第183話 本戦ー1日目・その5

『陽火団』拠点制圧が始まってしばらくして。


いつもの4人が拠点の頂上近く、もう少し登ればバッキュンの射程内という階段に着いた時に、そこを塞ぐようにしてそのプレイヤーは居た。


「よくやって来ましてね、『Seeker's』の皆さん~。直接顔を合わせるのははじめましてですね。『陽火団』のクランマスター、クラリスです」

「ご丁寧どうも。こっちは『Seeker's』の……と、これだけ言えばわざわざ自己紹介はいらないよな」

「ええ、そうですね~。皆さん有名人ですので」


挨拶を返そうとしたメルシアだったが……クラリスが放つ剣呑な空気に無駄口をやめすぐに臨戦態勢にうつる。


「一応確認です。ここには『陽水』を潰しに来たのでしょう?」

「ああ、もちろん」

「なら、お互い御託ここまでしましょうか。いきますよー」

「うわっ!?」

「弾幕ぶ厚っ!?」


クラリスののんびりとした合図とは裏腹に光線の雨あられが猛然と狭い通路を埋め尽くす形で降り注ぐ。


『Seeker's』メルシア、バッキュン、カグシとPSが化け物じみた者たちは先読みして撃ち落とすか防ぐ。


「チャンバラや豆てっぽうはリーチ無くて大変ですね~」

「うわ、こいつ思ったより性格悪いよキラっち!」

「それをなんでわざわざ私に向かって言うのかしらね? うん?」


メキラも事前に対レーザー用の防御魔法を展開していたお陰で問題なく耐えてはいたが……。


「ああもう。あっちとこっちで、弾数違い過ぎでしょ……!」

「それならこのまま帰ってくれたらありがたいんですがね~」

「それは出来ないな。俺たちがこうしてるだけでもあんたは邪魔だろ」

「よく分かってるじゃないですか」


本来ならクラリスも彼らの相手をするよか、『陽水』を完全掌握するのに集中したい。あの規模の『陽水』を掌握出来たらほぼ間違いなく勝てると確信しているからだ。


とはいえ、それで今更死んでリスポーンしてはまた振り出しだ。だからクラリスからは邪魔者は排除しなくてもならない。


そのすべてを効率よく行うために、クラリスは巨大『陽水』という無限の弾倉の近くに陣取ることを選んでいるのだ。


「はっ!」


このままでは競り合っていては埒が明かないと、メルシアがダメージ覚悟で踏み込む。


持ち前の思考速度でクラリスが狙う射線を見切り、急所だけ庇ってあと一歩まで迫ったメルシアだったが。


「あらあら、せっかちはいけませんよ~」

「ぐっ!?」


恐らく何らかの手段で自動検知する魔法が作動し、クラリスの正面に光線のカーテンを張る。


急制動を掛けたメルシアだったが、止まり切れずかなりのダメージを追う羽目になった。


「こんなもんまで仕込んでるとは、噂に聞く以上の腕前なこって……」

「ならコアを触接狙って行ってはどうです? 私を相手するより楽かもしれませんよ?」

「はっ、バカ言え。本当に破壊されそうになると俺らの拠点をがむしゃらに撃ってからこっちを道連れにして自爆するだろう、お前。コアを破壊するならその目障りな水風船を処理してからだ」

「あら、バレしまいまいしたか~」

「やっぱこいつ性格悪いよ!」


何だかんだ言って、現在の戦場の主導権は完全に『陽火団』が握っていた。


圧倒的なアドバンテージを握り、有利な環境に引き込んで敵を待ち構え、潰す。メルシアはこのやり方何となく既視感を覚えて……ああ、と気が付いた。


「なんつーか、あいつの戦法に似てんな……」

「ふふふ、そうですね。これはあの男への当て付けでもありますから」

「はっ、どうりでな……バッキュンじゃないが、あんたほんといい性格してるよ」

「褒め言葉として受け取っておきます~」


言葉の応酬が飛び交う中でもクラリスは手を緩めない。

絶え間なくレーザーを撃ち続けて、『Seeker's』の4人を釘付けにしている。


「どうするの? ちょっと早いけどあれ使う?」

「そうね……ここが切り時かしら。いいわ、遠慮なくやっちゃって」

「よしゃー!」


お許しが出たバッキュンが見た目に似つかない雄叫びを上げて、魔力を高める。


「目ン玉ひん剥いてよーく見よ! これぞあたしの新技!」


言うが早いか、発泡したバッキュンの拳銃から黒い、漆黒の弾丸が飛び出す。


一見それ以外特段何も変わったとこのない弾丸だが……唐突にその弾丸は近くのレーザーを吸い寄せて、相殺しだした。


「あらら、これは……そういう属性、でしょうか~」

「ご名答! 正確にいうと闇属性だね!」


闇属性、それはバッキュンが新たに発見したジョブ死靈術士ネクロマンサーに付随した属性だ。


彼女が愛用する魔法系ジョブ憑依術士コンバータが転職したサードジョブであり、その性能は前とは比べ物にならない。


「さらに……みんな出ておいで!」

『イエス・マイロード』


憑依状態の拳銃たちが、宙に浮いたまま思念らしくものを飛ばす。明らかに前よりAIレベルが上がりオートでも満足いく精度になったリビングウェポンたちが、ひとりでに照準を合わせレーザーを迎撃する。


空間を埋め尽くさんばかりのレーザーの圧力が減り、漆黒の弾丸が光を侵食いくさまはいっそ幻想的ですらあった。


「なるほど、つまりあなたは私の天敵、という訳ですか~」

「そういうこと」

「そうね……」


弾幕が薄くなったところを突き、『Seeker's』が今度こそ攻勢に打って出ようとしたが……。


「とっ!」

「っ!」


クラリスの後方で別のプレイヤー……恐らく遅れて到着した『陽火団』の他のメンバーが牽制の魔法を放ち、それを阻止する。


「……ならこっちもみんなで、最後まで足掻いてやろっか」

『はい!』

「ちっ、もう援軍来たのか」

「さあ、ここから私たち『陽火団』の本領です。とくと味わってくださいね~」


―― そうしてそこから、『Seeker's』と『陽火団』両巨頭の熾烈な戦い始まった。

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