものが消えたわけじゃないし、こんな裏技を敢えて広める必要もないだろ」


仲良しこよしな連中がいつか正式なダンジョンは作るだろう。ならこの方法自体は俺が独占してもあの『魔王』の理念には反しない、と思う。

ま、なんだかんだ言ってるがこっちには人に施す余裕なんてないってだけなんだけども。


纏めるとこのままじゃ作業効率最悪で金が足りんってことだ。だがこれを解決する方法自体はある。


「ソロの身であれはあまりしたくなかったんだけど……はぁ。背に腹は代えられないか」

「きゅう?」


ホーム機能で洞穴を一時的にホームにする。ああ、またゴールドが溶けるぅ……。


その後、俺が土掘りしてる間ずっと暇そうだったファストを連れてまずは魔法ギルドに足を運ぶ。着いて早々いつも通り決めポーズの練習をしてる白髭の爺さんに話しかける。


「おお、魔を探求する同士よ。本日は何用でこの魔に魅入られし集いに訪れた?」

「犠属の神殿に行く許可をもらいに来ました」

「……ほぅ。あれをやるつもりか。己にカセを課し深淵を求むその姿勢は好ましいがおすすめはせんぞ?」

「覚悟の上です」

「カッカッカッ! 汝はなかなか見所のある若者とみた。やはり男じゃったらリスク云々と女々しいことを言わずロマンを追い求めねばな!」

『転職(タレント)クエスト《道を削いででも》を受注しました』


今日もこの厨二爺さんは元気だなと思いながらクエストを受注する。


ジョブを派生させた状態ならいつでも受けられるこの派生転職クエスト《道を削いででも》。

これは別名“特化クエ”とも呼ばれるものでクリアするのに難しい課題とかは何もない。その代わり各ギルドの裏手にある神殿めいた場所で、とある儀式を行う必要がある。


「さぁ、そこの祭壇に載るがいい。さすれば汝の道は削がれ、新たな道が開くだろう。だが肝に銘じておけ。その道は進めば2度と戻れぬ不退のレールであることを」

「すぅ……ふう。はい!」


ひとつ深呼吸し、大きく踏み出して祭壇に載った。乗っちまった、これでもう後戻りは出来ない。そう思った直後足元から茶色い光が登り俺の全身を包み込む。そして……。


『道削ぎの祭壇の効果により無、火、水、風属性の適正が消失しました』

『今後自力でこれらの属性を使うことは永久に出来ません』


……分かっていてもこれ聞くとやっちまった感がすごいな。

これで俺は土属性以外が使えなくなった。魔石を使っての別属性魔法は勿論、最初の頃によく使っていたあの無属性の魔力弾ももう撃てない。


「無事、終わったようだな。それではこれで汝は偉大なる大地の求道者たる大地術士と相成った。……ひとつの属性を極めるは茨の道、これまで以上に精進せよ。私から言えるのはそれだけだ」

「はい、ありがとうございます」

『転職(タレント)クエスト《道を削いででも》をクリアしました』

『ジョブ:土魔法使いがジョブ:大地術士に変化しました』


これで俺はだった今から土魔法使いから土属性のスペシャリストである大地術士となった。


明確な能力値が存在しない『イデアールタレント』ではこの手の特化したジョブが極振りとして扱われる。どのオンゲーにも言えることだが、余程PSが高くないとソロでの極振りは弱体化と同義である。特化した能力を扱え切れないと弱点だけが肥大することになるから当たり前だ。


ただし、戦闘に使うつもりのない俺にはあまり関係ないが。


「戻ってきた、マイホーム! では早速ホーム解除からの掘削タイム!」


まずお試しに最初掘ったのと同じ広さの洞窟を掘って消費MPを比較する。結果MP消費は1割ぐらい、かかった時間は1分ちょっとだった。

土属性に関してはMP効率だけでなく操作補正まで付くみたいだ。実際やってみてミリ単位での調整も余裕でこなせると感じた。これなら境界線に穴を沿わすやり方でも然程手間は掛からないだろう。


「この調子なら2,3日の内に予定の広さまで掘れる……」


大地術士ジョブを得たことによりダンジョンを形成するのは問題なくなった。だがまだまだ実稼働するには障害が残っている。


「まずダンジョンに配置するモンスターも手に入れないと、だけど……」


まぁこっちは当てがあるから後回しでいいとしてだ。


「一番はやっぱりゴールドだよな。どこで手に入れたものやら」


今の方針だと改装や改築の度に大量のゴールドが吹っ飛ぶ。その金策を狩りだけでするなら次のステージである2ndステージまで進める必要が生じる。


ただ、今の実力じゃもし行ってもモンスターに返り討ちにあうだけだろうけども。


《イデアールタレント》の全体マップは非常にシンプルな円状だ。それに4つのステージが段々と存在し、その内側に起点となる街からエリアもまた段々と積もっている配置だ。

分かりやすくいうと、ステージのエリア境界を書くと多重丸絵のスコープを覗いたみたいになる。最初は円の中の十字線の各頂点と中心に5つ街があり、次からは各頂点の直線上にずっとステージごとに点々と配置され、それを繋いで円にする。するとその一番内側の円の中が1stステージ、その外側の円の中が2ndステージって感じだ。

ちなみ俺の土地は1stステージのどこかにある特殊なエリアだ。


閑話休題


少し考えてみたが今の状況だとあのジョブを得るのが一番か。それ相応に危ない橋を渡ることになりそうだが、上手く立ち回ればダンジョン運営の布石にもなる。


「ハイリスク・ハイリターンか。くく、いいぞ滾ってきた! やっぱゲームはこういうスリルがなきゃ面白くない」


では次のステップに進むためにまたあそこに行くとするか。ならず者の巣窟、闇ギルドへ!


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