第66話 ダンジョン・イン・レース-4

3人称視点です。

――――――――――――――――――

モンスター、プレイヤー問わずの激しい攻防の戦場はまた変わって『増蝕の迷宮エクステラビリンス』7階層。


「そっちいったぞ、脇道に弾け!」

「ん!」

「こっちもよ、接近多数!」

「任せて! うりゃりゃー! 塊◯モドキは滅多打ちだー!」


狭苦しい洞窟の中、銃声と金属音が鳴り響く。

戦場が7階層に変わったことをきっかけに他プレイヤーたちの妨害はさらに激化していった。

時間が経つにつれ一部の即興チームが徐々に連携が取れるようになったのもそうだが、ここ7階層が意図的に妨害するには適した場所なのも一役買っている。

◯魂モドキ……ラインラビットの塊はモンスターであるが故にノックバックなどのスキルで動かせる。壁形態たった時には重量差のマイナス補正のせいで多少後退させることしか出来ず、すぐ復帰するだけだから意味がなかったが玉形態は手頃な大きさとサイズだ。


そうなると手練れのプレイヤーがその気になって協力すれば塊を望むほうに誘導するのはそう難しくない。そのせいで妨害が集中する先頭に玉が集中し他が薄くなる現象発生する。それでさらに妨害し易くなる。『Seeker's』からしたら完全に悪循環だ。


「にしても、今日は前より多くないか! このうさ玉!」

「そうだね! 確かにッ! 増えてるよッ!」

「栗鼠も……! うざったいッ!」

「そう思うなら口より手動かしない、よッ!」


今も奮闘を続けてる『Seeker's』の4人の見立て通り現在の7階層も普段よりモンスターが増量している。

通路には詰まらない程度にラインラビットたちが大量に転がっているし、吐栗鼠だってほぼすべての巣穴でスタンバっている状態だ。それに減るどころかじわじわと増えているプレイヤー側の妨害までいるのだから堪ったもんじゃない。


どんな実力者だってこんな物量に絶え間なく攻められれば疲弊する。時間もすでに昼時に差し掛かっていることもあって『Seeker's』と言えど無理がきていた。


「まずいな。俺たち以外のメンバーに露払い頼んでこれだ。どうにか早めに安全地帯の階段に着いて休まないと……このままじゃ最後まで身が保たない」

「こっちがモタモタしてる間にモルっちたちにも先越されちゃったみたいだしね。料理バフの爆発力が今だけは羨ましいよ」

「うちも誰かがガス欠する覚悟で行かないとダメそうってことね。はぁ……柄じゃないけど仕方ないか……」

「……メキラ?」


今以上に魔力を放出し明らかに大技を準備するメキラに注目が集まる。


「この大一番に誰かが拔けるなら私しかないでしょ。この中じゃ戦闘力ビリなんだし」


それに対し何でもないかのように肩をすくめてからこう言い放った。それでメキラが何をするつもりなのか気付いた3人してハッとなった。

ここでメキラにこの数百はくだらない数の敵に殿を任せて先へと進めと。彼女はそう言っているのだ。


「いや、でも……それって」

「ん……」


ただそれを聞いたバッキュンとカグシはメキラにだけ負担をかけることが気にかかるのかあまりに乗り気ではない様子だ。いつも戦闘以外の面は助けられ放しなので、戦闘でも負担を背負わすことが後ろめたく思ったのもある。


「……そうか。まぁメキラがそう分析したんなら、今はそれが最適なんだろよ。なら俺は特に反対はしねー」

「ちょ、メルっち!」


でもメルシアだけ違ったようであっさりとメキラの提案になった。それに慌てるバッキュンたちだったのが……


「その代わり! ……やるなら後続連中に目に物見せれるぐらい派手にな。我らが参謀殿」

「まったく……いつも調子だけはいいんだから!」


……この時に見せた彼女のあまりにも生き生きした顔に反対とは言えず。


「もう。そんな“ここは私に任せて先にいけ!”的なことがやりたいなら好きにしてよ」

「ん、メキラ……ファイ、ト」

「……ふふ。それじゃお言葉に甘えて、そうさせてもらうわ!」


そんな冗談交じりに応援するぐらいしかなかった。それだけ言って持ち場に意識を戻したふたりと入れ替えに敵に剣を向けたままのメルシアがメキラに背中を合わせてくる。


「あんま無茶すんなよ」

「それ、あんただけには言われたくないわ」

「はは、それもそうだな」

「ほんとにね……合図したら走って」

「おう」


それだけ交わすとお互いの背を押すようにして飛び出す。


「行って!」


仲間に報せると共にメキラは溜めていた魔法を解き放った。

火、風、土、水と四大属性の魔法がメキラの周りを無数に漂い、順次に通路を駆け抜けていく。その総数は瞬く間に千に届き今もなおメキラのコストを犠牲に噴出していた。


―― メキラのジョブ構成はメインを魔法使い系に据えたものしサブを情報収集に重きを置くものになっている。

例え『鑑定』が効かずともその情報収集ための耳目までは死んでいない。色んなジョブの組み合わせにより今も7階層のほぼ全域を体感で把握しているメキラは同僚たちの行く手を阻むものをモンスター、プレイヤー問わずにロックオンしていた。


その結果。千をも越えた魔法は生きてるかのように7階層中を飛び、味方に仇なす敵だけを葬っていく。このまま行くとここにいる敵はラインラビットを除くと彼女ひとりでも殲滅しうるんじゃないかと、そう錯覚を覚えるほどの威容。


「ぐ、うぅ……やっぱり、これはしんどいわね……」


たが、この魔法行使には相応にメキラにも負荷が掛かっていた。

メキラは持ち前の並列処理能力により千を越える魔法を個別に操作している状態だ。こんな行為が脳に優しいはずもなく。さっきから鈍い痛みが頭部を打ってやまない。

システムも警告を出してはいるが、強制ログアウトするほどではなく、メキラもそれを知ってギリギリのラインを調整していた。


「ほんと……なんでこんな、苦労までしてるんだか……うぐっ」


何か抱えるカグシちゃんをほっとけなかったとか、バッキュンのじゃじゃ馬加減が少しだけ妹の無鉄砲に似てたとかあるけども。やっぱり何よりの理由は……。


「あの、あんぽんたんのせいね……!」


昔からそうだと悪態をつく。

高校の頃だったろうか彼女がメルシアを最初に見たのは。あっちは気付いてもないようだけれど。

その時から誰より勉強も運動も出来て、明るくて友達も多くて……本当に何でも出来るみんなの憧れの人。無論メキラ自身にとっても。

だが可愛いものに目がなく、それが拗れてオタ趣味だった日陰者の私とは本来縁のない人物だった。

でも偶然ゲームで知り合ってそこで以外と何だかんだ気があって、気に入られて……オフ会することになって……チームを作るとなった時に――。


「ははは、お前ほんとスゲーな。思考操作をこんだけ同時にやれるって」

「凄くなんかないわ。こんなマルチタスクなんてやろうと思えばあんただって出来るでしょう」

「いやいや、マルチタスクが出来てもお前と同じには無理だわ。どうしても途中でこんがらがるし」

「そんなの考える喧嘩しないようすればいいだけなんだけど……」

「そうそれ、その感性! 俺にはそれが分からないんだよ。考えるが喧嘩しないってなんだ。訳わかんねー」

「そ、そこまで言わなく……」

「だから! これから遊ぶ時、俺が困ったら頼らせてくれ。な?」


―― 不覚にも憧れたいた人物のその言葉を嬉しいと感じてしまったから。


「本当に、一生の不覚よ……」


そろそろ限界かとその場で膝を着く。MPはもちろん、持っているポーションや触媒も使い果たした。頭も鉛のように重くて倦怠感がアバターにも関わるのしかかる。


そのメキラに向かって近寄るプレイヤーが数名。あの魔法の嵐の中で偶然ながら生き残った後続の生き残りだ。


「へへ、やっとあのデタラメな魔法乱舞も止まったな」

「まったくむちゃくちゃしがやって。お陰でこっちはほぼ壊滅だつーの」

「こそこそ鼠のように、隠れるのは……もうやめたの?」


へらへらした顔で寄ってくるプレイヤーたちに精一杯強がるメキラだったが、今は本当に指一本動かす力も入らない。疲弊した脳が休息を求めてアバターの動きさえも重く縛っているのだ。


「うっしゃぁ! これで『Seeker's』大頭の一角討ち取ったりぃー!」

「くっ!」


もうここまでかとメキラが悔しげに目を閉じ来るべき衝撃に備えていると……カキンッと金属音を耳朶を打つ。


「間に合った!」

「ナイスよ! あんたらはお姉ちゃんから……離れろ!」

「へぶっら!?」「ぐぁらはっ!?!」


いつの間にか割り込んだд゚)カベウラコンビにより暴漢のようににじり寄っていたプレイヤーたちは攻撃を防がれた後、暴風をくらい奇声を上げて吹っ飛んていった。


「「大丈夫(ですか)!?」」

「ええ、お陰様でね……じゃなくて、どうしてあなた達がここに」

「いや、それが……」

「メルシアさんがからお姉ちゃんがピンチだからって聞いてすっ飛んで来たのよ! もうこんな無茶して。らしくもないわよ」

「あ、それ言うなと言われたのに!」

「あはは、ごめんなさい心配かけて。……にしても」


相変わらず口でどう言おうがうちのリーダーは心配性なんだと、そう思うメキラであった。


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