第15話 『郡魔の巣窟』

日も変わって今いる場所は調教職テイマーギルド。

そこから俺は真っ直ぐ受付に向かいある転職クエストを受けることにした。


「……はい、審査が終わりました。問題ないようですので今からでも眷族所有資格の試験が可能です」

「お願いします」


『転職(タレント)クエスト《永遠の友を》を受注しました』


これは魔法使いにもあった派生転職クエストの魔物使いバージョンだ。と言うわけでこれを……。


「達成しました。この子です」

「……はい問題ないようですね。合格おめでとうございます」


『転職(タレント)クエスト《永遠の友を》をクリアしました』


速攻でクリアする。だって条件が従魔の進化2段めまであげるだからすでに満たしているのだ。そして次もまたクエストを受けて。


『転職(タレント)クエスト《魔を率いるモノ》を受注しました』


ほい、完了報告っと。


『転職(タレント)クエスト《魔を率いるモノ》をクリアしました』


こっちも従魔の総数が5以上という条件なのですぐに達成と。これで俺のジョブ魔物使いは契・群魔物使いとなった。何がどう強化されるかと言うと契はプレイヤーと同じく復活出来る従魔の眷族化、群は従魔数に応じた強化と経験値配分の調節と中々のものだ。だが本命はここから。


「昇級試験の申請をしたのですが、出来ますか?」

「少々お待ちを…………契と群の才を確認しました。問題なさそうですね。我々は貴方さまが魔の旗となられることをお祈り申し上げます」


『転職(タレント)クエスト・2nd《我らが魔の旗》を受注しました』


セカンドジョブへの転職クエスト、通称“昇級クエスト”。他ゲームでいうなら2次職に該当するものになるためのクエストだ。これは少しスキルに補正が入る程度だった派生とは段違いに強化される。


その分だけクエスト難易度も跳ね上がる。このように。


『郡魔の巣窟を制圧 達成率0/100%』


郡魔の巣窟とは10層を超える野良のダンジョンだ

これはつまり俺がホームのエリアでしたのと同じことを10層を超えるダンジョンの『郡魔の巣窟』でやれって意味だ。10層規模のダンジョンのモンスターを狩り尽くして占領しろって普通に考えて頭おかしいよな。


つっても魔物使いジョブだと時間は掛かるが言うほど難しくはない。うちの戦力で……進化2段階を50、3段階10ぐらいとファストと俺本人あればどうにかなるか。実をいうともっと連れて行きたいがこれ以上は隠れての移動がしんどい。兎をあんまり大量に連れてるとこを見られるとうちのダンジョンと結びつけるやつが居てもおかしくないからな。


まぁこれでも大丈夫だ。なんだってファスト以外は『繁殖』スキルで増やせるし。それでも半数ぐらいは死ぬと思うから帰ったらまた兎農場で従魔にする子を選別しないとな。


という訳でやってきたは2ndステージの草原エリアにある中規模ダンジョン『郡魔の巣窟』。ここは昔あった要塞跡地を亜人型モンスターが占領して巣にしてるって設定の場所だ。数多な亜人の軍勢が蠢く兵どもが跡、それがここ『郡魔の巣窟』なのである。


あ、ちなみにステージ境界を超えるために戦うステージボスってのもあったけどそれについては省略ね。ぶっちゃけオークキングのほうが強かったし、その上こっちは推奨難度のパーティーどころかレイド規模……結果は言うまでもないだろう。


「あまり時間をかけ過ぎても仕方ない。最低3階層まで一気に殲滅せよ!」


6匹1組の全10組が進化2段階めの個体をリーダーに据えて下層全域に散らばる。俺とファストは後方で指揮、強敵が出ると応援に出るなどだ。その形であっさりと5階層までを制圧に成功したが、6階層から一気に敵が強化されたので作戦をかえる。


「ここからは攻めるんじゃなくておびき寄せろ、それを各個撃破する!」


足が速い部隊をつりに使い俺がその場で塹壕を作成して待ち構える。敵が来ると俺を含めて遠距離攻撃が出来る兎たちも一斉射撃を浴びせ続ける。ちまちまそれを8階層まで続けていたが進化3段階めのオーガが混ざりだしたせいで塹壕が瓦解する。オーガは漏れなく『破壊』というオブジェクト、装備の耐久を大幅に削りとるスキルを持ってるからだ。


そうなると攻めに戦略を変えるしかなく、被害が酷い部隊を待機してた隊とシャッフルして回復しとを繰り返し凌いだ。それでも制圧を完了して10階層のボス部屋に着くまで予想通り半数ほど兎の数を減らされた。その間『繁殖』で十数匹増えたがボス戦を考えたら誤差の範囲だろ。


「ふぅ、流石は《イデアールタレント》の2次転職クエスト。無駄に力入れてやがる」


やけに仰々しいに扉を開きボス部屋に侵入する。待っていたとばかりに奥にいる鎧を着込んだ人型のシルエットが悠然と立ち上がり手を挙げ振り下ろす。するとどこともなく亜人型のモンスターの軍勢が溢れ出し俺たちの行く手を阻むように猛然と走り寄ってくる。


「ファスト以外は取り巻きの足止め、ファストは俺と一緒にボスに突っ込むぞ!」


『郡魔の巣窟』のボスモンスター亜人軍王デミレギオン。名前に負けず放っておくと制限なく取り巻きを召喚しては強化するというかなり面倒くさい類のボスだ。ただしスキルが召喚と補助に偏っているため本体はボスにしては弱い。はずだったんだが……。


「くそ、取り巻きに身代わりスキル持ちが混ざってる!? 盾持ちを優先で潰せ!」


β版にはなかった取り巻きが増えて若干だが強くなってる。身代わりだけでなくバフスキル持ちまで追加されてんな。仕方ない、ここはちょっと強引にでも攻め落とす。そこでちょこっとだけ『調教』スキルで身代わり役を拝借。指揮系統増えるから嫌だったんだがコイツらなら突っ立たせてるだけで役立つから別にいいだろ。だがこのまま敵の身代わりが増えるのは不味い。


「もうマジで時間かけられね。ファストあれでいくぞ!」

「きゅう!」


今日まで俺だってダンジョン作りばっかしてた訳ではない。今のように転職クエストは自分で走り回るしかないから戦闘の練習ぐらいしていたのだ。

まずデミレギオンを取り囲むように岩柱を乱立させる。そこにファストが紛れ岩柱を足場にして空中を跳び回る。オークキング戦にて閃いたこの空中殺法エアリアルスタイル。あの時のことを思い出しこれが一番この子にあっていると判断して今日まで暇な時にコツコツと練習していた。


そこにさらに蹴兎になって得た『蹴砕』スキルが加わる。このスキルは『蹴撃』スキルの打撃属性を増大させる自己パッシブスキルだ。打撃は耐久破壊を得意とする物理属性、つまりは武器防具を着ける亜人型にはめっぽう刺さる。


デミレギオンは縦横無尽に跳ぶファストを捉えられず、容赦ない蹴りに為す術もなく鎧を剥ぎ取られる。こうなればやつの防御は紙同然で見る見るうちにHPがなくなっていく。軌道が読まれないように俺も岩柱を操り『跳躍』の方向を微調整し続けるという徹底ぶりだ。


途中でパターンが変わり取り巻きが増量されたが身代わりを奪い続けたお陰であっちの部隊は死にやすく、こっちの部隊は死に難くなっていたため数は問題にならずボスの攻撃パターンが変わっても対して強くなかったのであっさり俺たちの勝利で決着がついたのであった。


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