第97話 星獣討伐戦ー1

戯人衆ロキ』初の集会が終った次の日。

各々の準備を終えたメンバーは3rdステージの海エリアの入口で一度集まり俺の案内の下ここ蒼碧の都、海底都市ティアへとやって来ていた。


「ここがティアかー! くぅ、まさかこの私がこんなロマンの塊みたいな場所を見逃してたなんて……なんたる失態! 今からでも隅々まで調べ上げねば……」

「まあ! 本当に綺麗なところですわね。その水晶などかなりネックレスに……」

「お、あそこに店。いい品揃ってんじゃねーか」


「あの、観光したい気持ちは分けるんだけど……。今それどころじゃないから」

「きゅう!」


なんか今でも街に繰り出しそうな雰囲気のメンバーたちに一応の注意を促す。


「いやだな、後輩くんったら。分かってるって。ここの探索は星獣をぶっ倒した後にゆっくり……ということだね!」

「いやまぁ……分かってるならいいんですが」


そう言ったものの、この人らのフリーダムさを見ると得も知れない不安を感じる。

今にもとっかに飛び出して行きそうな素振りだけど……これで本当に大丈夫かな。


と、そんな俺の不安とは裏腹にそう経たないうちにフォルの後についていつもの謁見室に『戯人衆』全員で入場する。


「お主らが彼の者が連れたきた援軍……とういう認識で良いか」

「はい、海星王さま。後輩くんからの連絡で馳せ参じた次第でございます」


後輩くんという呼称にちょっとだけ小首を傾げた海星王だったが、すぐに持ち直して現状の説明に移る。


星獣は現在のところティアの兵隊が召喚されたあの海域に押し留めてられているらしい。

だが、多方面にある渦の対処に兵が割かれているため、大した数は用意出来ず都市にもしものため待機していたなけなし兵力を動員するしかなかったとのこと。


「まだ猶予あるもののそう長く持たないじゃろ。お主らだけでは海での移動も大変であろうしこっちで足も出そう。薬などの消耗品も必要なものがあるなら手配する。故に一刻も早くお主らには援軍向かってもらいたい」

「はい、任せてください!」


本当に急いでいるのか、話しはトントン拍子に進み……気付けば『戯人衆』とフォルを含めた5人と1匹がジェットボートみたいなものに乗り込んで出発を待つだけの状態になっていた。


「へぇー。こんなあったんだ」

「きゅー」

「動力が高くて普段は使わないが……今は非常時だ。なりふり構ってはいられない」


操縦席にいるフォルに感心したように言うと少し切羽詰まって表情でそう返してきた。

やっぱり未だに責任を感じているのだろうか。

出ていく時に気を紛らせわしたがそんなのその場限りしか効果がなかっただろうしな……。


「そんなら、もっといい方法があるぜ。ほーん、これが動力部か。これなら……ここをこうして、組み換えて……こう!」


そのフォルの深刻そうな声を聞いてかは知らないが、いつの間にか来ていたヨグが操縦桿に繋がってる動力部に手を掛けていた。

そのままためつすがめつ動力部を観たかと思うと手を工具に変えて蓋をバラし内部を弄りだす。


「なっ、何をする貴様!」

「ほい、完了っと」


あまりにの早業にフォルも対応する暇もなく、気付くと洗練されたフォルムだった動力部はゴツいパーツが間から覗く世紀末な感じに改造されていた。


「うっしゃー! かっ飛ばすぞ、相当揺れるからどっか掴まってろ!」

「ぬわああー!?」


爆音を響かせるエンジン音に紛れて誰とも知れない悲鳴が掻き消える。

盛大な水飛沫を上げて走るボートのデッキに海水交じるの強風が吹き付け船体が激しく揺れる。


「いや、スピード落とせよ! 船がひっくり返るぞ!?」

「あ!? 誰にものを言ってる。俺が改修と操縦してんのに、そんなヘマするわきゃねーだろ!」

「ひゅーひゅー! いけいけヨグくん!」

「きゅきゅう!」

「まったく、落ち着きがないったらありませんわ」


今にも船が横転しそうな揺れに俺は慌てるも他のメンバーはどこ吹く風だ。

ヨグのが馬鹿にしたと思ったのか操縦が更にアクロバットになり、ファストとヘンダーがそれを煽る始末。その中でもどういうわけかアガフェルだけは背を真っ直ぐに伸ばして上品な佇まいだ。


え、この状況で慌ててるの俺だけ?

それともこのゲームこれが普通なの!?


などと混乱してる間にヨグが改造されたボートは俺たちをあっという間に例の海域に運んでくれた。


「ば、馬鹿な……。予定の半分も満たない時間で……」


乱暴な操縦に戦闘する前から少しげっそりしているフォルが呆然と呟く。


「はっ、あったりめーよ。誰の仕事だと思ってんだ」


それを聞いて機嫌を良くしたヨグが胸を張り、偉そうにふんぞり返る。

やってることと性格はともかく、あんな瞬く間にマシーンの性能をガラリと変えて成果を出しているのは事実だ。


ヘンダーが何故ヨグを生産担当と言ったのか、俺はここに来てようやくそれが身に沁みた。


「さて、あれが例の星獣か……はは、デッカイね」

「聞いてた通りに魚人族の兵士も戦ってる……けど、大部押されてるみたいだ」


海星王が言っていた通り、鎧を着た魚人族にらしく兵士たちがあの星獣……ナテービルの巨体を広く展開して押し留めている。

戦力がまるで足りていないのか、ひとりふたりと戦線から弾かれ押され始めている。


「本当に急いだ方が良さそうだね。皆、多分これ以上接近するとボスエリアに踏み込むことになる。そうなるとクリアまで引き返せないけど、準備はいいよね!」

「「おう!」」「きゅう!」

「もちろんですわ」

「もちろんフォルくんもいいよね」

「ああ、いつでも問題ない」

「よーし、なら私が先陣を切る。皆、後に続けぇー!」


クランマスターとしてヘンダーが号令をかける中、星獣ナテービルの討伐戦が幕を上げたのだった。

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