第99話 星獣討伐戦-3
3人称視点です。
――――――――――――――――――
ナテービル―― 頭部。
「いい感じでダメージ入ったのはいいけど……」
頭突き、噛みつき、丸呑み、高水圧ブレス。
基本この4パターンを組みわせ攻め立ててくるナテービルの頭をいなしながらヘンダーは呟く。
「そのせいで特殊攻撃付いたっぽくて面倒だね」
「グアァアアァー!!」
「あと鳴き声が耳障りでうるさい。もっといいSE使えよ、運営!」
頭突きから噛みつきを躱され、そこを狙ってブレスで薙ぎ払ってきたナテービルが同時に目を光らせる。
そうなるとどういうわけか波が激しくなって足場を飲み込み、まるで海に意思でもあるかのようにヘンダーの足を絡める取る。
「くっ……もう、魔法でもないみたいだから感知も出来ないんだよね、これ」
大きな回避動作の後で海の拘束から逃れることも出来ず、まんまと足を取られてしまいブレスに飲まれたヘンダーだが、その顔に面倒くさいって感情はあっても危機感は伺えない。
それは決して楽観している訳ではなく、彼女からしたら本当にこの程度は些事でしかなからだ。
「ま、この段階での大体の攻撃パターンは見終わったようだし……そろそろ次、行かせてもらうよ」
ブレスという大技を放った隙きに後退したヘンダーは、いつもの全身を覆い隠す鎧をインベントリに仕舞い別の装備に換装する。
全身を色とりどりの鱗が覆い、腕、脚、頭上にヒレが綺麗な曲線を描くいて取り付けられている。
両肩からはまるで翼を広げるかのように半透明なマントが波風に揺られ空に煌めいていた。
「――
そんなヘンダーの挑発が聞こえたわけではないだろうが、そのタイミングでナテービルも動きだす。
今度は噛みつきからの丸呑みを敢行し、失敗したと見るや仕切り直すためまた高水圧ブレスを放つ。
「残念、それはもう効かないよ」
高水圧ブレスがヘンダーに迫り、その身体を飲み込む。大岩でも一瞬で粉々になるほどの激流がヘンダーを襲う。
だが、その激流をまともにくらったヘンダーはどうやってか涼しげ受け止めていた。いや、それどころか流れに逆らってブレスを登って行っている。まるで滝登りする鮭のように。
「こんにちはー、はい2本目ッ!!」
「グァッ!?」
そのままナテービルの逆三角形のシュッと尖った厳つい顔に急接近し、普段は大きさ邪魔で仕舞っている
それでブレスが止まり、ヘンダーも海に落ちるだけかと思いきや。
「よっ、と」
海面がぽよん、と軟みウォーターベッドに飛び乗ったみたいに弾みヘンダーを受け止める。
鱗装・スケイルの2つの機能。向かいの水流を高速で遡る『滝登』と任意で水に反発力を生じさせ足場に出来る『反水』。
ここ3rdステージの高レベルモンスターの素材をふんだんに使い、余計な能力を改造して削りに削り、水戦特化に能力を盛り込んで仕上げた一品だ。
「さーて、ここから本番だよ海蛇くん。精々自分のホームグラウンドを盗られないよう気張ることだね!」
「クァアアアアァアーッ!!」
果敢にも威嚇し、それからも奮闘するナテービル(頭部)であったが……。
一度有利を取ったヘンダーからそれを取り戻すことは出来ず……それからも翻弄され続けるのであった。
ナテービル―― 尻尾。
「チッ、こっちは召喚主体かよ。一番ダルいとこ当たっちまったな」
次々と出てくるナテービルを小型化した取り巻きのモンスターを手が変形した機銃で殲滅しながらヨグが愚痴る。
ナテービルの尻尾は取り巻きを呼び出せる部位のようで、鱗の隙間から自分の姿を模した小型のモンスターを生み出していた。
無論それだけでなく、取り巻きをある程度産むと真剣のように鋭い尾鰭で斬撃を繰り出したり、海水を掬い上げて大波を起こしてきたりもする。
幸い連撃性能が高い銃器を身体中に組み込んでいるヨグにとって、雑魚の数は大した問題にならない。
他の攻撃に関しても足を機械化することで早くしているのはもちろんのこと、ブースターなどを積んでいるので範囲攻撃を一時的に宙に浮くことで躱すのも容易だ。
戦闘系のジョブの補正なしにこれほどの高機動、高火力を出せるものは《イデアールタレント》のプレイヤー中ではそうそういないだろう。
そしてそんな感じのやり取りを戦闘開始からずっと続けて、数多の取り巻きと尻尾の部位をヨグひとりで完璧に抑え込んでいる。
「……やっぱこの身体はコスパ悪りぃな」
ただこの戦術に弱点がないわけではない。
MP、燃料、弾薬……と、この戦術を維持するには複数のコストが大量に必要だ。
そのために長期戦にはあまり向かず、短期でハイリスク・ハイリターンの利益が出るPKに走ったという経緯もある。
生産特化のビルドなのも資金節約のため、必要なものをすべて自力で用意出来るようにであり、PKで一撃必殺に拘っていたのは性格もあるがコストを気にしての部分が大き。
自分のアバターを改造に使ったのだってそう、生体器官を流用して可能な限りエネルギー効率を良くするため。
要は本来このようなボス戦など、彼がもっとも苦手とする分野なのだ。
「―― ま、それも今日までだけどな。あんがとうよ新入り。新ジョブの実験にはうってつけの場をくれてよ!」
今向こうで何やら集中にしているクランの新入りにこっそり礼を述べ、ヨグは左腕をぐっと横に伸ばす。
「武装展開――
キーワードを唱えた途端、左腕に何重にも線が走り、展開される。その開いた隙間から整然と刃が飛び出しズラッと一列に並ぶ。
それが全体を覆い、ハリネズミのようになった左腕が盛大な蒸気を噴き上げて刃ひとつひとつが腕から分解、射出される。
「食事の時間だ、喰い散らかせ!」
勢いよく飛び出した刃は無差別に取り巻きに刺さり、その身に食いこむ。一度刺さったら簡単には離れないように細工されたその刃からは極細の管が繋がれていて、赤い光が走る。よく見るとそれが射出口の左腕に収束しているのが分かる。
一見それだけで対したダメージもなく、何も変わったところはない。だが、ヨグの色んなコストを管理しているシステムUIは劇的な変化を見せていた。
「MP吸収、燃料変換、弾丸製造……全機能、オールグリン!」
ヨグがあの集会の直前に得た新ジョブ……
その名も『変換術』。自身が持っているならどんなモノであろうと原点に還し、使い手の腕次第でどんな形にでも再構築する特殊なスキルだ。
それにより今も新武装の
3Dプリンターに入力する以上に正確な全体像と、それの構造、構成成分など……そういう細かい情報をはっきりイメージして制御しないとあっさりと失敗するとても繊細なスキルであるが……ヨグはこれをこの短時間でものにしてみせた。
それはつまり、ヨグの集中力と材料が尽きない限り、半永久的に継戦能力を維持できるようになったことの証明でもあった。
「これならいけるか、
キーワードに呼応しヨグの全身がある箇所は開き、ある箇所は曲がりながら、その全容を大きく変えていく。
スパークと金属音を鳴らしながら変形が終わったあとにそこにあったのはすでに人間の原型を留めておらず、何十の銃口と観測機器を並べ、いくつもの主砲をぶら下げたただの兵器でしかなかった。
手足すら消失していたが、それはどういう仕掛けか下部から浮力を発生させ、宙にホバリングしながら機動力を確保していた。
―― これがヨグの全力戦闘形態。
前までは作ったはいいが、コストが圧倒的に足らず、形態の維持すらも満足に出来なかった
それが今、新ジョブを使いこなすことによって日の目を見ることとなったのだ。
「はっはー! こりゃーいい! 千でも万でもかかってこいや!」
それからナテービルの尻尾側ではヨグの
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