第180話 本戦ー1日目・その2

Side クラン『天下独尊の剣』


「誰か、さっさとあいつら仕留めて来い!」

「仕留めろって……あんなのとどうやって戦えっていうんだ」


恐らく『怪人のヴィランズ』の巨大化した怪人を食ったモルダードが、どういう作用か同じく巨大化して戦う戦場にたまたま居合わせた『天下独尊の剣』の者たちが慌てふためく。


「何なんだよ、あんなの人間の戦いじゃないよ」

「遠くから見てもどっちもやべー動きしてる……」

「割り込んでも一瞬で潰されるぅ……! っていうか逃げっ」

「どこに逃げんだよ……ここがすでに拠点だぞ!?」

「ええい、やっぱどいつも使えね! 俺が直接出る! 他は支援でも飛ばしてろ」


もう統率もへったくれもなくなったクランメンバーたちを見限ってシグルズは黄金の長剣を掲げて、いくつものバフを受けては戦場に飛び込む。


聖騎士パラディンのスキルを全開して斬りかかり、怪人の方を襲う。足首の健を狙い、輪切りするようにして斬撃が放たれる。


「おっら!」

「あ? 何こいつ? おでの邪魔するな!」

「がはっ!?」


が、怪人(恐らくスライム怪人)はなんの痛痒も感じていないかのようにシグルズを蹴っ飛ばす。


「なんっつ……馬鹿力だ」


それだけで何十メートルも吹き飛んだシグルズはなんとか耐えてスキルですぐ回復したものの、それでも衝撃が抜け切らずに起き上がれない。


だが、この戦場はそんな彼に休みなんて与えなかった。


遠く、遥かに遠くから無数の光の線が飛来し周辺一帯をめちゃくちゃに焼き払う。


「今度なんだよ!?」

「あの向こうから来てたぞ」

「超遠距離からレーザー……『陽火団』か!?」

「発生源ってあそこか? いったい何百メートル離れてると……」


槍の如く降り注いだ光柱は巨大怪人を貫き、バラバラに切り分けていく。

先に気付いたモルダードの方は何かの操作したかと思えば小さくなり、どこかへと身を隠す。


「ぎゃあ!?」

「ぐぇっ……!?」


結果、その近くで密集していた『天下独尊の剣』の者たちの方は咄嗟に避けられたはずもなく、レーザーの流れ弾が何人かを貫かれて被害を被る。


「クソがっ!」


それ見たシグルズが苛立ち任せになんとか起き上がり、レーザーが来る方向……『陽火団』の方を見て全力で駆け出すが、彼はその判断をすぐに後悔する事になる。


「なっ、ぐ、がっ!?」


もう『陽火団』の姿が見えてきたと思ったその時、弾丸の雨が降り注ぎシグルズを撃つ。


「ぐっ……! こんなこと出来んのは、『Seeker's』のゲテモノガンナーかぁ!」


持ち前の頑丈さとしぶとさを頼りに弾丸の雨を抜けてきたシグルズが悪態をつく。


目を凝らし、よく見てみると自分の目指す場所では『陽火団』と『Seeker's』の一部が抗争を繰り広げていた。


シグルズはそれで、そもそもこっちに届いていたのは全部あれの流れ弾だった、ということに気付く。


「舐め腐りやがって……!」


その事実にプライドを傷付けられたシグルズががむしゃらに両クランが開いた戦場の真っ只中に躍り出る。


「お前ら全員覚悟しろ、今からこの俺が……」

「誰か知らないけど、邪魔だから退いて!」

「しゃらくせーッ!」

「なっ!?」


前方にいたガンナー……バッキュンによって滅多撃ちにされるも、そんなのはお構いなしに身体で受けて距離を詰める。


遠距離相手に耐えて突っ込んでカウンターを打ち込む。耐久力が高く、即座に自己回復が可能な聖騎士の定番戦術のひとつだ。


特にシグルズは聖剣の効果で自己回復の速度は常軌を逸しているから、バッキュンの集中砲火を受けても暫くは耐えることが出来る。


「間合いに入ればこっちのがッ!?」 

「物騒なだな、おい。うちのガンナーはお触り厳禁ですよ、っと!」


だが、彼の刃が届くことはなく……メルシアの万型の太刀オール・スイッチが突進に割り込まれて、胴の鎧の隙間に叩き込まれる。


「メルっち、サンキュー! 助かったよ!」

「どういたしまして。それにしても頑丈だな、あいつ」

「ジョブは聖騎士パラディンで、手の武器は聖剣ね。驚くぐらいに彼のジョブとマッチしてる特殊能力揃いよ、一応気をつけて」

「なるほど。どうりで硬いと思った」

「くっそ、が……!」


多大なダメージエフェクトを撒き散らしながら、それでも踏ん張ったシグルズは再突撃するも……


「動きも悪くない、けど遅い!」

「こ、のっ!」


あっさり躱されてノックバック効果で構成された万型の太刀オール・スイッチ強制的に後退させられる。


「んっ!」

「うわああああああぁ~~~!?」


そこで連携が難しく、部隊編成から独立して動いていたカグシがすっ飛んでくるシグルズをフルスイングでさらに弾き飛ばす。


アメコミばりの吹っ飛びぶりを見せたシグルズはながーい間空を舞い……受け身も取れずに落下。


「またなんかき……って、クラマス!?」

「なんで空から落ちてるんすか!」


そこは奇しくもなんとか混乱を収めた『天下独尊の剣』の本陣の真っ只中だった。


「クソ、クソクソクソクソがーッ!!」


滞空してる間にも全力で自己回復をしてたのが幸いしたシグルズは生き残りはしたものの度重なるダメージで装備にガタが来ていた。

もうさっきのようには行かなくなる。それを理解したシグルズが喚き散らし、せめて最後の足掻きをしてやろうと立ち上がる


「こうなりゃ、もうヤケクソだ! 今度俺が突っ込めば盾にしてでもお前らで戦闘に割り込め! そうすりゃ――」


だが、そんな彼の決意が実を結ぶことはなく……。


「クラマス、あっちを!」

「あ? ……あ」


唐突に迫ってきた極彩と赤の光に飲まれて……『天下独尊の剣』は全滅したのだった。


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