第182話 本戦ー1日目・その4

3クランの同盟が結ばれて暫くして。

サーバー内時間で日も暮れようなって時間になって作戦が纏まった同盟はようやっと行動に打って出ることにした。


「切り込みは俺様たち『怪人の巣ヴィランズ』に任せろ! レーザーは片っ端から叩き落とす! 続け、野郎ども!」

「おう!」


多種多様な怪人がフロッグスリップの号令に合わせて飛び出す。


それを察知した『陽火団』の拠点からも呼応するように巨大『陽水』のほんの一部、すぐに掌握出来る分だけを分離させ、そこから空を埋め尽くさんばかりのレーザーが発射される。


『陽火団』もこのイベントのためにメンバー全体の強化に勤しんでいて、今やクラリス以外にも何人かの光属性持ちが誕生しているお陰で出来る防衛手段だった。


「『大滑』!」

「おでたちもいくぞ!」


だが、タンク役筆頭でもあるスリップフロッグと、スライム怪人たちがレーザー逸らすか受け止めて『怪人のヴィランズ』は止まらない。


「ぐぁっ!?

「手を緩めるな! 進め、進め!」


それでも光速の射撃すべてを捌くのは当然出来ず死傷者も出ているが、生体改造はに強大な生命力を齎す。


それもあって筆頭のスリップフロッグと何より怪人たちはその特有の頑強さにより突破力は一切衰えさせない。


もちろんその間も怪人たちも遠距離攻撃持ちが拠点に向かって反撃もしてみてはいるが、如何せんレーザーとリーチの勝負になると厳しく、どれも牽制か迎撃目的で届いてはいない。


なので彼らは敵を討つのではなく、魔法なり装備の特殊能力なりの手段でバリケードを設置することで後続の道を切り開いていく。


蟻やモグラなどの土いじりが得意な素体の怪人はこういう方向でも応用が効くのでそれは然程難しいものでもなかった。


結局、彼らが拠点までの道を確保した時には怪人の数は元あった半数以下まで減っていた。


そうやって『怪人の巣ヴィランズ』が開けた道をゆく集団がふたつ。続いて着いてきた『快食屋』と『Seeker's』のものたちだ。


「ご苦労。ここからは俺たち『快食屋』が露払いだ」

「はいっす! 野郎ども火を上げろ!」


拠点に侵入する際には当然、入り口を守っている『陽火団』の者たちとの戦闘になる。


ここの突破を担当するのは『快食屋』の面々だ。


前線に到着するや『快食屋』の支援部隊から料理が飛び交い、それを食らうモルダードが敵陣形の内側に躍り出る。


「モルダード! ここで食い止め……」

「ふんっ!」

「が!?」


そして大規模な混戦になった時に、モルダードの戦術は真価を発揮する。


「はっ!」

「な!?」


勇敢にも立ち塞がったひとりを即座に伸し、そいつを死角として利用し、不自然に曲りくねる腕が後衛を襲う。


「どっから手ぐあっ!?」


かと思えば、蛇が如く這った足がありえない角度で戦士を刈り取る。


「ぇ、足っ!?」


あらゆる角度に曲がり、陣形も何も無視して襲ってくるモルダードの攻撃はあっという間に敵を混乱に陥れ、混戦へと誘う。


だが、場がどれほど掻き乱されようとモルダードがそれに飲まれてブレることは決して無い。


むしろそれをきっかけにしてラッシュをかけ敵の懐を荒らし、連携を紙くず同然に破く。デタラメに魔法や矢玉が飛んできても瞬時に見極めて身体を変形し、するり躱してしまうのだから、質が悪い。


故に戦場に立つ彼はただ食らい、殴り、敵を葬るのみ。


「こんにちは『陽火団』の皆! そしてあばよ!」

「にゃはは! 快適快適~! 流石モルっち!」


そうやってモルダードらが開けた風穴に最後尾で着いてきたクランの『Seeker's』が乗り込む。


「で、とにかくバッキュンの射程内に『陽水』を納めれば勝ち、と思っていいんだな!」

「うん、そこまで行ったらあたしに任せといてよ!」

「いや、ここでも魔法ぐらいは届くんじゃないっすか?」

「それはやめておいた方がいいわね。多分、下手な破壊とかすると光エネルギーが溢れ出して周辺一帯が消し飛ぶわ。この中じゃバッキュンが一番安全に『陽水』を消せるの」

「ははは! 聞いた話によるとどうしようもなくなったら『陽水』を開放して自爆ってのはクラリスの常套手段らしいからな」

「やっぱおっかないすっね、あの人!? マジで頼むっすよ『Seeker's』の皆さん方!」

「おう!」


すれ違い様、忙しなく鉄板を焼いていた『快食屋』のサブマスとちょっとだけ話し、筆頭4人を先頭に『Seeker's』が『陽火団』の拠点に侵入を果たす。


目指すは拠点の屋上。『陽水』が最も近い高所だ。


「今度は『Seeker's』か! 連中の『陽水』だ、この先に行かせるな!」

「どけどけー!」

「んっ!」


内部警戒していた『陽火団』のメンバーが行く手を阻もうと防衛線を張るが、メルシアの剣速とカグシの破壊力の勢いに押されて紙障子のように破られる。


「左に行って……今度は右行ってまた左! その先に敵影3!」

「OK! キラっちの『探知』ってこういう時も便利だね」


後方で付いていく他のメンバーはスキルで地形を筒抜けしているメキラの指揮の元、待ち伏せを処理しながら拠点のマッピングをしていく。


「他のクラン撤退完了したって!」


この作戦の目的は消耗を抑えて、『陽火団』に対処すること。

だから役割が終わったクランは先に撤退する、という作戦行動は事前に決まっていた。


最初、道を切り開いた『怪人の巣ヴィランズ』逃げ、拠点入口で暴れていた『快食屋』もつい先程撤退が完了したと連絡が来た。


「逃げ足早いな、両方とも。うちの部隊からコアの居場所を割れたとよ」

「ならここから二手に分かれましょう。いつもの4人で屋上へ、他のメンバーたちは拠点を制圧しながら『陽火団』のコアを確保して!」

『ラジャー!』


あとは自分たちが役割を果たすのみと『Seeker's』の面々が気合を入れる。


―― そうして『陽火団』打倒戦、終盤へと推移していくこととなった。

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