第185話 本戦ー1日目・その7

―― 『陽火団』と『Seeker's』の戦いが終わった後の拠点内。


そこにはクラリスたちを退け、拠点屋上まで悠々と上がっていく4人の姿があった。


「さっきは助かった、カグシ」

「ん!」


メルシアにお礼を言われたカグシが力強く頷く。

カグシは表情変化にも声色にも現れる感情の起伏が微細で分かりづらいが、知る人が見ればかなり嬉しいそうだと分かる。


「でも、今のでどれぐらい減った?」

「結構……減った、かも?」

「はは、そうか。なら、早く拠点に戻らないとな」

「ん……」


何とも大雑把なカグシの返答に苦笑い浮かべながら、小さな頭をわしゃわしゃと撫でるメルシア。

カグシ本人も嫌がることなくそれを享受し、気持ちよさそうに目を細めてさえいる。


「おっと、言ってる間に着いたか。んじゃ、おっかない門番もシメたことだし、早いとこ『陽水』を……」


ひとしきり戯れてくるカグシの様子を見て、これなら大丈夫だろうと判断したメルシアがここへ来た目的を早急に片付けようとするも……ことは、彼女らにそれをくれない。


『おっと、それはちょっと待って貰おうか』

「この声!」

「居るのか!」

「みんな、あそこよ!」


不意に降って湧いた宿敵の声に、騒然となった場の注目はメキラの声で一点に集まる。


注目したその先には憎たらしい笑みを浮かべて浮遊するひとりの魔法使い……プレジャがなんの気負いもなくそこへ佇んでいた。


『まずはありがとう、派手に暴れてくれて。お陰でとても助かった』

「っざけんな! お前にためじゃないっての!」


不遜な態度でそう言うプレジャにバッキュンが怒りを込めた銃撃を放つ。

が、それプレジャに届くことはなく『リジェクトシールド』に阻まれ、閃光と爆発に飲まれて消える。


『いきなり撃つとは、ご挨拶だな』

「ちっ、噂のバリア……闇属性でも剥がれないとかウザ過ぎっしょ」

『はっはっはっ! そこが俺の取り柄だからな!』

「むっかーっ! ほんとこいつムカつくー!」

「で、何しに来たんだ。もし例の決着とやらここで着けてくれてんなら喜んで相手するが……」


安い挑発に激昂し闇属性の弾を連射するバッキュンを涼しげに見下ろしているプレジャにメルシアが問う。


それを聞いたプレジャはニヤリと口角を上げてメルシアを見返して答える。


『いや、今回は別件だ。なーに大した用事ではない。ただ……『陽水』はこちらが貰い受けにきただけだ』


プレジャがそう発した次の瞬間だった。


周りの地面に光の線が走り、模様を書き出す。その範囲はかなり広大であり、そこそこの高さにある拠点の屋上でも全容が把握し切れないほどだったが……。


「な、これは……!」

「魔法陣よ!」


状況からしてそれが何なのかなど明白であった。


『陽火団』の拠点を中心に囲って展開されている魔法陣からは“枝”のようなものが伸び『陽水』を覆っていく。


その“枝”は間にある障害物などお構いなく進み……触れたものを一瞬で蒸発させる。


「うお!? 何だこれ!」

「全員、一旦避難して! この枝は高密度の光エネルギーの塊よ、絶対に触れたらだめ!」


ボイズチャット越しにまだ拠点内にいる他の多数のメンバーたちにも警告を飛ばし、4人は自分たちで素早く避難を開始する。


「はーはっはっ! やることがいちいち派手だな、あいつは!」

「笑って場合じゃないでしょうが! というかバッキュン遊んでないで『陽水』を撃って!」

「ご、ごめんメキラ……さっきのでMPもポーションも尽きちゃって闇属性付与出来ないかも。でへっ☆」

「あ、あんたねー!!」


珍しく冷や汗をかくバッキュンといつもの怒号を放つメキラを他所に行動を開始した小さな影がひとり。


「……いくっ!」


術者を殺せば止まるかも知れない。それに賭けたカグシがありったけの自己強化を施して飛び出す。


「逃さない! 解放リリース!」

『おっ!』


さっき『陽水』の自爆を防いだ時同様、また陽炎のように像がブレたカグシが驚異的な跳躍力で上空高くに飛び込みプレジャを守る『リジェクトシールド』と激突する。


今までに無いほど激しい閃光を撒き散らす『リジェクトシールド』は、果たしてカグシの大剣の一撃にて粉砕された。


そのまま大剣は振り抜けれ、その後ろにいたプレジャの胴を薙ぐ、両断する。


だが……。


「土の、人形……?」

「うそ、『探知』には確かに人の反応があったのに!?」


どうやらここにいたのはただの囮だったらしく、カグシが薙い胴からプレジャの模した土人形は端から崩れていく。


彼らが“人形”に気を取られている間に魔法陣の効果が完了し『陽水』は“枝”に覆い尽くされ光の幕に包まれる。


『それではこれにて失礼する。また会おう、次は最終日にだ!』


恐らくスピーカーでも仕込まているのだろう、頭から響いたその言葉を最後に土人形の残骸さえ崩れ……物質化した光に運ばれて高速で離れる『陽水』とともにプレジャの気配は完全に消えた。


こうして、3クラン共同の元に行われたこの戦いは、その最大の成果だけを横から現れた魔法使いひとりに全部掻っ攫われるという結末に終わったのだった。

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