第63話 ダンジョン・イン・レース-1

3人称視点です。

そして第1部、クライマックスへ!

――――――――――――――――――

プレジャが予告した当日。今はまだ閉ざされている『増蝕の迷宮エクステラビリンス』入口前。

開放時間近くになった頃、然程広くもないその場所に多数のプレイヤーたちが犇めいていた。


「撮影の準備もこれでオッケー! こんなことになったし、ここからは『快食屋グルメ』とも競争か~、プレイヤーのみんなとも」

「それもこんなに大勢とな。いいぞこういう雰囲気、俺は嫌いじゃない」

「祭り、みたい」

「祭りか……似てたようなものかもね。正直このゲーム、コンテンツ不足だったしみんなバカ騒ぎに飢えてんのよ」


その中に混ざって『Seeker's』の面々もダンジョン突入の準備を整えている。ただ普段と違うのは周りの視線が有名人をあったそれではなく、警戒や敵愾心などの伺うようなものなっていること。

それも当然、報奨が“倒したプレイヤー1個人もしくは1団体”にしか渡れない以上ここでは実力あるクランということは強力なライバルということでもある。真っ先に目を付けられるのはある意味自然な流れだった。


そして同じ視線に晒されている集団もうひとつ……言わずもがな『快食屋』である。


「おーみんな目がこわいこわい。こりゃ下手するとダンジョン内で襲ってきそうっすね」

「それなら返り討ちにすればいいだけだ。気にすることはない」

「あはは、クラマスならそう言うっすよねー」


そんな感じでがやがやと騒ぎ牽制し合う中、開放時間が近づき皆の意識がダンジョンのほうに向かう。その瞬間ダンジョン入口の上にホログラムのような映像スクリーンが展開され尊大に椅子で足を組んでいるプレジャが姿を見せる。


『やあ、本日お集まり頂いた皆さん。スキル越しですがこんにちは―― こんなに俺を殺してたい人に溢れているとは喜びでむせび泣きそうだよ。もう御託はいらないという人が殆どだろうし……早速ダンジョン開放のカウントダウンと行こうか! 10、9……』


まずは挨拶……と思いきや唐突に始まったカウントダウンにプレイヤーたちが慌ただしくなる。


「おっと、いきなりか! 突入準備はとっくに済んでるな!」

「「もち!」」

「こちらも問題なしよ」


「いよいよっすね」

「ああ、お前たちも構えろ。すぐに出る」

「了解っす!」


『2、1……オープンッ!!』


カウントダウンが終わると同時に時刻が8時になり兎の頭蓋骨の形をしたダンジョンが門歯を上げ、その口を開ける。それで一斉にダンジョンに向かって走り出す……かと思われたが。


「食らえ!」

「ヒャッハー! 消し炭じゃああ」


ダンジョンが開くと同時にプレイヤー間で飛び交う剣、矢、魔法の嵐。

ダンジョン前はすぐにライバルを亡き者にし自分だけ先行しようとする無法者がために溜めた殺意を撒き散らす混沌の渦と化した。

脆いもの、油断していたものから先に消えていき辺りを赤い粒子が彩る凄惨な光景が繰り広げられていく。


「うひゃー、みんな派手にやるな!」 

「まぁ、参加者同士でどうしろとか何も記載がなかったからね」

「あはは、そりゃこうなるよねよって感じー!」

「ん、でも。みんな……楽しいそ」


たが、その中でも頭ひとつ抜けた者たちはそれを躱し、払いながら悠々と進んでいく。先頭に突き出ている当然のように集中砲火されるがそれすらも何のその。逆にその攻撃を隠れ蓑しさらに行進速度をあげられる始末だ。


「クラマス、もう何階層ぐらいっすか?」

『3階層だ』

「さっすがっす。俺らももう抜けれるんで4階層で交流するっすよ」


一方、力量差があるもの同士での集団……『快食屋』などは少し違う様相を醸していた。

『快食屋』のメンバーはいつもの目立つ白いシェフ服をから着替えて隠密行動に補正の掛かった装備に身を固めてこっそりダンジョンに入場していた。彼らは本来モルダードや同じ戦法の仲間の邪魔にならないように隠密系のジョブをひとつは備えているが故の作戦だ。


このような頭脳戦も至るところから行われており、仲間が気を引く間にダンジョンに入るもの。騒乱に乗じて怪しげな密談を始めるものなどなど白熱した駆け引きが見られていた。ダンジョン入口前の混乱はこのまま暫く静まりそうにない。


そして場面は移りダンジョンの中。

ライバルを出し抜き上手いことに先行した者たちは……いつものと違う決戦モードダンジョンに困惑していた。


「ぎゃあぁあ~!?」

「何だよこのモンスター量は!?」

「こんなのどこ行っても『波』と変わらないじゃないか!」


現在のダンジョンは普段ならモンスターの個体数を調節する徹底的に管理され、閉ざされていた『繁殖』を利用した農場の一部が完全開放されている。

そのせいで今ダンジョンには溢れんばかりの量のモンスターたちで犇めいており、『繁殖』でその数は今この時にも増え続けている。

ダンジョンが普段と違うことを想定してなかったプレイヤーは早々に物量に潰れて今頃、直前のリスポーン地点に飛ばされていることだろう。


一部の上位陣はそれでも勢いは止まらず5階層までは余裕を持ってこれた。ただ問題はボス戦前の待ち時間。


下層完工以降からここのボス戦はひとつのパーティーがボス部屋に入ると、そのパーティーがボスを倒すまでは通ることが出来ない。ここ5階層のボス部屋だけはホームエリア『闘技場』を区切り、ルールを弄って『限定入場:対戦者のみ(最大1パーティーの6人まで)』にしているからだ。これで対戦者が一度空にならないと次は入って来れない。

ちなみにここだけを区切ったせいでPK報酬は貰えないが、正直タネが割れている奇脚兎トリキックラビットに負けるプレイヤーが今になっては稀なので特に大した損害は発生していない。


それにボス部屋の扉は扉職人というニッチな生産系ジョブが作った自由に施錠、解錠条件を設定できる破壊不能の扉(超高価)を購入して対応している。6階層への扉は鍵条件『奇脚兎トリキックラビットの死亡』となっていて一度通るまで開けたまま閉まらない。逆に4階層に戻る扉は『奇脚兎トリキックラビットの死亡』が施錠条件になっている。これで内側で扉を開けてもらうなんてズルも出来ない。


そのせいで待ち時間が発生し足止めを食らった先行組はここでぶつかる羽目になる。

そんな中で先鋒の栄光を掴み、ぶっちぎりでボス部屋に入ったのは『Seeker's』であり……。


「がああぁ、忙しいっす! きりがないっすよ!」

「むぅ、少し遅かったか」


……次鋒の貧乏クジを引いたのは仲間との合流で少しだけ出遅れた『快食屋』だった。彼らはのびのびと襲ってくる他のプレイヤーたちをボス部屋前で迎撃し続ける。順番を譲らないためにはそうせざるを得ない。

他所に一旦隠れていようにもモンスターがダンジョンにぎっしり詰まってるような状態なせいでそっちも今の状況と変わらなく意味がない。


5階層から上は正に激戦の体をなしてきていた。


まぁ、だからって先行した『Seeker's』が楽をしているかと言えば……


「えっと……ナニコレ?」

「6階層全部が……兎の肉壁で迷路になってるぅぅぅー!?」


……決してそんなことはないのだが。





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