第9話 クエストクリアと……

『シークレットクエスト《デンジャラスファーム》をクリアしました』

『クリア報酬をひとつ選択できます』


「っはぁぁぁ……! 勝ったー……」


全身から力が抜けてその場にへたり込む。

薄氷の勝利だった。今回は俺の人生イチに集中した自信がある。

良かったよ、ポーションがUIのショートカットパネルで使えて。良かったよ、ファストが居てくれて。


「きゅう」

「おう、ファストもお疲れ様」


ファストが身を擦り寄せて来るので労ってからなでなでしとく。ちなみにテイムしてたオークたちはクリアと同時に忽然と消えた。クリアするとテイムは討伐と見なされイベントmobである彼らは消える仕様だ。


「そうだ肝心の報酬は……お、あった『土地の権利書』!」


2枚だけだけど残ってた。ここまで苦労したのにもし無かったらどうしようか思ったよ、ほんと。


「で、あるのは荒野と森の権利書か」


この『土地の権利書』は豪農デスタが何らかの理由で農作出来ず、売るにも土地の条件が悪くて買い手がつかなかったものを貰うという設定だ。だからどこも整備とかで手間を取られることになる。


まぁ俺の場合、ダンジョンをスキルでさくっと作れる予定だしそっちはどうでもいいけどな。とにかく街に適度に近くて人が来やすそうな場所……この森でいいか。位置もエリア1とエリア2の間だから街も程よく近い。


動画で見た通り救世主だなんだと持て囃す豪農デスタの話を聞き流しイベントエリアから街に帰ってログアウトした。


……この時は本当に疲れていた。だから本来もっと人気だったはずの限定報酬が2つも残ってた理由に気付くこともなかった。




◇ ◆ ◇



翌日。


「ついに来た、この日が!」


朝の早速イデアールタレントにログインした俺は湿っとした空気が漂う街の裏路地に来ていた。こんなとこまで来たのは何を隠そう、迷宮王ダンジョンマスターの初期ジョブの迷宮作成者ダンジョンメイカの転職クエストを受けるためだ。


ダンジョンメイカーの転職クエストを受ける条件は以下の3つ。


・土魔法使い、魔物使いをセットすること。


・土地を持っていること。


・マスクデータの悪名度が高いこと。


上2つはともかくとして3つ目の悪名度が必要なのはダンマス系のジョブが括りとしてはPKジョブだからだ。主な収入がプレイヤーをキルする際に得る魔力と金銭なのだから当たり前なのだが、世界観から見ても“魔物の巣窟を作って人を誘き寄せ、殺して奪う悪質な強盗”って認識のようだ。


ま、やってること確かに悪党だから否定はしない。


「うーん……そろそろのはずなんだが」

「おやボウズ。こんなところで何をしてるんだい」


お、始まった。PKジョブ専用イベント《悪の道》。実際にそういう表示が出てる訳じゃないがこれからやることがやることなので皆そう呼んでいるそうだ。

で、今話しかけて来たのが通称“闇爺さん”だ。このNPCに悪名度が上がった所以を誇示すればPKジョブを纏めるという闇ギルドに案内してもらえる。


「大したことではありませんよ。ただ、昨日は中々の手勢が死にまして、気晴らしに散策してただけです。全く、使えない豚どもでしたよ」

「ほほぅ……酷いこと言いおるの。死んでった連中が哀れじゃの」


心にもないことをよくもまぁ。知っているんだぞ、お前の出すクエスト大体まともそうに見えて罠ばっかなのを。

ただの配達かと思ったら実は爆弾特攻だったり、モンスター退治かと思えばスタンピードの誘導任務だったり。闇爺さんがありしとこ血河けっかあり、とまで言わしめているほどだ。


「いや、本当に最後には敵の餌になるしで散々でしたよ。役に立つのはこの子ぐらいなものです」

「きゅう~」

「随分と可愛らしい相棒じゃの」

「へへ、こう見えてモンスターなんで。人の首ぐらいは簡単にへし折りますよ」

「おお、それはまたおっかないのぅ」


さて、どうだ。俺がひけらかせる悪事の引き出しこれぐらしかないんだが。これでだめならもうPKしまくるぐらいしか思いつく方法がないぞ。


「ふむ……ま、よいか。ついて参れ、今のお主にぴったりな場所を紹介やろう。まぁ来なくても別にいいが損をするだけじゃぞ?」

「……そこまで言うのでしたら。少し興味もあるますし」


これは……何とか合格、って感じかな?

俺の不安をよそに闇爺さんはすいすいと裏路地をまがり、のぼり、もぐり入り組んだ道を進んでいく。凄まじく複雑でひとりだと絶対に同じ道に来れない自信がある。そしてこの闇爺さんが案内した道じゃ無きゃ闇ギルドに辿り着くことは決してないという。


実際にマッピング命のプレイヤーが何度も試したそうだが、全部失敗に終わっている。そのプレイヤーの話では闇爺さんが案内する時にはそもそもマップが別物に切り替わるんじゃないか? とのことだ。


「ほれ、着いたわい」

「おお、それっぽい雰囲気出てるな」

「きゅう」


西部映画に出てきそうな押し戸を開けて中に入る。窓が一切なく暗めの照明だけの室内、フードを深めに被った怪しげな者、仕事道具らしきピッキング道具を手入れしてる男、奥のひと目で只者じゃないと分かる受付けらしきやさぐれた女性。正しくアウトロー、日陰者の溜まり場って感じの場所が広がっている。


「じゃ、わしはこれで失礼しようかの。後のことは彼女に聞けばよい」

「はい、わかりました」

「ちょ、ジジイ!また勝手に新人引っ張って来たのかい。というか人に押し付けて帰るなっつってんだろうが!」


受付にいるやさぐれた女性、名前はたしか……。


「はぁ、あのクソジジイはいつもいつも……。と、見苦しいとこ見せたね。あたしはビエラよ。で、あのジジイが連れて来たってことは客じゃないんでしょ」

「はい、ここに所属したくて来ました」


闇ギルドの窓口担当NPCであるビエラ。彼女は一言で言うと苦労人である。まず闇爺さんの勝手なスカウトの対応をいつも任され、クエストでの苦情を回され、やらかした事件の後始末をさせられるなど闇爺さんの尻ぬぐいばっかやらされている。

だからか事情を知るプレイヤーなどからはやたらと生暖かい目で見られたりする。たまに社会人らしき人がそっと涙を拭いたりもしばしばだとか。


ビエラの話はまぁ要約すると所属の利点とギルドの掟についてだ。

闇ギルドの利点、というか機能は長くなるから省くとして掟のほうはざっくり纏めて以下の3つだ。


闇ギルドに関して吹聴してはならない。

所属してることをギルドメンバー以外に知られてはならない。

極力ギルドメンバーを標的にすることを禁ずる。


これを破った場合はすぐさまギルドから追放……まではいかないが重いペナルティーが課され、何度も続くと流石に追放される。


「はい、これで手続きは終わり。あとこれね、さっきも言ったけど無くしちゃだめよ」

「はい、わかりました」


適当に返事をしながらビエラから黒い宝石が飾ってある首飾りをもらう。これは特殊アイテム『闇ギルドの証飾』だ。これがあれば闇ギルドがある街中ならいつでも闇ギルドの個室にワープ出来る。というか道がわからないからそれでしか来れない。破棄、売却不可でデスペナでも取られないので無くすことはない。


もう事前にやることも全て済ませた。いい加減転職クエストを受けるとするか。


「早速ですが、適正ジョブを見せて頂いても?」

「はいよ」


ビエラが答えると同時に目の前にジョブの名前が並んだウィンドウが現れる。そこには数十とジョブが並んでおりこれら全てが現在俺が転職出来るもののリストとなる。


「どれどれダンジョンメイカーは……あ、あれ? どこにもない。どういうことだ!?」


ウィンドウを何度もスクロールしながら探すがやはりダンジョンメイカーって名前のジョブはどこにも見当たらない。俺は嫌な予感を覚えながらもビエラに尋ねる。


「あ、あのダンジョンメイカーってジョブを知りませんか?」

「……」


が、何も答えない。それどころかまるで聞こえていないように微動だにしていない。これは完全にNPCに対して役職外の質問した時特有の反応だ。


「ねぇ!知らないんですか!」

「……」


縋るように問いかけるもやはり反応はない。と、大きな声を出したせいか周りのプレイヤーたちにも聞かれ、ひそひそしたかと思ったら嘲笑めいた囁き声があっちこっちで漏れ出す。それに耳を済ませてみると「あいつ知らないの?」「情弱乙w」「HPぐらい見ろよ」と声が拾えた。


そこである予想に思い至ってしまった俺はその場で慌ててログアウトした。


その後飛び込むようにPCに立ち上げ《イデアールタレント》の公式HPに入る。そして震える手でバッチノートのページをクリックし開く。そこには俺がしていた中でも最悪の予想がそのまま書かれていた。


―― 一部の著しくバランスを壊す恐れのあるジョブが削除されました。代わりにそのジョブの能力を分けていくつかの新しいジョブが追加されており、複数人によるダンジョンの再現を可能に……。


そこまで読んだ俺は母さんがご飯よ、と呼びに来るまで茫然自失としていたのであった。

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