第10話 再燃

夕暮れ時、ふわふわとした気持ちで部屋に戻った俺は、無意識にヘッドギアを被り再び《イデアールタレント》に接続した。


そのままふらふらした足取りで闇ギルドを出て街を歩き、いつの間にか外にまで来ていた。マップに目を向けると「所有地:未占領」との文字が見えた。これは持っている土地にモンスターなどが居て使えない時に出る表示だ。どうやら無意識にクエストで得た土地のエリアに足を運んでいたようだ。


それを見た瞬間、俺の頭からプツンっと何かが切れる音がした。


「そりゃさ。俺も弱体化されるかなとかは考えたんだよ。オンゲーはそういうもんだし……でも何も削除までしないでいいじゃないか」


握り締めてたい杖を振るい、近くに通りかかっていた兎型モンスターに魔法を発射、四散させる。それからはもう止まらなかった。


「そもそもやることが雑なんだよ、ここの運営! なんだあのコピペしただけの街並み、覚えてるだけで同じテクスチャ2、3回は別ゲーで見たわ! ツ○ルでも使ってんのか!あと敵モンスターなんで大口開けてんのに無音なの? ふざけてんの?最初なんてギャグかよって吹いたじゃなねーか! とにかくあの間抜け面で集中出来ないんだよ!!」


今まで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように魔法を乱射し、地形を変えていく。使っていた魔法に土属性が混じっていたせいで辺り一帯は大きな岩塊や石柱でデコボコにされて乱雑な体を成している。


そうやって暴走して約3時間後、MPもポーションも切れて俺は呆然とその場で寝転がっていた。


「はぁ……」


ため息をひとつ吐き、真っ先に浮かんだのはこれからどうしようというもの。

ゲームをやめる?

だが夏休みは『イデアールタレント』に捧げるつもりで宿題含めて終わらせていて予定もない。ボッチである俺に友達なんて御大層なものはないのでマジでまっさらだ。

だったら育成ビルドを変えて続ける?

それも正直言って乗り気がしない。あれ以上に心惹かれるジョブが他にないのだ。修正内容からして複数人で集まればダンジョンは作れるが、ボッチ陰キャたる俺のコミュ力はゲーム内だからって対して変わらない、ってかあったらVRMMOの世界にまで来てソロプレイやったりしていない。よって無理。

仮に奇跡的に人が集まったとして他人に積極的に意見が言えない俺だ、きっとそこに“俺が作りたかったダンジョン”はない。


「自分の意見押し通すとか、他人の考えんのを否定するとかそういうの苦手なんだよな……」

「きゅう~」

「おお、ファスト。ごめんな構ってあげられなくて」


暴れてた時も何だかんだずっと俺のそばにいたファストを愛でる。う~ん、このモフモフ感、何とも落ち着く……。だからって家でペット飼ったりはしないが。現実じゃ面倒を見きる自信がないから。

そうやって今更押し寄せてくるここ数ヶ月の準備が全部ご破産なった虚しさをごまかしているとマップの表示が変わっていることに気付く。


「ん? ああ、いつの間にか所有地が占領状態になってる。どんだけ暴れたんだよ、俺は……他に何か変わってるかな」



ここのモンスターは繁殖兎ってやつみたいだ。他に何かないかとメニュー欄を漁るとそんな名前のドロップがインベントリに大量に入っていたので分かった。

でもここの近くにこんなモンスターいたけっか? もしかするとここはクエスト報酬になってる特殊なマップだから通常とポップが違うのかもしれない。


「で、ホーム機能が使えるようなったと」


やることもないしこれでも適当に弄って遊ぶか。

ポチポチと項目をタップして興味があるものの目星をつけていく。ここの運営にしてはラインナップがかなり充実で感激していたのだがそれも価格表を見るまでだった。


「やたら充実だと思ったら課金要素満載じゃねーか!」


商売人どもめ! 本筋に関係ないからってはっちゃけやがって。何だこの和風内装セット(1998円)って、高いしセコいわ!しかも一部屋分って注意書きがある……この値段で小分けで売ってんのかよ。


「はぁ、お陰でホーム装飾関連は見る気が失せた。一応ここを俺のホームに設定して……こっちはゴールド掛かるのかよ。」


しかも広さに比例して消費金額が増える。どこまでもがめつい連中だ。まぁ、さっきの狩り?でゴールドも増えてるしやるけどさ。

にしても範囲の形状、高さ、深さとやけに細かく設定できるな。ああ、建設系のジョブは自分で家建てたりするからそこに融通が利かせるためか。ほんと、他でもこれの半分だけでも気を回してくれるといいのにな。


「面倒だから適当にデフォ設定で範囲指定っと」


いよいよやることがなくなった……。

やるせない気持ちを持て余し、立ち上がって自分で荒らした土塊を蹴りあげる。それで土塊は崩れると思っていたが逆に俺の足が止められ、衝撃を返してくる。


「痛……くはないけど。あれ、これただの土、だよな?」


おかしいなMPを注いでる訳でもないただの盛り土でしかないはずだけど。不思議に思ってその後も何度も蹴ったり踏んだり突いたり、挙げ句にはファストにスキルまで使ってもらったが崩れるどころか凹みもしない。まさかと思い周りの荒れ地にも試してみてやっとその理由が判明した。


「ホーム範囲外は普通に崩れる。ホームにした地面や構造物って破壊不能オブジェクトになるのか。ダンジョンの壁みたい……だ、な」


―― ホーム設定、範囲指定の自由度、ダンジョンの壁、俺のジョブの構成


これらが揃った瞬間、脳裏にある仮説が閃いた。俺はそれを確かめるためにホーム機能のヘルプを隅から隅まで読み込み、自分のジョブの性能を熟考し、このゲームのダンジョンの構造について反芻した。そうして考え込むこと数十分、結論を弾き出す。


「本物のより機能も利便性も遥かに落ちる……。多分本来なら回収出来る収益も減るが……イケる」


このホーム機能を活用すればダンジョンを再現出来る、っと。


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