第91話 復興クエスト
「ここがその中継拠点に使う場所、なのか」
「ああ、そうだ」
「モンスターだらけじゃねーか!」
「きゅう」
「星喰らいが荒らした跡はそういうものだと事前に説明しただろ」
「それにしても多くね? 海が真っ黒に見える量だぞ」
―― あの後、海底都市ティアを抜けてフォルが言っていた中継拠点まで来てみたはよかったのだが……。
そこはモンスターが跋扈する地獄と化していた。
まるでインクでもたらしたように海を真っ黒に埋め尽くす、多分魚型モンスターの群れ。現実なら絶対に周りの餌足らなくて共食い始めるだろうって数の大群が見渡す限りの範囲にうじゃうじゃと海中を泳いでいた。
「こいつらを駆除すんの?」
「そうだ」
「俺達だけで?」
「そうだ」
「うっそだろ……」
「きゅう……」
どんだけ時間かかるんだこれ。それにこいつらどれぐらいの強さだ、3rdステージのモンスターのレベルが最低でも40から始まるのは聞いているが……。
「あのー、せめてもう少し人数集めてからやりませんか?」
「だめだ、これが懲罰を兼ねていることを忘れたのか。……それに貴様はあのセイレーンを退けるぐらい腕の立つ魔法使いだからな。この程度の余裕だろ。私は期待しているぞ?」
「くっ、こいつ……」
分かりやすい嫌味言いやがって。
そっちそう言うならお望み通り、また津波で……。
「先に言っておくが当然この前の大魔法は使用禁止だ。もし使ったら……分かってるよな」
「あ、はい……」
くっそー、そりゃそうだよな……。
この数を地道に削らないとけいないのかぁ……気が遠くなりそうだ。
別のクエストになったと喜んでたけど、これだと普通に贖罪クエストをするのと変わらないじゃないか。
この後の展望からしてこれもあくまで前準備に過ぎないだろうし、どれだけ時間がかかるんだいったい。
「さぁー始めようか」
そう言ってニッコリと今日最大の笑みを見せたフォルに連れ回され、その日はグタグタになるまでモンスター駆除に励むのだった。
◇ ◆ ◇
―― それから数日後。
「や、野郎……。こっちがあんま言い返せない立場だからって、扱き使いやがって……」
「きゅうー」
あれから。クエストの強制力が働いたせいでティアかその周辺でしかログイン、ログアウト出来なくなっていた。
どうも復興クエストの内容的に俺は罪を清算するまではティア近辺でずっと寝泊まりしてる体のようでセーフティエリアの登録も上書きされて変更不可になっていたのだ。
そうなるとティアの衛兵の中でもそこそこの地位にいるフォルから隠れることは出来ずログインすれば即あの中継拠点の予定地に連れて行かれる。
「そもそも、何でここである必要が! あんだよ!!」
「結界設置の都合上仕方なくだ! 文句ばかり言ってないで手を動かせ!」
「きゅう、きゅ!」
狩って休んで狩って休んで狩って休んでとログインの限界時間まで続け、そのままログアウトする。
これだけの作業をすでに何日も繰り返しているが……まるで終わりが見えねー!
感覚からしてもう数百どころか、数千は確実に殺ってる。でもこいつら……全然数が減らない。
種類はバラバラで『繁殖』がいるわけでもないのに何でこんなに数がいるんだ、ポップ率バグってんじゃないのかここ!?
それでもほんと初っ端の時にはテイムして群れ同士をぶつけてどうにか出来そうだったのに……。
「――~♪」
「だぁ! また出たあの性悪魚女!」
その中に時々セイレーンも現れては歌を撒き散らすという害悪ムーブをしてくるので全部が台無しされる。
どこまでいっても目障りだな、こいつ!
「きゅう!」
「速やかに処分する! 援護を!」
ただ今回は前と違いセイレーンとも戦い慣れているフォルがいるお陰で一方的にやられるなんてことにはならない。
俺がある程度、セイレーンが魅了したモンスターを間引くと乾坤一擲の勢いで飛び出したフォルがセイレーンを三叉槍の一突きにて仕留めている。
それにあの直情的な性格には似合わず、やたら先読みに長けているのか群れが薄くなる箇所を知ってかのように先に待ち構えている姿も散見されていた。
しかもファストがそれに感じ入るものがあったのかフォルの動きを真似しだして対応が徐々に上手くなっている。そのお陰でもうセイレーンはある程度楽に倒せるようになっていた。
「それにしても、フォルつえーな。何だよあの踏み込み、海面を突っ切ってるとは思えない速さだったぞ。それに進路上にいた雑魚モンスターなんざ全部塵になってたし」
「当然だ、我ら魚人族は生れつきそういう星の加護の帯びているからな。ま、私が魚人族の中でも強者であるのは間違いないがな!」
俺が彼の戦いぶりを褒めると、フォルは何とも誇らしそうにそう言い放った。
また出たよ星や加護がどうのうって。
「便利だな、星の加護。俺も欲しいよ」
「不敬なやつめ。加護をそういう邪な気持ちで求めるものではない。恥を知れ」
「……信心深いことで。お生憎様、俺は使えそうならものは使うってだけなんで信仰心とか説かれても分かんね―んだわ」
「なっ! なんてやつだ。人類がこうやって生きていられるのも神のご加護があってこそだというのに……!」
「そーれーも。星喰らいにペロッといかれる程度のものでしかないんだろ」
「なにを! 貴様そこに直れ、今度こそその性根を叩き直してやる!」
「なんだよ、やるってのか!」
「「うぐぐっ!」」
「きゅう~……」
まぁこんな感じで狩って休んで。あの合間にどうにもお互い性格が合わないのか、たまにくだらないことで喧嘩して……日々は過ぎていった。
セイレーンを速攻で潰す手際よくなり、アホみたいに黒かった魚影も少しは薄れてきて、もう少しで結界の設置作業に移れるとなった……そんな頃だった――
―― 事件が起きたのは。
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