第188話 本戦ー2日目・その2

復帰の労いコメントの数々、ありがとうございました!


お陰で帰ってきて良かったと思えました、これからもよろしくお願いします。


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筋骨隆々の巨体に光沢のある漆黒の肌。


頭には大きな巻角を生やし、口の間には鋭い牙が何本も覗く。


目も白目の部分が黒く、瞳も赤いが鋭利な縦瞳孔になってるなど……まさしく悪魔らしい悪魔の姿形を成している。


「ほう、あんたが『怪人のヴィランズ』のクランマスターか」

「いかにも。我が『怪人のヴィランズ』クランマスター、ボティスである」


廊下の奥からその異様な姿を現す『怪人のヴィランズ』クランマスター、ボティスの見た目を一言で表すなら“悪魔”としか呼べないであろう。


この完成度に思わずヨグすらも感嘆の息を漏らす。


足から頭の天辺に至るまでオリジナルレシピで改造されたボティスの身体は、ファッションジョブを織り交ぜたにしてもかなりのハイレベルの造形が成されている。


「そこの爺さん。こりゃあんたの作品か」

「そうとも! どうじゃ、格好いいじゃろ」

「おう、中々いい趣味してるぜ爺さん」

「そうじゃろ、そうじゃろ。お前さん見る目があるのう!」


少なくとも生体改造に関して自分をも上回る。そう感じ取ったヨグは心からの称賛を送る。


それに気を良くしたのか片隅の物陰に隠れ、ことの推移を覗き見ていたグールドが自慢気に声を張り上げる。さっきまでこそこそしてた様子はどこへやらだ。


「それで、今度はあんたが俺とやるのか」

「違う違う。というか我、戦闘はからっきしだから」

「……その見た目でか?」

「ぶっちゃけ我のはほぼコスプレみたいなみたいなものだからな! 我の役目は後方でどっしり構えて偉そうに命令することだ!」

「ぐ……がっはっは! そんなでのこのこ俺の前に出て来やがったのか、やっぱお前らおもしれぇな!」

「そうであろ、そうであろ! いつも楽しくが我らのモットー故でな、ふはは!」


何故かヨグが笑い出すとともに緊迫してた空気が霧散し、双方から高笑いが轟く。


しれっとグールドもその中に交じる中、ひとりだけ流れについていけて無いスリップフロッグだけがその蛙顔でも分かるほどに困惑を顕にしていた。


「こほんっ……それでわざわざだけしてまで、我らに話とはなんだ」


笑い合って暫くし、わざとらしく気を取り直しさっきまでおちゃらけた雰囲気を引っ込めてボティスが本題に踏み込む。


そう、ヨグは今回襲撃に際してここの者たちをまだ1キルもしていない。殺した方がいい場面でさえ不殺を貫き通し、ここまで乗り込んで来ている。


「単純な話だ、テメェら『怪人のヴィランズ』は俺の傘下へと入れ」

「何?」


このヨグらしくないと思われる行動それらすべてはこのため。


プレジャの予想通り、ヨグはこの『怪人のヴィランズ』というクランが痛く気に入っていた。


改造系のスキルでの特殊装備……それを利用して全身を生体改造し趣味のために己が身を顧みないやり方と、それを実戦でも使いこなせるようにした情熱に惚れ込んだのだ。


今まで他のクランなど大して興味のなかったヨグはクランの後輩たるプレジャとの対戦の時に初めて彼らのことを知ったが……ひと目見た時から是非こいつらと遊んでみたいと、そう思うようになって今に至る。


それらの経緯を丁寧に話し、再度答えを促す。


「で、どうすんだ。もし受けるなら、ここまでお前たちを制圧した俺の技術の提供も確約する。悪い話じゃないだろ?」

「……結論から言わせてもらうと、傘下に入ること自体は別に構わない」

「ボティス総裁!」


そしてボティスから出た返答、実にあっさりしたものだった。

横で推移を見守っていたスリップフロッグが声を荒げるも、まあ落ち着けとボティスがそれを制して自分の考える語り出す。


「別にいいではないか。正直成り行きで上位陣クランなどと呼ばれてここまで来たが、我々の目的は最初から現実では出来ないほどリアルな怪人コスがしてみたいってぐらいの集団だ。むしろ『戯人衆ロキ』ほどの力ある集団が後ろ盾になるのは歓迎すべきことだろう」

「いや、ま……そうなんっすけど」

「それにだ……」


そう、彼らは元が所謂エンジョイ勢から結成されたクランだ。


それが変わったのは装備を作るグールドが偶然生体改造の技術の才能を開花させ、スリップフロッグが隠しジョブを見付けてからのこと。


これによりずば抜けて秀でた『個』と、それに率いられる変則的な戦術を使う強力な『群』が誕生した。


その力で破竹の勢いに乗り実績を積み上げて、結果的にここまで来たのが『怪人の巣ヴィランズ』という上位陣クランの成り立ちだ。


「我は、リアルに怪人ごっこ出来ればそれでいいのだ! 上位陣クランのプライドがどうとか、ぶっちゃけ面倒くさいしどうでもいい!」

「あんた、ついにそれ言い切ったな!?」

「けっけっけ! 相変わらずお子様だの、わしらの頭は」

「ふっはっはー! 何とでもいうがいい、我の心はいくつでも少年と決めているのでな!」


唐突に実情をカミングアウトしたボティスに違うベクトルで呆れた幹部ふたりを見ても彼は構わず高笑いを響かせる。でもそれを諌めたりはしなかった。


実際にこのふたりも根っこはボティスと同意見であり、偶然にのし上がったせいで集まった期待とか羨望とか嫉妬とか……そういう上位陣クランへの特有のものが鬱陶しくなっているのも事実だったからだ。


「なら、傘下の話受けるってことでいいんだな」

「ああ、それでいい……が、我らからも条件……いや希望を出していいか」

「ああ? 何だ希望って?」

「我々にとって、この《イデアールタレント》にはまだ足りないものがある」

「足りないものだぁ? んだ、そりゃ」

「すなわち……ヒーロー役が足りんのだ!」


勿体つける言い方でボティスは一度溜めを作っては力強くそう言い切った。

それでもまだ足りないらしく、ボティスの熱弁は続く。


「それもただの英雄っぽい芝居だけして欲しいわけではない、格好よく変身したり、必殺技など華麗に悪を裁く……そういう格好からも正に少年たちが憧れる、そういうヒーローがあって欲しいのだ! 我らは!」

「つまりは変身ヒーローみたな連中を拵えて今よりもっと特撮っぽいことしてぇってことか?」

「そのとーおり! やはり貴殿は実に話が分かるな!」

「つっても、そんなもん俺に言われてもよ……ん? いや、待てよ…………ちょっとうちの“ボス”と連絡取っていいか」

「うむ? まあ、構わんぞ」


まさかの趣味全開の提案に首をひねり掛けたヨグは、そこでふっと閃いてクランのボイスチャットを開く。


「ははっ。喜べ、テメェらの願い……もしかすると叶うからもしれねぇぞ」


そこで暫く相談したかと思うと……おもむろに顔を上げてニヤリと悪い笑みを浮かべたヨグはこう言い放ったのであった。


――――――――――――――――――


※ストーリー補足


プレジャ:皆さん忘れてそうだからいうと一応は主人公のプレイヤーネーム。なお、あまりこの名前で呼ばれることはない模様。


ヨグのいうボスが誰を指すのかは『第176話 本戦へ向けて』を参照してください。

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