第5層 新域編
第87話 星界術士
3rdステージ海原、その入り口の海岸。
俺は今から新しく得たジョブ
「ここで試すのはちょーっと不安だけど背に腹は代えられない」
この星界術士はあの訳わからないHiddenMissionで出る隠しジョブだけあり、どこの攻略サイトにも乗っていなかった。
その秘匿性を今後に活かすためにも目立つ場所で試し打ちとはいかないのが現状だ。
だから危険を冒してまで俺が唯一来れる3rdステージに来たわけだが……果たしてどうなることやら。
「きゅう」
「そうだな、ここで愚痴ってても何も変わらないし。どにかくやるか!」
星界術士のスキルは『魔法・星界』と『伝魔・天』。このふたつだ。
まず元々あった『魔法・大地』が変化して出来た『魔法・星界』の詳細だが……これがまた難物だ。
『魔法・星界』
効果:土・光の属性魔法の適正付与及び補正・大。星に対する魔法干渉力に補正・小。
存在を聞いたこともない光属性もそうなんだが、星に対する魔法干渉力ってなんだよ。隕石でも落とせってか?
いや、普通に考えたらあのボス……サルタ・ガルノルの使ってた能力とかなんだろうけども。あれはどういう原理でどうすればいいのか見当もつかないしな。
「まぁ、手始めに軽く光属性の魔法から行こう」
こっちは要はあれだろ、エルが使って光操作してレーザーとか撃ってたやつだろ。
それなら簡単にイメージ出来る。と、軽い気持ちで使ってみたものの……。
「ぐ、ぎぎぎ! これめちゃくちゃ操作し辛いんだが!?」
「きゅう~」
……結果出来たのはふよふよと漂う蛍火みたいな玉だけ。ファストがぴょんぴょんと追いかけて遊ぶ、おもちゃにされる始末だ。
やってみて分かったんだが。これ、光の反射をすべて認識して制御しないといけないようだ。
魔法で何かを操作してもイメージが行き届かない部分は当然、物理演算の通りに勝手に動く。これが光の場合は小石や何なら空気中の塵の反射した光まで意識して制御しないと充全には扱えない。その光速の変化というものに脳がまるで追いつけない。
「属性に補正・大が付いててもこのレベルってのがシンプルにヤバくねーか?」
これ多分だが補正で粗が修正されてなかったらそもそも制御自体が無理なんだと思われる。つーかわざとそういう難易度に調節されたくさい。
ただ目に見えている光をちょろっと操るだけならいいが……エルみたくレーザー撃って鏡に景色を転写して立体マップを作るとかもはや人間離れし過ぎていて真似れそうもない。
「……まさにAIたるNPCにだけ許された技術って感じだな、あれは」
光属性が初期に扱えないように隠されている理由の一端もこれだろうな。上級者向けが過ぎる。俺だとすごい頑張ってちょっとした閃光弾作って目眩ましするのが今の限界だと思う。
正直、ちょっとあの『天鏡の水面』が使えるようになるかも期待していたんだが……その夢は脆く崩れ去った。
「これじゃセイレーン対策にならねー。はぁ……そうなるとあとは星に対する魔法干渉力ってのに賭けるしかないか」
それはいいのだが。はて、結局この星に対する魔法干渉力ってのはどこまでを指してるんだ。
「惑星でも行けるのか? だったら……おお!」
思い付きでいつものように、でももっと広く今居る星(と思われるもの)そのものをイメージして魔法を使う。するとこの前とは比べ物にもならない範囲が魔法の影響圏内に入ったのが感じられた。
「すげー……これがあったらサウスワンでやったあれ。エルの助けなしでも行けんじゃないか?」
そう思うぐらいにアホみたいな範囲だ。何せ前にある海面と海底を感じる感覚の差で海深がどれほどか大まかに分かるほどだ。
「これなら海面でも余裕で土属性で戦えそうだ」
元の力が順当強化されたのが分かっただけでも大収穫か。そうとでも思わないとやってられないともいう。
あとは……この『伝魔・天』ってやつか。これの詳細はこう。
『伝魔・天』
効果:一定のMPを消費し魔法の伝達距離を大幅に伸ばす。『伝魔・天』はY軸(高さの座標)が高い方向ほど効果が増す。
……つまりは空に魔法を届けやすくするためのスキルだ。
「やっぱ隕石でも落とせと? いや、まさか……本当に出来るのか」
お試しに頭上の空を仰ぐ。今はまだゲーム内時間でも明るく星は見えない。でもさっきの魔法を使った手応えからして恐らく……。
「うーん……………………お、あった!」
少しの間、目を瞑って集中。
魔法の範囲を上に上にと広げて。それを掴むように感じ取る。
これはもしかしてもしかするんじゃないか。そんなワクワクを抱きながら、掴んだそれを引っ張るように……。
「え……うわぁッ?!」
……しようよしたらMPが一瞬で空になった。
「お、おうぉ……嘘だろ。しかも今のちっとも動かせた気がしないぞ」
「きゅー」
「大丈夫だファスト。ちょっとMPを使い過ぎて驚いただけだから」
いきなり大声を上げたこちらを心配するファストを宥めてから、検証を続けてみる。で、結論。
「今の俺が隕石を落とすのは無理ゲー」
どんだけ近いのを試してもMPが足りない。一部の引っ張り込めたのもこの惑星めっちゃ近くて小粒なもの(それでも十分デカい)は一応ここの重力圏には持ってこれたみたいだけど……そういうのはひとつ残らず流れ星として燃え尽きた。
整理すると落とせるほどの大きのはMPが足りず、妥協した大きさだと大気との摩擦で燃え尽きる。これじゃ隕石は落とせない。
「結局何に使えばいいんだよ」
星への干渉とか言われてもこんぐらいしか思いつかねーぞ。
海でもある程度土属性が使えるようになった。少なくとも前ほど不利ではない。でもこれだけじゃセイレーンが呼ぶ魅了の軍隊とは戦えない。
「どうすれば……」
答えが出ず、つい海を眺めてしまう。もうすぐ夜の時間帯に移るのかその水平線から月が顔を覗かせている。
それを撫でるように揺れる波が何とも幻想的で……。
「月、波…………。あー! それだ!!」
「きゅ!?」
今思い付いたぞ。セイレーンのあのクソッタレ魅了軍団、それらを一掃しえる名案を!
「くくくっ。首を洗って待っておけよセイレーン。次会うその日がお前たちの命日だ! あーはっはっはっは!」
「きゅうー」
やれやれ感のあるファストの鳴き声を聞き流しながら。
俺はどこまでも広がっていそうな海に向かった大きく高笑いを響かせるのであった。
――――――――――――――――――
・追記
※本編に入る予定のない裏話
ここまで読んで下の方向限度に比べて上の限度高すぎでは?
と、思われるかもなので説明。
上の高さも実は現実で言う中層雲ぐらいまでしかない。主人公が接続したのはそういう感覚を広げられる別サーバーであり、タネを明かすと完全没入型VRの機能を利用した言わば錯覚トリック。
《イデアールタレント》の開発陣もサーバー容量が許すなら惑星の奥から宇宙の果まで作り込みだかったが……。資金不足と人員不足という最大の足枷がある限りそれが実行される日は遠い彼方である……orz(それに気付いたゲーム開発陣一同様子)。
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