第98話 星獣討伐戦-2
フォルを足した俺たち『
その証拠に俺が魔法で用意した足場に乗り、ボスエリアに入った途端、ナテービルに複数のHPバーが浮かぶ。
「やっぱり、部位分けされているタイプかぁ……。β版の星喰らいがそうだったから予想してたけど、面倒だね~」
「何を言ってるのか知らんが、まずは他の兵を撤退させる! 手を貸してくれ!」
「おっと、イベント進行したっぽいかな? 皆、
そうとだけ指示を出したあとにヘンダーは兵士たちとナテービルの間に立つように割り込む。
「開幕一発いくよ!
恐らくボスエリアに踏む込む前から溜めていたんだろう。
いつかも見た極彩色の光がナテービルの頭部目掛けて飛び、広範囲に散って巨大な身体のあっちこっちを虫食いのように削り取る。無論、魚人族の兵士には当たらないように気を使いつつだ。
それで予想外の大ダメージに怯んだのかナテービルの動作が僅かな間止まった。
「ッ、全軍退け―! ここからは私が連れてきた精鋭で受け持つ!」
「おお! フォル隊長が来られたぞ!」
「待ちに待った援軍だ! 全軍撤退せよー!」
その隙きを逃さず、フォルが兵たちに向けて援軍を報せ後退を促す。
ティアでも顔が売れているフォルの声のお陰か、単にそれだけ疲労が溜まっていたのか……驚くほどスムーズに撤退は行われた。
「はーい、魚人族の皆様。後方はこちらでございます。こちらに集まってくださーい」
それだけでなく、ボスエリアに入る前にバフ掛け終えて、現在手が空いているアガフェルがその目立つ容姿を用いて誘導を行っているのも撤退の速さに一役買っている。
それで周りに兵士を集め、さり気なく自分の安全圏も確保してるところは流石と言えよう。
「うっし、この場合俺は1部位相手して、隙きあらばひとまず遊撃だったな。そんじゃ小手調べに――
兵士がほぼ退いたのを確認したヨグがそう言って前に出る。
そして何かキーワードらしくものを呟くと、右腕が指先から肩までガチャンガチャンと音を鳴らして組み変わっていく。
構造が複雑過ぎて正確な判別までは出来ないが何門もの銃口と、接近戦補助用に見えるブレードが手の甲から伸びている。
そのまま生産特化とは思えない速度で飛び出しバンバンと銃声を鳴らすヨグ。
何あれ、超かっこいい!
ちょっと厨二臭がするけど、それがまたいい味出してるいいデザインだ。
うちのキメラ……いや、何なら次のボスに取り入れたい。このクエストをクリアしたら手を貸してくれないか相談してみよう。
と、俺の思考が明後日の方向に飛んいるとフォルに小突かれた。
「何をぼさっとしている。我々も行くぞ」
「あ、ああ。そうだな……行こ、ファスト!」
「きゅ!」
いっけねー、今はボス戦中だ。他人見惚れる場合じゃない集中しないと。
ここでナテービルの様子を改め見る。
複数あるHPバーの総数は全部で4つ。頭部、胴体1、胴体2、尻尾って感じの構成だ。胴体に2つもHPバーがあるのは長過ぎるせいだろうか?
そんな中俺たちが向かうのは胴体の2部位の境界線たる中央。
ヘンダーは初撃から引き続き頭部。
ヨグが基本尻尾を抑えながら、余裕があれば遊撃。
アガフェルは攻撃力は皆無なので後方待機しながら全体の状況把握と必要なら指揮を執るらしい。
パーティー戦なくせに俺たちのとこ以外がバラバラだが、これは仕方がない。
俺と『戯人衆』の3人は今日が初の共闘だ。そんなで連携なんて取れない。
その3人もこんな機会でもないと普段あまり顔を合わせないようでそちらでも連携は期待出来ないらしい。
あんたら何のためにクラン組んでるの言いたくなるが、そのことは今は置いとくとして……。
それで昨日の集会で話し合った結果、ボスが部位分けされてるタイプなら、この陣形で行くと決めていたのだ。
まぁ、そのせいで少人数だが連携が出来るこっちが2部位も任されることになったわけだが……とにかくこれで星獣と我々の戦いが本格的に動き出す。
ナテービル―― 胴体。
「む、また範囲攻撃が来るぞ!」
「なら壁出すぞ、ささっと下がれ」
「きゅう!」
この2つに分けれた部位は頭の方の胴体と尻尾の方の胴体でまったく別の能力を駆使する。
まず今攻撃して来た胴体・頭側。こいつは身体をびっしり覆う鱗を逆立たせ、そこにある突起を針のように飛ばしてくる。
体面積的に民家程度は軽々しく押し潰せそうな巨体でそれをやってくるので針の量が半端じゃない。とても見て躱せるものではなく、飛んでくる度に俺が魔法で土の防壁を張る必要がある。
幸いフォルがその前兆を読めるのか、事前に警告をくれるので、今のところ問題なく防ぎ切ってはいたが……。
……問題は胴体・尻尾側。
「ッ! 模様が完成した、備えろ!」
フォルから警告にその胴体を見据えさらに身構える。
ナテービルの鱗が怪しげな光を放ち、己の身体をキャンバスに幾何学模様が浮かびそれから発せられる光が天に昇る。
するとどういうわけかナテービルの動きが活発になり、模様が浮かんでいる胴体が鱗を剣山にしてはくねり、俺たちの居場所を防壁ごと薙ぎ払う。
それであんな分かりやすい準備動作があるにも関わらず、躱しきれずに前衛がダメージを負う。範囲がずば抜けて広く、あまりにも出が早いため近くで戦いながらだとどうしてもくらってしまうのだ。
今ところ、あの強化は瞬時にしか効果がなくなんとか持ち堪えてはいる。
でも回復手段だって無限にあるじゃではないんだ。あんなもんがずっと続くといつかジリ貧になる。
こちらからの攻撃は相手があの巨体故に外れるなんてことはないから、イチかバチかダメージレースに持ち込むのも手だとは思うが……HPがどれほどあるか分からないボスMOB相手にそれは遠慮したい。
「またもや加護の力を……卑劣な!」
「これが、星喰らいが奪ったっていう加護の力なのか?」
「ああ、多分私たち魚人族も授かっている加護……親海の加護だ。遥か昔にこの地から奪い去られた加護の半分……。その一部だろう」
なるほど、あのデタラメな挙動はフォルにも掛かっている海での行動補正の応用か。
それでも強化され過ぎな気はするが……それは多分、本来永続たる補正に効果時間を設け、瞬時の強化量を水増ししたのだろう。あくまで予想だがそれなら筋は通る。
にしても……あの準備動作のエフェクト、どっかで似たものを見た気がするな。
どこだっけか……ああ、あれだ。サルタ・ガルノルが使っていたあの特殊能力の準備と酷似してるんだ。
規模に差はあるものの、状況的に考えて同じか似た能力だと考えられる。やたら設定濃厚なこのゲームの星に干渉し、その力を喰らい簒奪する能力を……。
「星、星か…………もしかして。ファスト、フォル!」
「きゅう?」
「なんだ、こんな忙しい時に!?」
なんかHPがある程度減って頭の方の胴体から生えてきた、先端に鱗の付いた触手を捌いていたフォルが俺の声に怒鳴り返す。
「俺多分しばらく動けないから、ちょいと時間を稼いでくれ」
「どれぐらいだ!」
「知らん! 出来るだけ急ぐけど、やったことないからいつとか保証出来ない!」
「この期に及んでふざけてるのか貴様!」
「代わりに、もし完遂したらお前らの加護。俺が盗り返してやる」
俺のその言葉に信じられないとばかりに目を見開き、こちらを見るフォル。
「本来、星喰らいに飲まれた加護は例え奪ったそれを倒しても戻ってくることはない……。貴様に本当にそんなことが出来るのか」
「さっきも言ったが保証はしない。が、可能性はある」
「……加護を取り戻すはそれを奪われた人類の悲願。それが叶うのなら……いいだろ、一度だけ貴様の口車に乗ってやる。だが、もしこれで失敗してみろ、その時は我が手で直々に葬ってくれる!」
「それは怖い。これは失敗出来ねーな!」
「きゅう!」
小さな白い影と大きな背中の、何とも頼もしい相棒と……戦友の背に庇われながら。俺は天に向けて魔法を走れせたのだった。
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・追記
次回、3人称視点です。
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