第96話 『戯人衆』ー3
結局そのあと。
多分『無器』の被害者掲示板に乗せると2、3スレほどは一瞬で消える爆弾を投げ込んだヨグの「はよだせ」と言わんばかりの圧に負けあの時のキメラを呼び出す。
石王の
「手に入れた経緯や見た目から
「おーこれがそうか……ほうほう、なるほど……。なぁ、これ触ってみていいか? いいよな!」
「あ! それは……」
ほんの指先、それが触れただけで……一瞬でヨグの身体に石化が伝播して手首までを覆う。
「おう!? あっぶねー!」
それを見て瞬時に手を引っ込めたヨグだが、それでもその間に肘近くまでが
どうもこの石ころ、主人である俺以外は触れたものを無差別で攻撃するみたいだ。ステータスも少し変で何故かレベルが“Unknown”と表記されており、『星授』『永狂』『不変』『伝石』という詳細が一切読み取れないスキルばっかりを所持しているのだ。
「は、はは。やべーなこれ!」
「何でちょっと嬉しいそうなんだよ! ってか腕、治さないと!」
「大丈夫だ、こうすればいいからな」
ぽと、っと石化した腕を肘から分離するヨグ。
その腕をそのままインベントリに仕舞い新しい腕を取り出してはめ込む。よく見ると分離した断面は機械化していて複雑な配線や接続機が覗いていた。
「おっと、勝手に貰っちまったが……あれ、持ってていいよな?」
「いや、元がそっちの腕だし別に構わないけど……。えぇ……」
知らずに呆れとも困惑とも取れない声が漏れたがそれは仕方ないと思う。
だってこんなの完全にサイボーグじゃん。
つーか、アバターをそんな風に作り変えるなんて出来たのか。
……でもちょっと格好いいな、と思ったのは内緒である。
「……思った以上に危険物だね、これ。でももし加工出来れば中々……」
「勿体ないですわね。いい輝きですのに、これでは装飾品には使えませんわ」
俺が驚いている傍で他のふたりは見慣れた光景なのかヨグの奇行には目もくれず
って、このままじゃ全然本番の話し合いが進まない。
「これはもういいでしょう。今はまだ使い方を模索してる最中ですから、これに用があるなら後ほどに」
「あーマジか……なぁ」
「はいはい、ヨグくんはちょっと黙ってようか。後輩くんの言う通り話しが進まないから。それとも……また折檻されたの? あの時みたいに」
「……あれは流石に勘弁しろ。でも後でまたくる、絶対にくるからな!」
ヘンダーがヨグくんを宥めて(?)ようやく今回の本題……復興クエストの対策会議が始まる。
その最初の火口を切ったのは……クランマスターであるヘンダーだった。
「まず大前提として言っとくけどこのクエスト必ず成功させないといけない」
「それは……またなんで?」
「復興クエストは他と違い再受注は出来ないからだけど。知らなかったの?」
「いや、さっきも言ったけど最近それどころじゃなかったんで……」
ちょっとバツが悪くながらも詳しく聞いてみたところ復興クエストは報酬が美味い代わりにプレイヤーひとりに1回しか受注出来ず。何から理由で失敗、破棄になれば再受注も出来なくなるらしい。
それだけならいいがクエストを途中退場になった場合はそれに関わったNPCの好感度が著しく下がるとのこと。
「もし引き受けて失敗なんてした日にはその海底都市とやら二度と足を踏み入れないかもよ」
「げ、マジかよ。それだと素材調達に使えなくなるじゃねーか」
「それは……デメリットが大きますわね。あそこは珍しい宝石や衣装がいっぱいありそうですので立入禁止は困りますわ」
変わらずにひとり感想がズレている狐っ娘がいるが……それはいいとして。
えー……このクエストってそんな状態だったの?
フォルに駆り出されてばっかだったから都市の中とかまだまともに見て回ってすらないんだけど……。見た感じあそこでしか得られないジョブとかもありそうだし。
このクエスト、ヘンダーの言う通り本当に失敗する訳にはいかなくなった。
「まぁそれもあるけど……その星獣ってことを聞く限りだと多分クリアすると出ると思うんだよね。
「おお!」
「まぁ」
その一言に俺以外の3人が沸く。
聞き慣れない単語に首を傾げるしかない俺は完全に置いてけぼりだ。
「えっと、何なんだ
「ああ、そっか。後輩くんは知らないか。簡単に言うと
――
ただし、天賦……メンイジョブをセットすることは出来ず
寧ろ
1.空き枠が存在し条件を満たしたサブジョブなら自由にセット出来る。
2.
という2点のメリットが
「で、私たち『戯人衆』は今この
「なるほど。でもそれが何で星獣から出ると?」
「だって私の持ってるこの
「え、そう……なのか?」
まるで確定みたいな話しぶりだったので思わず聞き返してしまった俺に「うーん、そうだね」と間をおいてからヘンダーが考察を説く。
「まず話に何度も出てくる星の加護だけど……このゲームとって重要なファクターであることはもう疑いようがないと思う。それを踏まえて考えると……ちょっとこじつけがましいかもだけど我々のステータスにやたら“星”が多様されてるのも何か意図的なものを感じざるを得ない」
確かに……色んなランク、カンストの表記と《イデアールタレント》は星の記号を多様している。
普通に考えたらただ分かりやすくしてるだけ……のようにしか見えないが、ここのところしつこいぐらいに星の重要性についてNPCたちに語られた身として一蹴することも出来なかった。
「そしてこの世界で使う力―― ジョブも含めてが本当にすべて星から起因するならば……。それを喰らって身に宿してる星喰らいからそれが集約したものが出たとしても、その眷属たる星獣からその下位互換が出たしても……ゲーム的に考えるとそう不思議でもないんじゃないか。と、私は思ったわけね。これは私が今まで積み上げてきた運営側の思考パターンまで考慮に入れての結論なんだけど、皆はどうも思う?」
「……筋は、まぁ通ってんじゃねーか?」
「ヘンダーがそう言うなら、きっとそうなのでしょう。貴方がこういう分析が外すことはほぼありませんので」
「そ、フェルちゃんの信頼はちょっと重めだけど……。後輩くんはどう思う?」
「俺も……特に反論はない」
「そっか。ならここからは星獣戦でどう動くか、各自の立ち回りと大まかな作戦を練っていこう。準備する期間もあまりないみたいだから、本当に簡略的な部分だけだけど――」
それからすらすらとメンバーの特徴を上げながら作戦を決めていくヘンダーを見て、やっぱりこの人は凄いと感じた。
俺から伝え聞いただけの内容と僅かな手掛かりだけで瞬時にここまで分析し的確に今もっとも自分が欲しいであろう利点を見抜いてきた。優れた洞察力、観察眼、それらによる蓄積……そして何より自身の言葉を信じさせるだけの圧倒的なまで実績あってこその説得力。
少なくとも俺にはこんな芸当、とてもじゃないけど出来そうにない。
だからだろ、この人が今何を目指しているのかそれに純粋に興味が湧いた。
「あの!」
「うん? 何かな後輩くん」
「話の途中、悪いけど。それで……計画と言うのは、結局何だ?」
「ああ、それね。別にそんな大それたものじゃないよ。ただ
そう言ってヘンダーは……この《イデアールタレント》の世界を一度混沌の渦に陥れたその時のように本当に楽しそうに笑っていたのであった。
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