第186話 本戦ー1日目・その8
視点戻ります。
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―― イベントマップ、地下深くのどこか。
「初日どんだけ暴れてんだ。全員血の気多すぎだろ……」
「きゅう」
「それ、今散々煽って来た後輩くんが言う……?」
自分も開幕そうそう大乱闘が勃発するという現場にちょっかいを出したのを棚上げしてヘンダーの鋭いツッコミが入る。
それには素知らぬ顔で肩をすくめ俺は何も言わない。あいつらがドンパチ始めたのはあちらの勝手であって俺のせいではないし、『陽水』を奪った時だってその時にもっとも有効な手段を取ったまでだ。
「後輩くんがあると陣地構築ほんとに楽だね。何せ拠点ごと地下を動き回れるんだから」
「って言っても結構神経使うんだぞ、これ。戦闘中に咄嗟に……とかは出来ないからあんまりアテにはしないでくれ」
「分かってるって」
と、そんな俺が今どこにいるかと言えばもちろん安全な拠点内。それも俺の魔法で地中をステルス移動させている拠点にいる。
これでも相手のスキル次第ではバレるが、そこはうちの技術屋ヨグがおわすので色々とジャミング加工が済んでいたりする。
「で、俺たちは初日には下準備だけで隠れて静観……だっけ?」
「そう。私たちの弱点を敢えて言うなら……戦闘要員みんなが長期戦には向いてないってことだからね」
「……確かに。俺とか結構高価なものをガンガン消費する前提だから日数単位での戦闘は避けたいな」
ダンジョンで補給し放題な通常サーバーと違い、ここは資源が制限された特殊なサーバーだ。
そんなところでいつもの調子でガンガン、ポーションや魔石使ってたらあっという間にリソースが尽きる。特に今回は予選と違ってみんなと分けて使う必要があるからな。
それにヨグはポーションはともかく、魔石……というより魔力そのものは作れないらしい。『変換術』は仕組みや構成要素を正確に知るのが大前提みたいで、魔力とかいう架空の物質まではどうしようもないとか。
だから今は隠れてフィールドの資源を回収、制作する必要があるのだ。
「で、最終日全力で暴れると」
「大まかな予定ではね。まあ、ヨグくんは予定あるから2日目には活動するらしいけどねー。ってそれより後輩くんあの人形何、いつの間にあんなの作ったの?」
「ああ、あれか。あれは俺が一番最初に作った魔術の発展型……模倣魔術『フェイカー』の産物だ」
自慢気に胸を張りながらヘンダーに『フェイカー』について説明する。
魔陣刻士の取得の際に出来たあの魔術は実を言うとずっと改良を進めていた。
当初はまだ見た目の動きを模して生物そっくりにする程度だったが、今は内側……つまりは内臓の動きすら再現した完成度となっている。そこに『映身』を被せてようやく今のメキラの新スキルを騙せる域に達する。
まあ、そこまで出来たのは日常的に身体改造しているヨグの知識と監修があってこそだけど。俺ひとりだったら絶対に作れないよ、あんなの。
それにあそこまで精巧なのは製作期間も何日も掛かるってのに……連中、遠慮なく壊しよって。お陰で巨大『陽水』を丸々頂けたからいいんだけどさぁ。
因みに『陽水』の中身は俺とヨグで分けている。俺は魔術、ヨグは『変換術』のリソースに出来るからな。
「それにしてもここにずっと隠れているってのも退屈だねー」
「とか言って、本当にじっとだけしてるつもりでもないだろ?」
「それは当然」
俺がそう聞くと僅かに嗤う気配を見せるだけで先は語らない。今は答えないと言外に示しているのだろう
「まあ、こっちも嫌がらせするけどさ」
「ふーん、後輩くんの嫌がらせって?」
そのくせ自分は聴いてくるんだもんな、この人……。
まあ、俺の方は別に隠すもんじゃなし、いいけども。
「忘れたのか? うちには食いしん坊なモンスターが居るのを」
「ああ、餓鬼兎とかいう。その子達を放ったの?」
「うん、もちろんたっぷり食えるようにキメラに改造した上でな」
ちょっと口とか胃袋周りを強化して、もっと色んなもの食うようにしてある餓鬼兎をイベントマップには解き放ってある。ほっとくと勝手に増えてマップの素材を食い荒らすことだろう。
地味ではあるが、これで他のクランは中々困るはずだ。そしてもちろんこの妨害はそれだけが目的ではない。
「それで資源枯渇したらこっちも困るんだけど……」
「準備の2日あれば素材農場が回せるから別に問題ない」
「素材農場?」
聞き慣れない単語に首を傾げるヘンダーに俺のダンジョンにある素材農場の仕組みをざっくりと解説する。
「へぇ……なるほどね。前から後輩くんのキメラ研究素材の出処だけはよく分からなかったんだけど。そうなってたのか」
「ま、そういう訳でクイーンのスキルまで考慮に入れると最終日にはこっちだけ素材が取り放題な状況が出来上がる」
「いいじゃん。とっても私好みだよ、後輩くん。これは最終日が今から楽しみだね」
そこまで言った後、ニヤッと悪い笑みを浮かべて顔を見合わせた黒騎士と魔法使いの高笑いだけが、地上に届かずに響き渡るのであった。
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