第179話 本戦ー1日目・その1
Side クラン『天下独尊の剣』
―― イベント本戦の開始、その少し前。
「おい、そこテキパキ動け! もうすぐ本戦始まんぞ!」
「こっち補給来てねーぞ!」
「記載間違ってんだろうが!」「テメェ伝達ミスだろ、俺はちゃんとやってる!」
「んだと?!」
ランダムマッチングで時間がある限り予選ポイントを集めていた彼ら『天下独尊の剣』は忙しく走り回っていた。
戦闘、景品交換、用途選別と役割分担して勧めているものの……上手く足並みが揃っていない。
「なにやってんだ、どいつもこいつも使えねぇ!!」
真っ白に金の線が入った全身鎧を来た美形の男が、その端正な顔を歪めて他のものたちにさらに叱咤する。
この男こそが『天下独尊の剣』のマスター、シグルズ。
メインのジョブは
偶然、その
「これはチャンスなんだよ! あんなネカマ信者どもや頭も身体もネジ曲がった変態どもじゃねぇ! 俺たちこそ真に優れてことを証明する!」
と、この通りとにかく傲慢で他者を見下す悪癖のある男だった。
それ故、前々から他のプレイヤーのもてはやす上位陣のクラン……特に『Seeker's』や『
まあ、実際は大した接点もなくその両クランからは気にされないどころか、この間まで存在を認識すらされていなかったのだから、ただの逆恨みだが。
「しかも今回はなんだ、ルキとか、ラキとかよく知らない訳わかんねぇヒール気取りまで出しゃばってやがる!」
そんな男が当然、突然現れたダークホースのクラン、なんてものにいい感情を抱くはずもない。
何もかもが目障りとばかりに憤っていたシグルズは暫くすると気が済んだか息をつき、こう喚く。
「まあいい……どうせ、今回は絶対に負けるはずがねぇ!」
彼にはそれほどの自信があった。
今回の本戦に向けてそれだけの準備はしているからだ。
「全員に
「へい! 何度も確認しましたんで」
「くくっ、他の連中もまさか当日に予選ポイントを蕩尽してまで
性格がどうあれ、圧倒的な強者たちを出し抜き、群雄割拠と化したクラン対抗戦の中で勝ち抜いて来たシグルズだ。彼もいい加減な心構えで上り詰めたわけではない。
《本戦に出場する皆様、もうすぐ対抗戦・本戦が始まります》
《後5分で時間加速のサーバーに接続しますので、指示に従いバイタルチェックを――》
開戦時間が迫り、安全確認のためのシステムアナウンスが流れた後、カウントダウン表示が本戦参加者全員にポップアップする。
「お、始まるぜ。お前ら、ヘマして俺の足引っ張んじゃねーぞ!」
「はは、もちろんですよ、クラマス」
「それにどうせ余裕っしょ。こんなんまでしてるの、きっとうちらだけですって」
「ああ、何よりこっちには最強の聖剣がいるからな! クラマスと聖剣が揃えば向かうところ敵なしだ!」
《―― サーバーに自動で転送後、暫くして本戦が始まりますので同時に配布される追加ルールを熟読していただき備えてください》
《それではご武運を》
準備も終わって各々騒ぎ、士気を上げていた頃そんなアナウンスと共に場に居たもの全員が視界が切り替わる。
移動した場所は予選でのクラン拠点と同じだったが、変化は追加ルールが書かれて運営メールにともないUIの方に現れていた。
「現実時間1時間、加速時間で24時間ここにいるんすね……」
「現実時間基準で1時間ごとに休憩で加速時間で2泊3日……ってことになってるからそうだろうよ」
時計もリアル側とは別にこの加速空間専用時計がUIに追加されていた。
それの現在時刻は正午12時、これが明日の正午12時になると一旦『外』で休憩してから再開……という段取りになっている。
「睡眠もちゃんと取らないとデバフを受ける、とあるな」
「めんどくせーな。ゲームの中でわざわざ寝る必要あんのかよ」
「しゃーないっすよ。完全没入型VRの内部時間加速は法律厳しいっすから。むしろ、許可取れただけ大したもんす、運営も」
「ま、だな」
ルールを確認しながら愚痴を零す。
基本のルールはほぼ同じだが、勝利条件は予選とは少し違って総合貢献度のみで決まる。だからか拠点が落ちても終わりではないが、12時間……現実で30分の間、クラン丸ごとサーバーから一時退出される。
なお、一時退出の際に休憩以外の一切の行動は許されない。
「守りは考えなくていい! 俺たちの戦略はとにかく攻めて攻めて攻めまくる!
それらのルールをクラン全体が把握したのを頃合いにシグルズが号令を下し、いざ出陣と勇ましく宣言しようとしたタイミングだった。
「な、なんだ!?」
「どわああ!?!」
「いきなり地揺れが……!」
「なん、だ、あのバケモンどもは……」
そこには怪人が巨体化したものと……それに合わせるよう巨大になったモルダードの姿が見えていた。
後に彼らの様子を見た者たちはこう語る……完全に像の戦いに混じってしまった蟻だった、と
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