第70話 ダンジョン・イン・レース-LAST
―― 『
「きゅう!」
「ふん!」
今そこではふたつの戦士がまたもあいまみえていた。
「あれがクラマスが言ってた眷属っすか……凄まじいっすね」
「やべー……早すぎて動きがまるで追えね―よ」
「俺はもう何してるのかすら分かんね」
外野で時折料理を投げる他のメンバーたちは急な開戦に置いていかれ完全にヤムチャ視点を味わっていた。
「どうした、蹴りに焦り見えるぞ? どうも他の用事があるようだな」
「きゅ!」
「普段なら憂いを晴らし、気持ちよく戦いたいとこだが……つい先程借りが出来てな。お前を野放しにも出来ん」
モルダード言う通り実際にファストは焦っていた。
8階層を中心に活動し主人からの最優先目標を達するため動いていた最中にモルダードに見付かったのは不運でしかなかった。任務の内容上、ずっと隠密行動するわけにもいかず見つかったのはある意味必然とも言えるがそんな事実は慰めにもならない。
こうしてる間にも徐々に主人に危機が迫っている。それを察しているファストに確かに焦りはあったが……それで悲観してるわけでもなかった。
「うわあああ!?」
「うおおお、なんであの悪魔、階層越えてまで追ってくんだよ!」
「つーかあれ8階層の固定じゃなかったのか!?」
だって自分の後輩が今も死力でその穴を埋めようと奔走していたのだから。
「なっ!」
「ちょ、
「なんでプレイヤー追い立ててこっち来るっすか、あいつ!」
唐突の乱入者に騒然となって混迷した戦況……しかしこれをある程度予見してたファストはすぐさま次の行動を起こせた。
貯蔵袋にある混乱薬を気化させ、今乱入してきたプレイヤー集団に吐きかける。
「あ、こいつ!?」
「きゃああ、お、お前ぇ!」
「ち、違う体が勝手に……」
「と、止まんね―!!」
「ぐぇ!?」「くそ、何がどうなってる!」
その結果……場は完全にパニックとなった。
あるものが剣を味方に刺し、或いは銃を乱射し、魔法を暴発させる。
皆が皆目まぐるしい推移に気を取られ、その隙きにファストは任務に戻ろうとするが……。
「逃がさん! お前だけはここで止める!」
「きゅきゅ!」
ひとりだけ平静を保っていたモルダードに遮られ、行く手を阻ばまれる。
ファストもそれに慌てたりはせず次善策だが、こいつをこの8階層に足止める出来るのも都合がいいと考え直す。それも自分の後輩……ペストが頑張ってくれたお陰だと思いながら。
こうして8階層の混沌を極めながら、その熱量を上げていった。
◇ ◆ ◇
―― 一方その頃、10階層ボス部屋
「3時方向に防御して。ふたり組みとメキラに牽制! メルシアの分身も休めせるな!
人形たちで圧を掛け続けろ! 弾も11、6、5時から同時に来るぞ受け流すか弾け! カグシが消えた、急襲に注意し……来た全力防御! ……だぁー! クッソ忙しいぃーッ!」
バッキュンがダメージを負い今まであった余裕が消えた『Seeker's』との戦闘は激化していた。
戦況の入れ替わりが早すぎる。俺がキメラのAIに仕込める動作じゃ対応しきれない。だから随時命令を下して臨機応変に動かすしかないのだが……それでもギリギリだ。
幸い『Seeker's』を動画から研究しメタを張れる素材はたんまり
あと地味にウザいのがおまけに着いてきたあの重戦士と魔法使いのコンビ。メキラあたりと意外と連携が取れているから合間合間にフォローが入れられて攻めづらい。
正直、一番消耗が激しいと思われるメキラだけでも落としたかったのにあいつらのせいでそれも叶いそうにない。
「やっぱなんでも思った通りとはいかないな……どうしたもんか」
スクリーンから見えるダンジョンの状況からして……もう少しでいい感じに仕上がる。
あと十数分。それぐらい耐えれば実質俺の勝ちまで持っていける。
すでに体を構成する肉の多くが落とされ、かなり小さくなったブロックラビットを見ながら考える。膨大なHPと各部位ごとに判定を分けることでデバフを切り離せるブロックラビットでも長時間の戦闘でそろそろ限界が近い。
『Seeker's』の猛攻は今も続いているし、このままだと1分持たずにやられて終わりだ。
「しゃあない、こっちも切り札投入だ。っらぁ! 出てこいや!」
活をいれるように声をあげてボス部屋に掛けていた魔法を解除する。
同時に鍾乳洞の石柱たちが崩れだし、その中から様々な武器類……プレイヤーから奪ったそれらが場に散らばる。
事前にその際の行動を仕込んで置いたブロックラビットは即座に体を変形しその武器をキャッチし構える。
「おいおい、とんでもねー第2形態もあったもんだな!」
「人様から盗ったもので武装してって流石にセコくない?」
ええい、セコかろうが勝てばよかろうなのだ!
才能に恵まれた輩にはそれが分からんのだよ。
と、心の中でこっちを罵るヘンテコガンナーにツッコミを入れてから戦闘に意識を戻す。プレイヤーたちから巻き上げた選りすぐりのレア装備を手に『Seeker's』に向かう。
それらを使い華麗に……なんて出来るわけもなくやたらめったらに振り回し、ぶっ放す。だって仕方ないだろ、数百点はあった武器の性能を全部把握してこいつに仕込む暇なんてなかったんだから。
だが、そこは腐ってもレア装備。ただすべてを同時に扱える手がある。それだけで今までよりブロックラビットの厄介度は跳ね上がる。
「気を付けろ! 武器の中に透明になるのと、音を立たせのがいる!」
「こっちの矢は分裂してる!」
「ぐぁ!? こ、このハンマー貫通ダメージ付きです!」
「遅いけど……めんど!」
「きゃぁあ! こっちはなんか軌道曲げて私だけ狙う弾があるんですけど!?」
現在のブロックラビットは何が出てくるか分からないびっくり箱のような存在になっている。いくら高い分析力と器量を持つ『Seeker's』のトップと言えどこれに対応できるまでには数分は要するだろう。
あとちなみに言うと罠芸の人が追っかけられているのはランダムで弾道が変わるだけの銃のはずだが……なんでホーミング弾みたくなってるんだろうか?
しかしこれでも……ほんの僅かに足りなかった。
「……が麻痺付与であの剣が物質透過、あれが属性矢付与で……最後」
「大体把握したか。相手さんの残り体力もあと少しだ! 一気に畳み掛けるぞ!」
こんな短期間、それも戦闘中に数十は投入した装備の詳細を調べ上げすでに共有まで完璧とは本当に恐れ入る。
メルシアの分身が注意を引くように接近する。それを引き金にするように他のメンバーも大技を準備していく。
「もう1発行くよー! 『
「……『破剣・クラッシャー』」
バッキュンが先程の一斉射撃の嵐を呼び、カグシが長大な……彼女さえも両手で支えざるを得ない鈍器ような大剣をインベから取り出す。
「お姉ちゃん私達も!」
「ええ、ちょっとしんどいけどまーちゃんの頼みなら仕方ないわね!」
「あんたもしっかり守ってよね」
「分かってる。ここが大一番だ、安心して溜めてろ!」
後方から魔力が高まり明らかに大魔法の準備が始まる。ブロックラビットもそれらに牽制するがメルシアの分身か重戦士の大盾に悉く阻まれている。
その間に弾丸の嵐が集約され、圧倒的な暴威を載せた大剣と共にブロックラビットを叩き潰す。それで体の大部分を喪いながならも残りを掻き集め再構築し生き残る。
だが、その悪足掻きも長くは持たず後方から迫ってきたカラフルな色を持った竜巻がその残り滓のような体を飲み込み粉砕していく。
それでもほんの僅か……それこそブロックラビットの核ともよべる器官、トリックスパイダーの糸が集中している脳が防御を固め辛うじて難を逃れる……。
……が、それを逃す『Seeker's』ではない。
「はいトドメ。もーらい!」
最大の防御を固めていた脳はメルシアの
次の瞬間ガチャンと音がなり、本当に俺が入った扉の施錠が外れる。
あと数分。あいつら相手に俺だけで持つか?
いや、出来るだけ持たせるしかない。それでもダメだった場合はもうどうしようもないってだけだ。
「やっとだな……お前とまともに顔を合わせるのは。一応言っとく。『Seeker's』のメルシアだ」
「……これはご丁寧に。こっちも改めて、プレジャだ。うちのダンジョンはどうだった楽しめたか」
「ああ、今のとこ概ねは満足だ。あとは……」
「あんたの素っ首取れば完璧よ!」
話す意思がありそうなメルシアに合わせ尊大な態度のロールを切らせずにいたが、せっかちな罠芸の人が割り込むように攻撃してきた。が、俺はすでにそこにはいない。
「素直に的になるわけないだろばーか。後ろだ」
「え!?」
「違う、上!」
元から素直な質なのか『映身』で隠れた俺の言葉にまんまと騙され、こっちを見失った罠芸の人を魔法で上がった天井から襲う。
でも他のメンバーには気付かれたらしく、天井から生やした石槍諸共にカグシあたりに吹き飛ばされる。
「だぁ……今のだけで瀕死だよ。どんなバカ力してんだ」
「あはは、お前そっちが素か。どうりでぎこちないと思った!」
「あ、マジ。俺的には結構上手くやったてつもりだったけど……」
プロであるメルシアの酷評に何気にショックを受ける。やばい、今になってちょっと恥ずかしくなってきた。まぁ、だから手を休めたりはしてないがな。
「お……と! ちったぁ話そうや。つれないな、もう」
「お生憎様、俺にはそんな余裕がないんでね!」
とにかく魔法で石礫やら土塊やら弾幕撒いて遠ざけ、時間稼ぎしてはいるが。『映身』での奇襲も通じないとなるといよいよ俺だと手詰まりだ。
この器量差で下手に正面勝負とかほぼ自殺行為だ、洒落にならない。だがどの道今もMPが尽きれば同じことだ……ここは、賭けに出るしかない。
「おい、そこの罠芸の人! 」
「だーれが罠芸の人よ! 私は……」
「そんなことより、これ取り返したくないか?」
「ああー! お姉ちゃんがくれたローブ! まだ持ってやがったのね」
「手に持ってるから今俺をやれば確実に落ちるぞ」
「言われなくても!」
「あ、このバカ! 戻れ!」
よし、釣れた!
「はい、いらっしゃい」
「ほぇ?」
俺は残っている魔力をすべて注ぎ岩石を蛇のように操り罠芸の人を締ばりあげる。特化した大地術士である故に可能な瞬時の魔法構築を利用した拘束技だ。それでも俺の腕で成功するかは賭けだったがどうにか上手くいった。
「さて大人しくしろ、さもなくば……」
別に長く引き付ける必要はない。あと1、2分ほど迷ってくれれそれだけで……。
そんなことを思っていたのが良くなかったのだろう。何より拘束してるからと油断しすぎた。いや、正確にこいつをどこか無意識的に舐めていたのだろう。その隙きを突かれた。
「こ、んの! 舐めんなぁぁぁあーっ!!」
「ぐっはぁッ!!?」
俺が何か言い終わるより前にお互いに絶対に避けられない距離で風の魔法が放たれる。まさかこの土壇場での迷いなく自爆という行動に対応しきれず俺はの顔面を思いっ切り風の塊に叩き付けられ奇声を上げて何メートルも宙を舞う羽目になった。
「ぐぅ、ははっ……ざまみろ。あと私は……マシュロよ。覚えてな、さい」
「く、そっ」
弱点属性を突かれあっさり消し飛んだHPを盗った装備の中にあって着けてた身代わりのミサンガを犠牲に食いしばる。
それでも衝撃は消えず意識が飛びそうになるのを何とか堪える。ここで昏倒にでもなったらそれこそ終わりだ。反省は後でいい。他に即死させられたよりはマシだ。今はこの状況を利用しろ。
まず『映身』で偽物の俺をでっち上げて死んだように見せかける。それっぽく見せるため手に持ったものは手放し、それと同時にひとつだけ確保しておいた数分間だけ感知系を鈍らせる薬をメニュー操作で飲む。
とっかにいるとわかる状態なら、これでも別の手段で見つかるだろうがほんの少しだけ騙されてくれれば……。
「やった? 私やったわ! お姉ちゃんからのプレゼントも返ってきたわよ!」
「ああ、これで……」
「―― いや、まだだ! やつはまだ生きてる!」
「そうね。契約の遂行手続きも発生してないしまだどっかに隠れてるのは間違いわね」
ちっ、勘のいい。ちょっとは混乱ぐらいしろよ。
こうなれば出来るだけ距離を離して……一か八かやるしか……。
「……あっち! 逃げてる!」
「よくやったカグシ! ほら待ちやがれ!」
一歩でも、一歩でも前に……。
「チェックメイトだ」
それでも大した距離は稼げず醜い悪足掻き虚しく俺の首にメルシアが薙いだ刃が入る……
「はっ―― お前がな」
……その寸前。
この場にいる全員……それこそうちのダンジョンにいたすべてのプレイヤーの視界が揺れては入れ替わる。
それに一拍遅れて誰もが気付く。何故かダンジョン内にいた全プレイヤーが入口付近に転移しているのだと。
また俺以外の人たちにはこういう一文が浮かんでいたことだろう。
《ホームの主人によりホーム内から退出されました》
『は?』
「ファスト! ペスト! やれぇーッ!!」
「チチッ!」
「きゅうー!」
それにより、深い困惑に陥ったプレイヤーたちは……突如広がった『厄再』に身動きを封じられ、遥か高くから降り注ぐ斬撃の暴雨により全員が光の粒となり地上に壮大な花火を咲かせたのであった。
――――――――――――――――――
・追記
※現在の主人公ステータス
_____________________
名前:プレジャー ランク:★★
セットジョブ
大地術士LV10☆:『魔法・大地』
*装備
上衣:遮風の外套(風属性耐性アップ)
下衣:根下の袴(土属性補正、地面・地中HP自動回復)
武器:石王の
装飾:大地の琥珀輪
装飾:身代わりミサンガ(消失:永久にロスト)
所有ジョブ(残り枠0)
大地術士☆
従魔(眷族3/3)
ファスト・混合蹴兎LV40☆
クイーン・鬼子母兎LV50☆
ペスト・
_____________________
※備考:従魔のボールグループは両グループに合併されている。
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