第184話 本戦ー1日目・その6

『Seeker's』と『陽火団』の抗戦が本格的なった戦場は今……光線の複雑な軌道が絡まった糸束を彷彿とさせるほど空間を埋めていた。


「ど、お、わ! 射角エグ過ぎる!」

「ぐっ! うざっ、たい!」


『陽火団』お得意の連携魔法の元放たれたレーザーは、さっきまでのただ直線で飛んでいただけのレーザー群とはわけが違った。


光属性を持つジョブが増えて、レーザーをバトンリレー方式で多重制御出来るようになったそれは以前までの、よくて水属性のメンバーが水面で反射を行う程度だったが……今は違う。


制御を分担することで自由度を上げて曲線の軌道までを描けるようになっているレーザーは空を飛ぶ蛇が如く銃弾を避けて、吸収・相殺を免れてはまた一方的に届いているのが現状だった。


「ふふふ、これではさっきと何も変わりませんね~」

「やべー、『陽火団』の連携力ちょっと甘く見てたか」

「ちかちか、目が回る……」


目まぐるしいレーザーの軌道には驚異的な反射速度を誇るメルシアやカグシも手を焼き、今まだ致命傷を負わないようにするのがやっとだ。


「『Seeker's』のナンバーワンガンナーというのも大したことないんですね~」

「あ゛?」


そんな中でどうにかレーザーをかき消そうと奮闘していたバッキュンに、クラリスの何気なく放った挑発が届く。それがいけなかった。


「ふーんなるほどなるほど……そんなにガチのあたしと射撃戦がしたいわけね……OK、よーく分かったよ」

「おっと、これは……」

「あちゃー……」


バッキュンの中の何かがブチ切れる音が、少なくとも『Seeker's』の仲間たちには聞こえた。


「全機、あたしに合わせろ!」

『仰せのままに――』

「―― 『霊偽トレース』!」


霊偽トレース』……自分が使役する憑依体を思考操作で操縦を行うスキルを発動し、バッキュンの周りを漂う拳銃のリビングウェポンたちが整然と並び立つ。


「ファイヤーッ!!」


軍隊を連想させるほどに規則正しく発砲していく銃弾の雨。


『陽火団』のレーザーは今まで同様をこれを避けよとするも……本来の射線を無視して横や上下にスライドする弾丸に虚をつかれ、あっさりと打ち消されてしまう。


「なっ!? なに、今の弾は!?」

「あたしの霊たちは弾にも憑いてるって動画で散々言ってたでしょうが!」


―― これこそが、死霊術師ネクロマンサーとなったバッキュンの本領だった。


バッキュンは普段から装填の利便性を上げるために特殊アイテムの『魂』を銃弾にも込めている。


そこでされに死霊術師ネクロマンサーとなって新たに手に入れたスキル……『死霊術』によりアレンジを加えられるようになっている。正確に言うならば素材を使い、憑依体の強化が可能とするという効果を持つ。


例えば適正がある属性魔力を素材に憑依体に付与したり、今のように弾丸の速度にも対応する移動スキルを内包モンスターの魂を素材に特殊な挙動をする弾を作成したり……。


「まだまだ、こんなんじゃ足りないっての!」


憑依した弾に『霊偽トレース』を通して制御し、まるでレーザーが自ら吸い込まれるいくように弾を宙に置いていくバッキュン。


弾速はレーザーが圧倒的に早いはずなのに、バッキュンのあまりにも高精度の射線予測のせいで、弾速の差すら感じないほどだ。


その実現のためにバッキュンは数百は超える弾をひとつひとつが個別に制御している。


本人曰く「こんなの銃弾を銃そのものに見立てれば簡単」とのことだが、それが可能なのははやり天性の射撃センスと空間把握能力を持つ彼女だからこそだ。


多少は憑依体のAIが微調整をしているとは言え、驚異的な射撃能力は間違いなく世界でも有数の才能であろう。


「ほんと化け物、ね!」

「褒めてくれてありがとう! まあ、とか言って今あたし死ぬほど頭ががんがん鳴ってるけどねぇ! でも、このあたしが、撃ち合いでナメられてたまるかってのよォー!」


もちろんこんな無茶がバッキュンに負担にならないはずがない。今現在で過大な情報を処理しているバッキュンの脳は悲鳴を上げている。


そうだとしてもバッキュンが引きも怯みもしない。ここだけは決して譲らんとばかりに。


―― 彼女、『Seeker's』のナンバーワンガンナーのバッキュンはとにかく負けず嫌いなのだ。



しかし、それでも『陽火団』は一歩も引かない。実力と相性で劣るならそれすら飲み込む物量で押し切ろうとレーザーの密度を上げる。



「――やっと隙が出来たな」

「しまっ……!?」


闇と光のせめぎ合いに夢中になり、ほんの数秒の、数十センチほどの僅かに出来た隙間を縫って行ったメルシアが懐を喰い破る。


「あー……やられたわ~」


驚愕の顔のまま切り裂かれたクラリスは……若干の悔しさを滲ませながらも嗤う。


「……でも、あなたは道連れよ」

「っ、こいつ腹に『陽水』を!?」


万一の場合、こうなった時に他のメンバーの、何よりクランの勝利のために確実に敵を葬るがため体内に仕込んでいた自爆トラップ用『陽水』の水が薄れ始める。


小さいながらも膨大な量のエネルギーを内包する『陽水』が解放されたら近くのものは一溜まりもないだろう。


「カグシ!」

「ん!」


メルシアに遅れて後を追っていたカグシが庇うように解放寸前の『陽水』の前に割り込む。


普通に考えれば無意味な行為。どころかただ犠牲がひとりからふたり増えるだけの愚行の……はずだった。


「―― 解放リリース


そう呟いた瞬間、カグシの像が激しくブレた。


大剣を盾代わりに影にして自身とメルシア庇い立つカグシに、ついで灼熱の白光が降り注ぐ。


大剣が瞬時に赤熱し、カグシ本人さえ溶け出すかと思った矢先……何かが砕かれる音とともにカグシ状態が装備含めて元に戻る。


エネルギーが解放され拡散するまでの短い間、そんな感じで燃えては戻ってを繰り返していたカグシだったが、破滅的な光が止まりやっと一息つく。


その頃には激しかった像のブレも大分減っていた。そして……


「このっ!」

「よくも!」


……解放に伴う閃光が晴れてふたりの姿が見えた瞬間、怒りの形相で魔法と銃弾をばら撒いたメキラとバッキュンにより残りの『陽火団』も倒され、その場の戦闘は幕を閉じたのだった。


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