第94話 『戯人衆』ー1
後日、我がダンジョンでありホームの『
別にもう隠す必要も無いってことでホーム機能から購入した
「やぁやぁ、後輩くん。お久しぶりだね」
「本当にな。何せ前に会ってもう1週間以上も会ってないし」
「まぁ、お互い忙しかったからしょうがない、しょうがない!」
いつもの調子のいいことを言う彼女に肩をパンパンされる。
やめい、あんたのパワーでそれやると衝撃がヤバいから。ここセーフティエリアでダメージなくても全身に振動来てヤバいから!
俺が鬱陶しいそうに腕を退けるとはたと思い出したのか「そういうば……」と言ってからヘンダーがこう続けた。
「そう言えばサウスワンでのあれ。クラン名まで引っ張り出して随分と派手に引っ掻き回したみたいじゃない。一昔前のギャングみたいなことまでしてさ」
「なんだ、ああいうのはお嫌いだったのか?」
「まさか、最高!」
「はは、やっぱり。絶対そうだと思ってた」
「「いえ~い!」」
どちらともなくふたりで頭上にハイタッチ。
アバターの身長差とバワーの差でこっちだけがよろめいたが顔はいい笑顔だ。何となく今よりずっと子供の頃してた、イタズラが大成功した時に似た達成感があるお陰だと思う。
「それで、他のメンバーはいつ来るんだ? 一応許可出してここに直で転移できるようにはしたけど……」
「う~ん…………いつだろうね?」
「おい、こら。クランマスター」
「あはは! ごめんごめん皆我が強いからさ。でも重要な案件だしちゃんと来るよう説得しといたから。そこは安心していいよ」
……何でだろ、クランマスターとして頼もしい限りなのに、その言い方に欠片も安心出来ねー。
と、そんなじゃれあいをしていたその時に。
『《イデアールタレント》をプレイする皆様にお知らせです』
『本日、PN:ヨグ様により
『これによりそのクエストの影響が本サーバーの一部のマップにも反映されます』
「これって……」
「この前に後輩くんが鳴らしたワールドアナウンスと同じものだね」
聞き覚えのある、あのワールドアナウンスが鳴り響く。
それを聞いた俺は驚愕した。HiddenMissionクリアされたのにではなく……それしたプレイヤーの名前を見て。だってこの名前って確か……
「それもあるんですが、このプレイヤーネーム……」
「ああ、そうだね。でもその先は―― 本人に直接聞こか」
「え?」
一瞬その言葉を飲み込めず困惑していた俺は次の瞬間起きたことに今度こそ驚きを露わにするしかなかった。だって……。
「よぅ……相変わらずその気色わりー特技は健在のようだな。妖怪ネナベババア」
「あはは、そういう君は相変わらず口汚いね」
「え、は、えぇ?」
ヘンダーがまるで預言でもしたかのように彼女の言葉と視線の先に今話題の人物であり……『戯人衆』のメンバーがひとり――
―― ヨグその人が転移して来たのだから。
「で、そこでぎょどてんのがあの新入りか?」
「そうだよ、うちの後輩くん。『魔王』の方のね」
「ふーん」
状況が未だ整理出来ず、目を泳がせていた俺にヨグがずいっと遠慮なく踏み込んでくる。というかガンを飛ばしなら顔を近づけてきた。
あれだ、漫画やアニメとかで不良キャラがたまにやる至近距離で睨むあの体勢だ。
「あ、あのー。俺に何か……?」
「なんか思ったより普通だな、おめぇ。このクソババアに突っ掛かって降参を言わせたようにはとても見えねー」
と思ったらいきなりこの言うようだ。失礼にも程がある。
服装も黒の半袖革ジャケット着込み、同色のチャラチャラした装飾のあるダメージジーンズを着ている……一言で言うとガラの悪い感じ。しかも露出した肌にはどこもかしこも切り傷や刺青みたいなもの刻まれていた。
正直、超怖い。不良とかにすら近寄れないのにほぼヤの人みたいな格好の男に絡まれるとかちょっと無理なんだが……。これがNPCならまだ強気に出られるけど中身も普通に不良っぽいしこの人。
「あのライブを見た時には気概つーか、ギラついたもんを感じていたんだが……」
「や……」
「あ?」
「やや、やっぱりあれ見てたんですか!?」
「おう見てたぞ。あのババアが煩かったから仕方なくな」
それまで恐怖で竦んでいた俺の頭はその発言により一気に茹で上がる。
「超恥ずいぃぃぃ~……!」
「……いや、そう恥しがるもんないだろ。俺は大好物だぞ、ああいう気持ち剥き出しのマジモンの喧嘩はよ」
「俺は、それが、恥ずいんですよ!!」
他の最初から見せるつもりのものは兎も角としてゲームでマジってかムキになって相手に喧嘩吹っかけるところをネット公開とかおもっくそ黒歴史じゃなんだよ、こっちは。
その後、戦後処理に没頭しながらようやく頭から追い出してたってのに何思い出せてくれてんの。この野郎ぅ……。
そんな感じで俺が悶え苦しんでいると鼻白んだ様子で俺から離れる
「あら、もういいの?」
「なーんか、今の見て毒気抜かれたわ。んなこともあの女狐はまだか?」
「すぐに来るそうだよ、すでに近くまで来てるって……あ、噂をすれば」
「え……って眩しい!」
ヘンダーさんの声でぱっとその視線をまた追ってみたが……その瞬間に転移とともに現れた強烈な光が目を焼かれる。
場所故に
それが光が払われ見えた彼女の背で揺れており、その可愛らしい顔を撫ぜるよう揺れている。そして当然のように金色の髪の上にぴこぴこと動く狐の耳まで。
まさに絵に描いたようなオタ受けする狐獣人そのもののアバターが扇子片手に華麗なドレス姿で飛び出してきた。
「―― ごきげんよう皆さん。お二方とも久方ぶりでございますね。そこの新入りさんははじめまして妾はアガフェルというものです、どうかお見知りおきを」
「あ、どうも。プレジャです」
「フェルちゃんおっひさー!」
「けっ、マジで来やがったのか。この女狐」
「あらあらご挨拶ですわね。ヨグさん」
その狐っ娘はずかずかと、でも優雅にヨグの元まで歩いて行ったかと思えば……
「女性の対する礼儀、なってませんわよ!」
「ぐえっ!?」
ヒールを履いた足で見事な回し蹴りをお見舞いしていた。
「ちょ、何するんですか人ん家で! っていうか首、何でかめっちゃ回ってる!」
「あら、ごめんなさいね。この男があまりにも無礼だったものでつい」
何故かセーフティエリアにも関わらず首が180度ほど後ろに曲がったヨグを見て声を荒げるも、おほほほっと扇子で口を隠し上品な笑いで受け流すアガフェル。
いや、それで済むことじゃでしょう……何なんのこの人。
「ぐがぁ……てめぇ、勝手に人の首捻んじゃねーぶち転がしるぞ」
「うわぁ!?」
と、呆気にとられるいると今度はヨグの方から声が聞こえてそこを向くと……首が折れていた。
ただし、そのまま捻れて折れたとかではなく……首が後ろに回ってるまま、その首が折り畳まれて正面を向いていたのだ。頭が上下逆さまの状態になるように。
「あはははは! ちょっとヨグくん首直しなよ。くふぷっ、後輩くん怖がってるじゃん、ぷっふ」
「うっせー! 言わんでも今から直すわ。これはそこの女狐の足が大根過ぎて継ぎ目が歪んだせいだつーの!」
「あら、今度こそ素っ首撥ねて差し上げましょうか?」
「何このカオス……」
果たしてこんなんで今日の会議とやらは上手くいくのだろうか。
と、未だに始まってもいない『戯人衆』の集会は波乱の中、こうしてその幕を上げたのであった。
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