第187話 本戦ー2日目・その1

更新再開です!


――――――――――――――――――


―― 『怪人の巣ヴィランズ』の拠点。


「……で、あの後混乱に乗じた『陽火団』にコアごと逃げられ、狙ったかのように突如地中から湧いたモンスターどもと混戦になり撤退。同盟での作戦は失敗か、けっけっけ」

「まあ、そんなとこだ。まったく俺様も協力したってのに情けねぇ話だぜ」


そこでは今、滑りとした皮膚と蛙頭をした怪人、スリップフロッグとボサボサと飛び跳ねた白髪で小穢い白衣という如何にもマッド・サイエンティスト然とした老人が顔を突き合わせていた。


この老人、名をグールドという彼は『怪人のヴィランズ』生産部隊の統括……つまりはクランのプレイヤーを怪人足らしめているものたちの纏め役だ。


クランのメンバーたちが望んだ怪人にするためのアイデアを出し、それを纏めてチームで研究を重ね、最終的にアバターに手を入れるのが彼の仕事だ。


「しかも、そん時に出たなんか変な鼠だか兎だかがうろちょろして何でもかんでも食い荒らすせいで素材集めもままらないときた。ほんと嫌になるぜ」

「お陰で、まともに戦える準備が整ったのが2日目も半分過ぎた今となったわけか、けっけっけぇ!」

「笑い過ぎだ、クソジジイ。あんたこそ調整ミスってねーだろうな」

「生意気言うんじゃないよ。わしがそんなヘマするわけないだろ」

「へいへい、そうですかい。ならいいんだよ」


何とも気軽な様子で悪態をつきあっているこのふたりこそ『怪人のヴィランズ』を支える幹部だったりする。


今この場にはないクランマスターを加えて3トップで運営されているのが『怪人のヴィランズ』というクランの構造だ。


スリップフロッグが戦闘の、グールドが生産の、クランマスターがふたりを通して全体の指揮を執るのがこのクランの基本方針でもある。


「あんたらはそんなことより、例のぷ……何とかいうガキをどう追い詰めるか相談でもしてな。わしは作業場に戻る」

「そんなの言われずとも――」


最後に軽口を叩き、持ち場に戻ろうしたその時だった。


「あ、兄貴! フロッグの兄貴ーっ!」


外で警戒に当たっているはずの鳥型怪人(まだ飛べない)が血相を変えてふたりがいる部屋に駆け込んでくる。


「なんだ騒々しい。なんかあったのか?」

「敵です! 拠点に侵入しました!」

「ああ? なにやってるんだ外の連中は……で、数は?」

「ひとり、なんですが……」

「なんだ、歯切れの悪い……誰が侵入して来たんだ」

「それ、がッ――!?」


嫌な予感を覚え問い詰めるスリップフロッグに鳥怪人が敵の詳細を伝えようし……突然崩れ落る。


「―― よう。はじめましてだな」


そして時代を間違えた不良っぽい格好の男……ヨグが崩れ落ちた鳥怪人の影から姿を表す。


その手をよく見ると指がメカニックに組み変わっていて、針のようなものが突き出しているのが分かる。これを打ち込んで何らかの状態異常を付与し鳥怪人を落としたのは誰の目からも一目瞭然だった。


「お前は、『無器』のヨグか!」

「ったく、嫌なことに有名になったもんだなおい」


本当に嫌そうな顔でため息をつくヨグにスリップフロッグはすかさず掌底を放つ。


「『大滑だいかつ』、はぁっ!」

「うおっと」


即座に腰辺りをスラスターに変えて噴出し、ホバー移動で回避したヨグはどうどうとじゃじゃ馬でも宥めるような仕草でスリップフロッグに話しかける。


「そんな暴れんなよ。お前がここの幹部なんだろ、俺は話があって来ただけだぜ?」

「問答無用! 俺様にはねぇ!」

「せっかちな蛙だな……しゃーねぇか」


聞く耳を持たない様子のスリップフロッグにやれやれとばかりに肩をすくめてヨグも戦闘態勢に移行する。


ちなみにグールドは戦闘になった時点で巻き込まれてはたまらないとお手上げのポーズで壁際に避難している。


「『大滑』!!」

「はっは、面白え! マジで重火器やレーザー兵器を滑らしやがった!」


ヨグが身体の各部を変形させて怒涛の銃撃を放つも、スリップフロッグはこれらすべてを受け流す。


嵐のような弾丸やレーザーの雨に、押されるどころか、むしろ押し返してヨグの身体を粉砕せんと迫る。


「よっしゃー! このまぁ……うっ、な、これは」


このまま戦闘が膠着するかと思われた矢先……スリップフロッグの動きが突然止まる。身体が激しく痙攣し、動悸が止まらなくなる。あまりの苦しさに思わず膝を折るスリップフロッグは恐らく原因である男を見上げて睨み付けた。


「う、ご……何、を」

「お前のその『大滑』だが、恐らく効果はお前が“どんなものでも見て触れた対象に一定の滑ることが出来る摩擦力を付与する”ってものじゃないか。だから光が滑るなんじゃデタラメなことが起きる」

「なっ……ぜ」

「うちんとこにはムカつくぐらいに分析が得意なババアいてな、癪だがそいつに聞かせてもらった。ファッションジョブで皮膚も摩擦軽減に蛙みたいものを。恐らく生体装備に改造してノックバック効果を極大化した腕も付けてるな。その会わせ技で目の可視域とかも弄り、ここまでにしたのは感心するが……ちっとばかしその目でも見えない自作の不可視性ガスを撒いてもらった。悪く思うなよ、お前がそんだけ強かったってことだ」


それはヨグなりの称賛だった。


実際、ヨグはその価値なしと思うものには出来るだけ手を抜く。エネルギーだ何だと高コストな戦術で、節約がもはや習慣になっているヨグがここまで手の込んだ不意打ちを仕掛けるのはそれだけ相手を強者だと認めた証だ。


これなら大人しく聞いてもらえるだろうと、ヨグが次の言葉発しようとした丁度その時、緊急の知らせを受けて駆けつけて来たあるプレイヤーがいた。


「これはいったい、なんの騒ぎだ」

「ボティス、総裁……」


それは異形蠢く上位陣クラン『怪人の巣ヴィランズ』を統括するクランマスター……ボティスその人であった。


――――――――――――――――――


未だに待って下さった読者の皆様、大変お待たせしました。


更新からまさかの10ヶ月ぶりとなってしまい、本当に申し訳ございません。


なぜこんな事になったのか、少し事情を話ます。

更新を休んだ当時、作者は腕に痛みと共に軽い神経麻痺が発症し薬指が上手く動かない状態でした。


直日で病院に診たところ、首に異常があったようで……それが精神的ショックとなってスランプまで発症したのがことの経緯です。


幸いその後に治療およびジムでの矯正運動などで今はそれらも改善し、すっかり元気になり、ついでにニートから脱して仕事もしていますからご心配なく。


仕事もあるので前と同じ更新ペースとは行きませんが、これからもコツコツと書いて行きますので応援よろしくお願いします! <(_ _)>

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