第92話 星獣
「大部こいつらの数も減ってきたか」
「それでもまだ気持ち悪いぐらいうじゃうじゃと居るけどな」
「きゅう」
復興クエストが始まってもう一週間ほどが過ぎ、何だかこの駆除作業も慣れてきてしまった。
今ではどう海底を弄ればこの小魚どもを追い込みやすいのかすら熟知するようになってしまったよ。
ファストも何だかんだフォルの動きを見て学び、やたらと海面で戦うのが上手くなったし。
俺は『土地の権利書』を探しに来ただけなのに、ほんと何でこんなことになったんだろうか……。
「にしても。本当にあの星喰らいってのは何やったんだ」
「きゅう」
でもそこまでして見えてきたものもある。
この海域の底。今までモンスターの群れで覆い隠されたその場所にドロドロとしか渦みたいなのが見えるようになった。
汚い色を発光させているその渦は地面に……いやまるで空間そのものに打ち込まれているように発生しており、中心点から無限にモンスターを生み出している。
……そりゃ幾ら狩っても数が減らないわけだ。
「フォル、あれ何なんだよ」
「あれは……モンスターと呼ばれるもの、その源泉ようなものだ」
「モンスターの源泉?」
そういや何気にモンスターの設定とか聞いたことないな。
っていうか《イデアールタレント》のバックストーリーがあんま分かんないだよ。公式HPとか見ても神々が才能の恩恵を授けし世界の住民となり、理想の才能を作り上げていく……的な大まかな筋書きしか書いてないから不明点が多いし。
「星喰らいは言ってしまえば方向性が違うだけで本質としては神と同じ存在。当然その気になればやつらも生物を生み出せるということだ。……その理由は真逆だがな」
「真逆?」
「神は己が世界を楽しく豊かにするために何かを生み出すが……星喰らいはそれらを壊すために生み出す。モンスターが問答無用で人を襲ったりするのもそんな理由だ。まぁ例外はあるがな、例えばお前の眷属とか」
「きゅう?」
ちょっと気になってたのでどういうことかとちょっと掘り下げて聞くと星喰らいはモンスターを生み出しはしても支配してるわけではないらしい。
だからモンスターの中には3柱の神の加護を受け入れ力にするやつがいたり、人と縁を結んで加護を授かる個体も居るんだとか。ファストはこれの後者なわけだ。
そもそもが星喰らいがモンスターを生むのは消滅する前の最後っ屁だったり、逃げる際の囮ためだったりで渋々と使わざるを得ない時だけだとか。ここ中継拠点予定地の場合は後者に当たるとも。
あとは意図せずに戦いの残滓などが生み出す場合もあるんだとか。
……それにしてもこいつと会ってからというもの、やたら知らない設定が飛び出すようになってきたな。他にも考えなきゃいけないことが多い身としては、これ以上設定を詰め込まれたら頭がパンクしそうなんだが。
「あーとにかくあれが星喰らいの仕業でほっとくとヤバいってことか?」
「まぁ、大体その理解であっている。だから視認出来る今のうちに潰して――」
「―― おっと、それは困りますね」
「「ッ!?」」
それ本当に唐突だった。
俺たちのすぐ傍、本来誰もいない場所から女性の声が響く。
驚愕しながら声がした方に振り向くとそこにはローブを纏った、女性にしては身長の高い人物が俺とフォルの間ぐらいに立っていたいた。
「馬鹿な……。私がこんな近寄るまで気付かないだと?」
「貴方は厄介ですからね、対策させてもらいました。そんなことよりも……あれをつぶすなんて勿体ない! 世界に真の救いを齎す使徒になれるものだというのに」
「ッ、貴様! 星蝕主義者か!」
「ご名答。ま、その呼ばれ方はあまり好きではないんですけどねー」
さっきから俺を置き去りにして問答が行われているが割り込もうにも動けない。どうやらこれもエルの時と同様のイベント会話らしい。
「さぁ儀式を始めましょうか。使徒、その降臨の儀です」
謎の女性がそう言うと何とも禍々しいデザインの鱗らしきものを取り出す。
曲線に飛び飛びと刺々しい突起、濁った黒と赤が混ざり合って絶妙に気持ち悪い色彩。あれがびっしりと生え揃った生き物を想像すると思わずぞっとしてしまう形状をしている。
「それはッ! させるか!!」
フォルはそれに心当たりあるのか見た瞬間に目を見開き、猛然とした勢いでそれを壊さんと吶喊する。
「はい、残念♪」
だがその渾身の一撃は虚しく空を切る。……いや、正確にはローブだけが残りそれを絡め取っていた。
「その場にすでに私は居ませんのよ。貴方達が私に注目してる隙きにすり替えて置きましたから」
それを見ただけで俺にはあの女性が何をしたのか理解できた。だって前に散々調べたことがあるからな。
これは『殻蝉の術』……メルシアとは別方向の忍者ジョブのスキルだ。場に媒体になる物を残し、自分の虚影を一時的に残して離脱する緊急避難用のスキルなのだが……今回は時間稼ぎの囮に使われたようだ。
俺たちが虚影に気を取られてる短い間に女性は海の底……あの渦まで降りていた。
「さぁ、受け取ってください。偉大なる御方の身を器にしこの世に降臨なさるのです」
「やめろー!」
それに気付いたフォルが慌てて海の中に飛び込むが時既に遅し。女性の手から溢れるように悪趣味なデザインの鱗が渦に吸い込まれてしまっていた。
次の瞬間、海が……いや、世界が揺れた。
地震とも波とも違う、まるで自分のいる空間が丸ごと揺さぶらるような振動を必死に耐える。
そんな状況でも視線は渦の変化に気を取られ動かせない。今までただの現象でしかなかった渦が逆に吸い込まれるように鱗を中心に集まり、形を変える。
渦が吸い込まれる度に鱗の質量は爆発的に増し、それはやがて……禍々しい鱗に覆われた巨大で長い海蛇のような龍に変化していた。
『星喰らいの残滓から大型ボス:星獣ナテービルが出現しました』
『復興クエスト《深海の蒼碧涙》のフェーズが進行します』
『これにより現在位置を『ティア』に強制変更します』
あ、これ細かい過程をすっ飛ばす類のイベントだ。
と、場違いなことを思いながら俺の視界は暗転するのであった。
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