第71話 『??』ー1

「何とか、成功したな。はぁぁー……」


渦巻く光の粒が消えて自分と眷属以外が消えた森の中で俺はそれはながーいため息をついた。


今回はマジでギリギリだった。


ホームの追放機能を利用した大規模奇襲。

『滅刀・シヴァ』があることと厄災鼠ディザスタチューの一斉デバフでの足止めがあったからこそ実行した今回の作戦。これが出来るからこそあんな無茶な契約してまで全プレイヤーに喧嘩を売ったとも言える。

まぁ少しでも成功率を上げるためわざと『映身』の偽装を解きシステムメッセージを見せるなど派手にやり過ぎたし、追放機能の仕様はここの運営の方針からして明日には修正入りそうだが……どのみちこんなこと1回限りしか効かないだろうしどっちでもいい。


それに結果だけ見れば綺麗に嵌ったように感じるかもだが実を言うとかなり際どかった。


まず追放機能の法則を割り出しホーム範囲を弄って調整する、と事前準備に攻略レース開始ギリギリまで時間を割き。不特定多数のプレイヤーに一定時間以上8階層留まらせるなど、ダンジョンの従魔を総動員しての大作戦を敢行。

それと同時進行で『Seeker's』のバケモノどもを相手していたのだから余裕があったはずもない。


「きゅう~」

「おお、ファスト。お前もグタグタだな。本当お疲れ様」


ファストも今までモルダードの相手をし、その途中にホーム内の転移移動機能で森側の領域に排出。それから即フルバフを掛けての『滅刀・シヴァ』を無理に口にくくり付けて使うまで指示されたのだからこうしてぐったりするのも頷ける。


「チチッ」

「ペストもお疲れ様。もう8階層におかえり」


この間予定通り眷属にした厄災鼠ディザスタチュー……ペストにも労い言葉を投げかけてからうっかり『病運』が発動する前で8階層に転移させておく。あの子も頑張ってくれたし『病運』の問題も何とかしてあげないとな。折角眷属にしたのにこのままだと満足に一緒にいることさえ難しい。


まぁ兎にも角にも……最寄りのセーフティエリアでも残り時間でここまで来れる場所はない。仮に来れても俺が再び籠れば確実にダンジョンを攻略するまでには至らない。つまりこれで……。


「今回の対決は俺たちの――」

「―― 混然消去カオス・デリート

「きゅ……!」


……勝ち、と。勝利を宣言しとうした俺を遮るように金属に掠れた声と共に極彩色の光が瞬く。

直前までのホーム内の人員表示と、従魔を使った索敵で見て敵はもうないと油断しきって俺の反応は致命的に遅れた。だから先に反応出来てファストに押され……突如と注がれた極光に飲まれるその子を俺はただ見ることしか出来なかった。


「なっ……誰だ!」

「……」


攻撃が飛んで来た方向にいたのはさっきまで何もなかったはずの空き地に佇むひとり巨躯の騎士。ただ騎士と言ってもその鎧に荘厳さはなく、真っ黒で歪な装飾は禍々しさを際立たせていた。

一言で言い表すなら暗黒騎士。それがぴったりな外見をしている恐らくカーソルからしてプレイヤーが俺の誰何には答えず無言で迫ってくる。そして再びやつの手から極光が溢れる始まる。これは……ヤバい。


「ぐっ、はぁー……」


ダンジョンの一番の奥まで転移して来た俺はすぐにスクリーンを展開し謎の暗黒騎士の姿を捉える。


「何なんだこいつ……いつの間に現れたんだ」


ホーム機能での表示になかったことから外に隠れてた。いや俺は従魔を使った索敵した時に『真鏡』を使って粗探しまでしたんだ。それでそうそう隠れられるわけ……

そこまで考えていた俺の思考次に飛び込んきた光景にかき消される。

暗黒騎士がぐっと足を屈んだと思った瞬間……視界から消えた。慌ててスクリーン多数及び拡大展開した。するとそこに鎧姿とは思えない速度でダンジョンの通路を爆走する暗黒騎士が辛うじて映し出されていた。


「んな!?」


あまりの光景に驚愕が声が漏らしてから、気付く。そうか、この速度なら遠くからライブ配信(『Seeker's』がやっていた)で戦況を見てからあのタイミングですっ飛んでくることは可能だ。

今も体当たりだけ上層程度のモンスターは粉砕しているし、相当な高レベル、高ランク揃えたプレイヤーと見るべきた。それも他のトップクランのメンバーと比べても遥かに、だ。


「もしかして噂だけある★4のランク持ちか? 4thステージ自体はあるしありえなくない」


ランクは★2は2ndステージ、★3は3rdステージでしかクエストを受けれない。4thステージ自体はあるんだから可能性はあるとの話だが……行く方法が見つからずまだ未実装だとの意見もあるプレイヤーランクだ。


もしそれならあの圧倒的な能力値も頷けるが……なんだ。何かが引っ掛かる。腑に落ちないような、それとも重要なことを見逃してるような。そんな違和感がモヤモヤとする。


「ってもう5階層突破されたのか!」


一応置いておいた5階層のボスはパンチの一撃で叩きのめされ、光の粒となり暗黒騎士はそれには目もくれず6階層への扉を出る。

文字通り破竹の勢いだがここからはそうは行かせない。今はたんまりある連結兎ラインラビットの壁と狙撃部隊をこいつに集中させて圧殺してやる。もし倒すのが無理でも疲弊ぐらいは……。


美神の歌ウェヌス・カント


暗黒騎士が手にインベから出した黄金の笛を持ち奏でる。

するといくつかのスキルエフェクトと思わるものが笛から発せられ今にも襲い掛かろうしてモンスターたちが動きを止める。そして次の瞬間……一斉に暗黒騎士に道をゆずるではないか。


「は? …………まさか、魅了の状態異常デバフ!? あれも未発見のはずじゃ!」


しかもあんな広範囲でとかもはや反則だろ、それ……。

もう何がなんだか分からず慌てるばかりの俺に遠慮するはずもなく、モーセのごとく割れたモンスターたちの間を悠々と拔ける暗黒騎士。

そのまま本当に何もなくあっさりと7階層に着いてしまった。そんなものがあると7階層のモンスターたちも抗える術はなくあっさりと8階層まで突破されてしまった。


「い、いやでも厄病鼠の『病運』リレーまでは死んでいない。8階層でやられたことをそっくりそのまま返してやる!」


そう意気込むも……ここまで来たらもうこの発言もフラグでしかなかったようだ。

8階層に着いた暗黒騎士は……何を考えてるのかその場で止まった。時おり自分のなんの状態異常デバフに掛かった確認する素振りはあるがそれだけだ。


「あんなことすると、デバフが嵩むだけだろ。何を考えてるんだ」


暗黒騎士の謎の行動に首を傾げているとついに動き出した。まるで居場所が分かっていたかのように祝福兎ブレスラビットなどは避けて、真っ直ぐにペストに向かって。広範囲の感知系スキルまで持ってるようだ。でもなんでそんなこと、その状態だと『厄再』に掛けられて終わりだけ……。


「もしかして……ッ」


俺がある可能性に思い当たり警告を飛ばそうとした時にはすでに遅く、ペストは暗黒騎士に事前の指示通りに『厄再』を使ってしまっていた。

その瞬間、暗黒騎士の黒い鎧が赤い線を描き脈動する。それで用は済んだとばかりにペストを踏み潰して光の粒に変え、その状態を維持したまま9階層に駆け込んだ。と、思ったら暗黒騎士はインベから精緻な装飾をした大剣を取り出し、そこに最初も見た極彩色と鎧の赤を混ぜて―― 一閃。


全削平定フル・デリート!」


それだけでついさっき死亡ペナルティーのクールタイムから復帰していたクイーン諸共、色とりどりの光に包まれて耐性を物ともしない圧倒的な火力により9階層のモンスターは全滅した。

さっきまで鎧にあった赤い線が消えたことからしてやっぱりあれはデバフを攻撃力かバフに転換する能力だったろう。


だが俺はそれにより9階層が惨状を迎えたと言うのにまるで目に入っていなかった。

だって暗黒騎士が取り出しその武器は、俺の記憶が間違いなければきっと……。


「……天賦装備ギフトウェポン


メインジョブのどれかを本来のジョブ枠を無視してセット出来る現在サーバー唯一無二の装備アイテム。


そしてそれは彼の『魔王』がβ版で『Seeker's』に宣戦布告した時に奪って、そのまま持ち去ってしまった宝。


「『魔王』……ヘンダー・ケル」


俺は呆然と自分をこのゲームに引き込んだ元凶とも言えるプレイヤーのネームをただ呟くしかなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る