第95話 『戯人衆』-2
そんなこんなで紆余曲折ありながらも『
「あはは、なんかごっちゃになってきたね。多分よく分かってない後輩くんのためにふたりとも改めて自己紹介といこう! まずは……ヨグくんから!」
「あ? 俺からかよ……。名前は聞いての通りヨグ、普段はPKばっかやってぞ」
「それだけだと分かんないでしょう。ね、後輩くん『無器』って二つ名聞いたことない?」
「え、それは……知ってる。確か《イデアールタレント》で有名な暗殺専門のPKの名前、だよな。……まさか」
『無器』。
それは、PK専用掲示板などの裏の方で有名な通り名だった。
最初期はこのようなプレイヤーがいることにすら誰もが気付かなかった。
それもそのはず『無器』のスタイルは徹底的なまでに暗殺の一撃必殺。それを常に名前を顔を見た目を性別までをも変えて実行する故に最初期は誰も同じプレイヤーの犯行だとは気付かなかったのだ。
だから未だにその本当の姿、それどころプレイヤー名すら誰も知らなかった。
ただ分かっていたことは『無器』はその名の通り被害者の誰ひとりにも最後の最後まで彼が武器を手にしたところを見せていない点だけ。死に戻るその瞬間までも……。
「そ、このヨグくんがその有名な最強の暗殺者PK『無器』なのだ!」
「けっ、暗殺者で有名だとか。それほぼほぼバカにしかしてねーろが」
「あなたがこだわりとやらを貫いた結果なのでしょう? むしろ誇ったらいいじゃありませんか。有名な暗殺者さん♪」
「ああ!? てめぇの首から取ったろうか!」
「で、今ヨグくんを煽り散らしてる腹黒そうな狐さんがアガフェルごとフェルちゃんだよ! 多分後輩くんも彼女の顔ぐらい知ってるんじゃない?」
「うん、まあ……。有名人、だからな…………姫プレイで」
アガフェル。別名『金狐姫』とも呼ばれるゲーム内だけで数百人規模のファンを有する女性プレイヤーだ。
彼女が有名な理由はそれだけでなく、その大胆なジョブ構成にもある。
《イデアールタレント》には戦闘、生産ともにあまり役に立たないが、見た目には多大な影響を与えるジョブ群がおり、それらを総じて“ファッションジョブ”と呼ぶ。
例えばアガフェルのように動物の耳や尻尾を生やしたり、角を生やしたり。または耳を長く尖らせたり、肌の色を変えたり、思い切ったものは皮膚を鱗に置き換えたり……とその種類は千差万別だ。
そしてアガフェルはメインジョブである
仲間に補助を飛ばした後はその後ろで突っ立っているだけでいいという、清々しいまでの姫プレイスタイルのジョブ構成なわけだ。
「腹黒いだなんて、酷いですわヘンダー」
「でも事実でしょう?」
「ふふ、まぁいいですわ。今はそれより……新入りさんとはまだちゃんとお話ししてませんでしたね。さっきに言ったけれど妾はアガフェルですわ。貴方のことは前からヘンダーからかねがね聞いていましてよ」
紹介が終わったと見るやアガフェルは俺の傍まで近づき、畳んだ扇子で俺の顎をぐいっと持ち上げる。
それにより否が応でも彼女の目を覗き込む位置に視線が留まってしまう。
青い、まるで真夏の空のように澄み切った綺麗な瞳に感嘆と……何故か言う様のない不安に襲われた。
この瞳に夢中になれば空から堕ちるように永遠に戻ってこれない気がして俺は……
「え、えっと! それはどんなこと、でしょうか?」
「あら?」
……思わずまくし立てるながら思いっ切り身を引いてしまっていた。
「これは……意外ですわね。ほぼ堕ちたと思いましたのに。この段になって振り払われたのは初めてですわ」
「私が言った通りでしょう。後輩くんは会ったら絶対に面白いって」
「ええ、そうですわね。彼に少しだけ興味が湧いてきました」
そうしたら何でか女性陣(片方おっさんアバター)がひそひそと何か囁きあっている。何を言っているのかこちらには聞こえないが……とにかく絵面のせいで犯罪臭がヤバい。
「……おめぇも災難だな」
「え、何が?」
「何でもねー、こっちの話だ。つーか、てめぇら会議とやらはいいのか?」
このままだと場が纏まらないと見たのかヨグが本日の目的を思い出させるように言う。
「おっと、そうだね。そろそろ会議を始めよっか。特に後輩くんには色々と聞きたいことが山ほどあるし……ね? あ、それとここにいるメンバーにも歳とか気にせずタメ口でいいから、気楽に」
「そう、か。ではまず俺からここまでの経緯を話していいか?」
「あ、出来ればHiddenMissionに関してもお願い出来る? 後日でいいからヨグくんも」
「いいぞ。今回の件とまったく無関係でもないし。相談したいこともある。」
「普段ならふざけんなって言いてーとこだが……。ちょっと面倒そうなんでな。こっちも今回ばっかはてめぇの意見が聞きたい。そのうち時間があったら話しに行ってやる」
それからHiddenMissionのクエスト内容のこと、セイレーンの討伐から始まった海底都市でのまで一連の事件のことをひと通り話した。言ってないのは星界術士の詳細な性能くらいなものだ。
一部始終聞いていた他のメンバーたちはしばらく思案していたかと思えば。
「ふ、ふふ……」
「ヘンダー?」
「……あーははは! あは、はははははっははー! 後輩くん、君はどんだけ私に予測を外したら気が済むの! あはは、はは、はぁ……!」
「がはははは! ボスのリポップ媒体をそのまま錬金に使うか、普通! ぎゃははは、はは! 流石の俺にもその発想はなかったわ!」
なんかヘンダーとヨグにバカウケしていた。
いや、俺そんな面白いこといったつもりは無いんだけど。
「悪りーなさっきは普通とか言って。思ったより面白えわこいつ!」
「ヨグくんにもやっと伝わったみたいでよかったよかった。これならあの計画に参加させるのも文句ないよね」
「ああ、こんなやつなら大歓迎だ!」
「計画……ってなんだ?」
計画がどうのうと不穏なやり取りがあったから問い返す。
「あー話すと長くなるし……計画については後でいいじゃねーか。んなことより、見せてみろよ、そのクエストで作ったキメラ。持って来れたんだろ」
「いや、それより今から復興クエストの打ち合わせするんじゃ……」
「頼む! 今見ないと話し集中出来そうにねーんだ!」
「何でこんな食い付くのこの人……」
「そりゃうちのクランの生産担当は職人気質だもの。自分がまったく知らない発想のキメラとか、そりゃ眉唾物でしかないよ。あ、ちなみに私は現場担当でフェルちゃんは多方面での指揮担当。あと後輩くんは……まぁ敢えて言うなら何か事を起こす際の舞台担当の予定かな?」
「そうなん……ん??」
今、聞き捨てならない単語があったんだけど。
「え、生産担当。この人が!?」
「うん? ああ、そういや俺のジョブを言ってなかったか。いいぜお前も『戯人衆』の一員と認めた訳だし特別に教えてやる」
座っていた席から立ち上がり堂々と親指で自分を指して言った。
「俺の今のメインジョブは
それはこの《イデアールタレント》最強の暗殺者が、まさかの……本来なら戦闘力皆無であるはずの生産ジョブ特化ビルドであるという宣言であった。
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