第181話 本戦ー1日目・その3

3人称視点です

――――――――――――――――――


「今の攻撃……」

「ええ、あいつらっすね」


遠くから飛来した極彩と赤の光を見た料理人と大男……『快食屋グルメ』の面々がそちらに目をやる。


「一応……」

「まあ、確認に行ってみるべきか」


そう言いつつすでに歩き出した『快食屋グルメ』の精鋭たちは、到着するまでの暇潰しとさっきの一戦を振り返る。


「まさか、スライムっぽいモンスターが来て食ってみればプレイヤーだったとは……」

「そもそもスライムを食わないで下さいっす……」

「思いの外強くてな。仕方がなかった」

「ふーん、やっぱあの怪人コス集団も厄介っすか」


モルダードらは最初、ただの素材集めをするだけの予定だった。

あんなことになった発端はその時にいきなり味方とはぐれたスライム怪人に遭遇したことにある。


どう見ても人には見えなかった故にモルダードはこれを素材回収用のモンスターと断定し、攻撃した。


ただスライム怪人はほぼ打撃が効かずにモルダードは思いの外苦戦、そういう時にするいつもの戦術……相手の部位千切って焼いては食うしで、料理バフを得た。


この時、間が悪くスライム怪人はクラン内でもまだ実験段階の巨大化改造を施されていて……あの怪獣対戦みたいなことなったのが大まかな経緯である。


「バフ消し、上手く効いてるようで何よりっすね」

「ああ、効いてなかったら今頃レーザーでバラバラになっていただろうしな。それに今までは料理バフがごちゃまぜになるのが問題で色々な足かせになっていから、本当に助かった」


そんなこんな話ながらロキがあったはずの場所に来てみる『快食屋』だったが……。


「逃げた、か」

「しかも痕跡を見るに拠点ごとっすね……」


例の攻撃が来た場所はすでにもぬけの殻。

あるのは魔法で地面がボコボコに荒らされた痕跡のみで、恐らくここに居たであろうもののお得意の魔法が使われて逃げた以外は何もわからない。


この結果はある程度予測していたために大して失望もなく、引き返そうとしたモルダードたちだったが……。


「お?」

「あ」


そこでさっきまで『陽火団』とドンパチしてたはずの『Seeker's』と『快食屋グルメ』がかち合う。


「ここに来てるってことは……」

「やつを探しにな。ま、もう居ねぇようだが……」


先頭に立っていたメルシアが荒れ地を見てから呟く。


「んで、どうする。ここでやりあうか……と言いたいところだけど」


一瞬、緊張が走るも『Seeker's』側の戦意がないことに気付き、『快食屋』も一応戦意を解く。それでも警戒したままにしていると肩をすくめたメルシアがある方向を指差す。


「そう構えるな、というかあっち見てみてくれるか」


その言葉に少しだけ視線をやろうとして、それを捉えて目を見開く。


そこにあったのは言わば巨大な水晶。ただし、民家程度なら余裕で覆い隠せるほど巨大な水晶型の何かだった。


それに心当たりがあったモルダードは、思わず呟く。


「あれは、『陽水』だったか。だが……」

「でっっっかいっすね。しっかしあんなもんどうやって……」

「うちの鑑定士の見立てだと、ずっとホームかどっか隔離されたエリアで隠れて魔法陣で溜めてそのまま持ってきたんじゃないかと言っていた。つまり野郎の疑似隕石と似た発想だな」

「なるほど……」


メキラが解析した情報を元に巨大『陽水』の状態を共有する。

で、肝心の立ち役者のメキラはというと……。


「どうも最近活動の話を聞かないと思ったら、あんな物騒なもんコツコツと作ってたとはね。クラリスおばさんはあっそろしい」

「直径何メートル……いや、何十メートルありそうね。それとバッキュン、妹からクラリスは私と同年代と聞いたけど……おばさんとはどういうことかしらね?」

「は、はは……冗談じょぐえ!? カグシちゃん、お助け~」

「自業、自得」


うっかり失言を漏らしたバッキュンを締めていた。


「『陽火団』はあの馬鹿デカい『陽水』の火力で他のクランを全部一掃するつもりだ。でもそれは」

「ああ、こちらも困るな」

「幸い、あれは魔法陣に魔石ぶっこんでとにかく量を溜めただけみたいでな。要は魔法スキルで制御するため掌握するのにまだ時間掛かるとのことだ。それが終わる前に強襲する……」


と、そこまで話した時、林の向こうで近付く異形の影がいた。


「その話、俺様も混ぜて貰おうか!」

「モンスター? いや、怪人! ……『怪人のヴィランズ』か!」

「どうどう! こっちも争いに来たんじゃない、だから武器を下ろしな。とにかくこっちの話を聞いてくれ!」


蛙頭のするりとした皮膚の怪人……『怪人のヴィランズ』の戦闘部隊の隊長スリップフロッグが両クランの話し合いに割り込む。


で、彼らの話までを統括してみたところ、『快食屋』は食料を、『Seeker's』は手札を、『怪人のヴィランズ』は装備を修理する素材を節約したいとのこと。


「つまり、ここの全員お互い最終日まで温存はしたいけどあの『陽水』をほっとくのも無理……って認識いいか?」

「ああ」

「おう、あんなんでゲームオーバーは願い下げだかんな」


ここに集うクランたちの最終目標は皆一点。

今や闇クランなどと宣い出したあの憎き宿敵に引導を渡すこと。そのためにもそれらを台無ししかねない元凶をほっとくわけにもいかない。


「んじゃ、『陽火団』打倒に向けてここにて3クランの一時同盟を宣言する!」


そういう利害の一致の元、『Seeker's』『快食屋』『怪人のヴィランズ』の奇妙な同盟が始まった。

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