第64話 ダンジョン・イン・レース-2

3人称視点です。

――――――――――――――――――

―― 連結兎ラインラビットにより広大な迷路と化した6階層にて。

いち早くそこに着いた『Seeker's』はその中を彷徨っていた。


「くっそ長げーな、この迷路」

「最初から不思議だったのよ。なんでこんな広いとこに壁と砦ひとつしか置いてなかったのかって……このためだったのね。完全に不意打ちを食らったわ」

「だっる! うぅ、今すぐ壁の上を歩るいてショットカットしたいぃ」

「我慢しろ……今も、ほら」


そう言ってメルシアが指し示した方には遥か遠くの後続が今まさに壁の上に飛び乗ろうとして……空中で集中砲火を食らう最中であった。広大な6階層全体を迷路にしているラインラビットの壁から弾幕の如く撒かれる餓鬼兎が宙にいるプレイヤーを貪るそれはまるで悪夢そのもの。


似たような光景はあっちこっちで起きているようで6階層の広い空洞には今も断続的にプレイヤーの断末魔が響き渡っている。


「確かにあれを向かい討ちながらのほうが大変そう……」

「こっちに居るからって襲ってこないわけでもないけど、な!」

「しっ!」


襲い来る餓鬼兎を戦闘のコスパが一番良いメルシアとカグシを護衛にハイスピードで進む『Seeker's』はお空で爆散してるプレイヤーたちを見ながら迷路を彷徨う。

ふたりに守られながらバッキュンは隙きなどのフォロー、メキラはマッピングと役割分担を行っている。一見順調そのものに見えるがしかめっ面のメキラの顔が状況があまり芳しくないことを物語っていた。


「やっぱり……この迷路壁を組み替えてるわね。まあ、壁自体がモンスターだから当たり前ちゃ当たり前だけど。面倒なことになったわ」

「最終手段として混乱薬を撒くという手もあるがどうする」

「今回は競争イベみたいなもんでみんな襲ってきてるし、それならMPKだののイメージも気にしなくっていいしね」

「こっちも大変なのは変わらないからあんまり乗り気はしないわね……。ま、最悪の場合はその手も考えるしかないんだけど。今はゆっくり行きましょう」

「そうだな……ここで無理する必要もないか」


先行してるだけあってか『Seeker's』が慎重に思考が傾いてる一方で引き離された後続……『快食屋』などの上位クランは少しばかり焦っていた。


「まずいっすね。見た感じ先頭にはかなり離されたみたいっす」

「仕方ない……少しばかり無茶をするか。お前たち、クレーンモードでいくぞ」

「え、あれマジでやるんすか?」

「無論だ。そもそもこの壁を皆で越えるため練習したのだからここでやらずどこでする?」

「はぁ……仕方ないっすね。聞いたな野郎ども! 火を上げろ!」


料理人風のプレイヤーたちから料理が飛んでいきそれを食ったモルダードが変貌を遂げる。ただそれは普段のバランスを考えた戦闘用のそれとは少々異なり、片腕だけを平べったく変形した歪な姿になっていた。


「よし、いい具合だな。乗れ」

「へいへいっす」


『快食屋』のメンバーがその腕に乗ると抱き込むようにして固定し、そのまま大ジャンプ。片腕に十数人を抱えているいうある意味コミカルな状態で壁の上を走り、夥しい数の餓鬼兎の弾幕を迎撃しながら跳ね回るモルダード。

バフは広い腕の中から料理して直接口に運ぶことで妨害されず済む。この形態は本来、餓鬼兎対策のひとつとして考えたもので、今回の場合は運搬手段して応用が効いたと言ったところだ。


周りのプレイヤーたちもそれに呆気にとられたのか大口を開けて凝視しているものもしばしばと見かける。だがそれを見てる中にはただ感心してる者ばかりだけではなかった。


「くそ、デタラメにも程があんだろ! これだからリアルチートはよ!」

「そうかんかんするなって……もう準備できてるから」

「お、待ってました!」

「おっしゃぁー! トップクランどもに一泡吹かせてやるぜ!」


6階層、そのかなり後方にて。弓を持った多くのプレイヤーたちが同数の魔法使いの人たちと組み鏃に液体が入った変わった矢を番えていた。

ある者が……中堅クランのマスターのひとりが合図を出すとそれらは一斉に6階層の天井近くまで浮上していき狙いを絞る。


矢の向ける先は先頭集団……その中でも特に目立って2クランに集約される。


「撃てーッ!」


狙い違わず先頭集団の周辺に打ち込まれた矢は詰められていた液体を撒き散らし瞬時に気化させる。8階層に備えてるプレイヤーたちに影響はなかったが周りの壁……ラインラビットはそうでない。気化した液体……混乱薬を吸い込んだラインラビットが暴走を始めるバラバラに先頭のものたちを襲い出す。


それを直前に察知した『Seeker's』は空中で矢を打ち込んだ集団を睨む。


「あいつら、やりやがったな」

「大方、ラインラビットをけしかけて先頭を足止めと消耗。それと運が良ければ仕留めるってところからしらね」

「まったく、やることがみみっちいよね」

「ん、それは……同感」

「この手の連中には困ったもんだぜ」


口ではそんなことを言いながら彼女らに困った気配などは微塵もない。実際にここの4人はもちろん、他の『Seeker's』メンバーからしてもこの程度は危機のうちにも入らない。

確かに一方的にモンスターをけしかけられるのは面倒極まりないが……。


「それならこっちも出るとこ出るまでだ。バッキュン、メキラ!」

「了解、撃ち落とすのね」

「アイアイサー! このシチュは完全にあたしの独壇場! 任せといて!」


―― プレイヤー同士の戦いも激化を一途を辿りながらダンジョンの攻略レースは続いていく。



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