第93話 星蝕主義者

クエストの進行により強制的にティアに戻されたその後。

俺たちは今、ここに来て初めに俺の判決をくだしたあの謁見室のような場所にいた。


「―― 報告は以上となります」

「ふむ、星蝕主義者に星獣までも……。これは厄介なことになったのぅ」

「申し訳ありません。私がその場にいながらこんなことに……」

「よい、お主のせいではない。寧ろよく生きて帰ってきてくれた」

「はっ! 寛大なお言葉、感謝いたします!」


で、場面からしてフォルがさっきの状況を海星王に報告を済ませたところっぽい。

そこでフォルを見下ろしていた海星王の視線が俺に向く。


「すまんな。お主を我が市の事情に巻き込んでしまったようで……。まさかこんな大事になるとは思いも寄らんなんだ」

「いえ、お気になさらず」

「そこでだが……お主には今ふたつの選択肢がある」


海星王曰く。

ひとつは別の現場にいくこと。

今回の件はティア側の事情に部外者の俺を巻き込んだ形になる。だからって罪をなしには出来ないが今よりハードル下げて償いが出来る安全な現場に送ることは出来るという。今までのモンスター駆除の功績などもフォルから聞いていたので、それを勘案することも出来るらしくそこに行くと実質翌日には開放だそうだ。


ふたつはこのままフォルとのクエスト続行して手伝いあの謎の女性や星獣とやらに対応すること。

こっちを引き受けてくれるなら罪を清算するだけでなく、報酬もたっぷり払うと言ったいた。それもこちらがある程度要望を出して叶える形も受け付けるとのこと。


さて、これは悩むな。


ひとつ目の選択肢を選ぶとついに自由の身だ。やっと本来ここに来た目的である『土地の権利書』を探しに行ける。ただこっちはあてがまるで無いのが不安だ。


ふたつ目の選択肢を選ぶと成功した際にそのまま『土地の権利書』を手に入れられるかもしれない。でもあの謎の女性と未だに良くて分かっていない星獣を今の俺で対処出来るのかが問題だ。


と、そんな風に迷っていた俺を見かねてか海星王から嬉しい提案が飛び出してきた。


「今の任務を続行するなら外から知り合いを招いても構わんぞ」

「え、いいのですか!?」

「前はお主のティアに対する償いが目的だったから駄目じゃったが今回は事情が異なる。星獣は人類……引いては世界の危機になる存在。何としてでも退けかねばならん。まぁだからと言ってあまりぞろぞろと来られても困るからお主とその眷属を含めて6人までとするがの」


つまりは1パーティー分は呼んでもOKってことね。これは嬉しい誤算だ。

かなり前までだったらそうでもなかったが今の俺には強力な助っ人に心当たりがある。

ただの3rdステージの探索とは訳が違うし、何よりゲーマーならこんな大掛かりなクエスト余程のことがない限り飛び付くはずだ。


実際にその後メールを送ってみたがふたつ返事でOKをもらった。というか『戯人衆ロキ』の他のふたりにも声をかけるそうだ。

どうもクランメンバー全員で話したいこともあるからって後日、俺のダンジョン兼ホームで会議をする運びとなった。


思ったよりも大事になった気がするが……まぁこれならクエスト続行一択だ。


「そのままこの任務を続けます。ただ知り合いを向かいに行きますので少々お時間を……」

「いいだろ、こっちにも準備がある。ただし作戦は恐らく3日には動く。だからそれまでじゃ」

「ありがとうございます」


そこで海星王との謁見はひとまず終了となり、建物を出たところで溜まった疑問を解消するためフォルに声を掛けた。


「で、結局あれ全部何なんだよ。いい加減説明してくれ」

「本来ならこれは我々の事情。だから言うつもりはなかったのだが……こうなれば仕方ないか。分かった説明する」


フォルは何か迷いを振り切るようにそう言ってから訥々と思い出すように語ってくれた。


―― 今から十数年前……このティアの近くに星喰らいが発生した。

事前にそれを察知できたティアはこれの対処に打って出るが惨敗。

結果だけ言えば傷を負わせたらしく星喰らいを追い払うことは出来たが、あっちこっちにあの渦を嫌がらせのようにばら撒かれたそうだ。


後にその星喰らいがどこかのを持つ異邦人たちによって討伐されたとの話だけは伝わってきたが、それで渦が消えるわけではない。

数千に及ぶ渦をこの十年あまりの月日で減らすに減らし、ようやく周辺地域の平穏が訪れる……という時期にやつらはひょっこりと現れた。


星蝕主義者

星喰らいを信奉する宗教……と言うよりほぼカルト集団みたいなものだ。

世界は本来今の神々のものではなく、星喰らいのものであると主張し、星喰らいが世界を飲み込みすべてを浄化することで真なる幸福が訪れると謳っている頭のイカれた連中の集まりだそうだ。


渦を消滅させようとするとどこともなく現れ、邪魔をしてきたり兵士を攻撃したり……挙句の果てには渦そのものに干渉して活性化させたりもしていたようだ。

どうも俺を強引にあの任務に就かせたのも、他に人員を回してあれらの対処をしたかったのが本音の理由らしいとも言ってくれた。そこまで言う必要はないと思うが、これが巻き込んだことに対するこいつなりの誠意なんだろ、律儀なやつだ。


そしてそのカルト連中が使徒とか言っていた星獣は言わば星喰らいの眷属……いや分身わけみと言ったほうが正しい存在だそうだ。

複数の加護を喰らい、その力を振るえる星喰らい本体と違い、分け与えられたひとつの加護しか使えない星獣は本体よりずっと弱いらしい。

ただ、これは星喰らいが法則によって発生する以外の“増殖”の仕方でもあり、この星獣が何らかの原因で自身の器を強くし加護の許容量が増せばそれが星喰らいとなる場合もあるという。


「……で、今回またそいつらに一杯食わされて、そんなヤバいもんを呼び出されたせいでティアは滅亡の危機……。と、そんな感じであってるか?」

「ああ、その通りだ。そうなる前に対処するために、私があの場にいた……それだと言うのに。なんてザマだ」

「だぁー! んなことでウジウジするな、鬱陶しい!」


横で辛気臭いオーラを出し初めた真面目馬鹿に怒鳴りつけるようにそう言い放つ。


ゲームでいちいちテンション下げるリアクションしないでいただきたい、こっちまでつまらなくなったらどうしてくれる。


「なっ!? 貴様言うに事欠いて鬱陶しいとはなんだ!」

「そそ、それ。お前はやっぱそうやって元気に小言でも言ってる方が……。いや、とっちにもしても鬱陶しいな?」

「よし分かった、喧嘩売ってるのだな! 表に出ろ!」

「もう出ててまーすと」

「こう言えば、ああ言う!」

「きゅう~……」


何だかんだと調子が出てきたフォルがこれでいいとしてだ。


星蝕主義者か。聞いた感じだとバリバリ悪役臭が凄いな。

ただそれは……。


「俺としては、あまり面白くないな」


要するに星蝕主義という輩は運営が悪目立ちをさせるために仕立てた者たちだ。プレイヤーたちを引っ掻き回す役回りとして大いに活躍することになるのだろう。


だがそれだと困る。その立ち位置は俺や……我がクラン『戯人衆ロキ』が座る予定のものだ。それをNPCに盗られたでは話にならない。


「丁度いい。くくくっ、今回の『戯人衆ロキ』初の集会はかなり賑わいそうだ」

「きゅう」


俺はそれらを含めて話し合うためにもと、今後の展開について思いを馳せるのであった。

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