第65話 ダンジョン・イン・レース-3
3人称視点です。
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6階層での競争が激しくなって暫く。
「うりゃりゃー! これで50人目撃破!」
「こっちはやっとその半分だってのに……相変わらず呆れる腕前ね」
「がぁ……ッ?!」
「ま、またやられた!」
「ここ何百メートル離れてると、ぐはッ!?」
「あーははは、人が羽虫のようだ!」
「あんたね……はしゃぐのも程々にね」
「そんなこと言って、そっちだって100以上の魔法を偏差射撃とかテンション爆上がりでぶっぱしてるくせに何言ってるのさ!」
「う、うさい! 私はあんたみたいなバケモン精度ないから仕方なくやってるだけよ」
的あて感覚でプレイヤーを撃ち落とすバッキュンとメキラに為す術もなくやられている後続のプレイヤーたちだが、その数は一向に減る気味がない。
それもそのはず彼らは今も後から来た手頃なプレイヤーたちに同盟を持ちかけ、今は先頭を蹴落とすのが先だと言いくるめて数を補充し続きているのだから。
「混乱食らったラインラビット自体はどうとでもなるが……これがいつまでも続くのはダルいな」
「ん、正直……めんどい」
「それに……」
今も引き続き護衛をしていたメルシアとカグシが愚痴を漏らすそのさなか、モンスターの影に潜み隠密系に振ったプレイヤーたちが近付く。奇襲を仕掛けるつもりだったようだがいち早く気がついたメルシアに先制攻撃されさくっと処理される。
だがこの手の襲撃はさっきからずっと続いており、それが地味にふたりの負担を増やしていた。
「いくら勝てば全部チャラな上にお釣りが来るとは言え。よくあんなに躊躇なく捨て身で来るもんだ」
「多分取り分を確実に分けるため、ここで即席で出来たクランとか乱立してるせいね。昨日あの放送からそんな動きを見せてたプレイヤーがちらほらいたし」
「マジ? みんな頑張り過ぎっしょ」
「あの莫大な被害リストがそのまんま報奨かもなんだ、あんだけあればクラン単位でもトップが狙えるかも。と思った連中がチーミングじみたことするのは予定調和過ぎて驚きもないわ」
「手、動かす……忙しい!」
「おっと悪い。そんじゃこんな面白みのない連中ささっと切り捨てて先に行きますか!」
『Seeker's』が気合を入れ直し襲ってくる後続プレイヤーたち迎え討ってる中。
『快食屋』にも彼らの魔の手は伸びていた。
「ふん!!」
「ぶへら!?」
「やっぱ無理……がぁッ!?」
「く、くそ……こっちは6人がかりなのに」
とは言ったもののこの程度のやられるモルダードではなく混乱したラインラビットはもちろん、その合間に襲ってくるプレイヤーたちも軽くいなしては止まらない。
ただ他の仲間までは流石にそうでもないらしく、少しだけ困ったことになっていた。
「クラマスに報告。どうも輜重隊役の班のいくつが後続の連中に足止め食らってるらしいっす」
「ふむ、それは困った。9階層を突破するには今の食料だけでは足りない」
「そうっすよね」
『快食屋』は今回大量の頑丈なモンスターが犇めく9階層での持久戦を想定してクラン総出で普段以上に食料持ってきている。昨日あの放送の後にジョブ枠に余裕があるものには、あくまでも自由意思の元にインベントリが拡張するジョブ運び屋を取ってほしいと頼むまでの徹底ぶりだ。
その殆どが『快食屋』でも上位の戦闘力を持つ者に守らせているお陰でそう簡単に死にはしないが、足止めされて分断されるだけでもモルダードからしたら相当に困る。
「一旦救援に向かったほうがいいっすかね?」
「いや、だめだ。それでアレを先を取られては元も子もない」
「それもそうっすね。では……」
「ああ、強行突破だ。どっち道こっちは9階層にまで行けば目標は達せれる。お前たちには……正直悪いが……」
モルダードの目的は今回も攻略などではない。あの白い眷属……ファストと再戦し決着をつけること。自分の戦い方の都合で常に財政難のクランのことを考えるとその上で攻略までしたかったが状況的にどっちか諦めるしかなさそうだった。
それにまた自分の都合を優先してもらうことに罪悪感を感じたモルダードだったが……。
「いいっすよそんなの。俺らも好きでやってることっすから」
「そうか……ありがと」
「へへ、どういたしましてっすよ」
『快食屋』はその成り立ちの通りモルダードに破れたプレイヤーたちが舎弟みたくなって出来たクランだ。その奥底にある原動力は言わばモルダードの羨望であり……強引に言い換えればファン心理とも言える。
自分たちの憧れたこの漢に最高の戦場を。
それのためならちょっとそっとの不利益など構いやしない。それが『快食屋』というクランなのである。
「全班に通達! 今から輜重隊を死守ながら6階層を強行突破する! 派手に動くから俺に続けェーッ!」
『おおう!!』
クランのボイスチャット越しに歓声が轟きそれを合図に足を変形したモルダードが飛び出す。ラインラビットの壁を容赦なく踏み越え、飛んでくる餓鬼兎を払い除け、行く手を阻むプレイヤーを薙ぎ倒しながらも一切止まらず最高速で駆け抜ける。
それと他の『快食屋』メンバーたちなのだろう。モルダードほどの理不尽な勢いはないものの、それに負けないほどの気迫で障害を押しのけ、突き進む料理人と歪な肉体を持つ戦士の集団が遠くから見える。
こうして2クラン奮闘の元、彼らは6階層の様相は混迷していき……その戦況を維持したまま多くのプレイヤーたちは7階層に踏み入れるのであった。
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