第62話 再現
途中から3人称視点です。
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トップクランたちの同盟がダンジョンから引いていったその次の日。
「ついに9階層まで人が来たか……そろそろだな」
ダンジョンの奥底でいつものように仮想スクリーンを眺めていた俺は『Seeker's』と『
これで俺が仕込んだネタはほぼ出尽くした。その間にも諸々の宣伝誘導のお陰でかなり稼げはした。が、これじゃまだ足りない。
なんだってプレイヤーはジョブ、ランクとレベルと毎日成長している。どうにかここいらでどかんと稼いで暫くダンジョンと自己の強化に勤しまないとこの先にやっていけないことは明白。だから一度は大仕掛けが、それも今以上のプレイヤー巻き込めるものが必要だ。
「そのための準備はすでに済ませてある。あとは時間に合わせて放送するだけか」
これが2回目になるがやっぱり緊張するな、生放送は。今回は録画でも良かったんだが発言の信憑性や何よりインパクトの問題もあるしな。……あと、映像撮るのはまでいいとして編集とかやり方まるで知らんし。
現実と違ってこっちの
動画配信者はよくこんなんで心臓持つなと思いながら時間になったので配信のボタンを押して生放送を開始する。
『プレイヤー諸君、久しぶりだな。『
前回の最後に引き続き尊大な態度でそういうと、コメント欄が凄まじい勢いで流れていきダンジョンで損害を被ったと思しき者たちから俺への恨み辛み、罵詈雑言とアンチコメが散乱するようになる。
やってることがやってることなので分かっていたが凄まじい数のアンチだな。お陰で完全に炎上商法じみてきた。
まぁ、別にこっちは不正なんてしてないしリアルの顔出しなんぞ一生しないので割とどうでもいい話だけど。
『皆も熱烈に歓迎してくれているようで幸いだ。さて……挨拶はこの辺にして本題に移ろう』
そこで自分の心を整えるため間を置き、しっかりとVR空間内の仮想カメラを見つめて口を開く。
『俺はついこの間、《イデアールタレント》全プレイヤーに宣戦布告をしたわけだが。ここにいる皆はこう思っているんじゃないか。そんなのゾンビアタックが続くとこっちが負けるしかないと』
実際にβ版の事件の時と違いこっちには時間制限はない。あちらが数の暴力で攻めてきたらどう頑張ったところで俺のダンジョンはいつか攻略される。そうなると俺はPKのデスペナ上乗せの影響をモロに喰らい大損害、ホーム機能ありきのダンジョンを維持出来ずに詰む。
こっちのホーム機能の事情はまだ分かっていないようだが……コメント欄を確認しても概ね同じ意見だったのかただ同意するものや、今更気付いたかとこちらを明らかに見下すコメなどが飛び交う。
『だから俺からひとつ提案……いや違うな。企画がある』
何だろという視聴者の気を引くように溜めを作り、宣言する。
『明日の朝から晩まで……週末丸ごと俺はダンジョンを開け放しにする。その代わり俺からはある契約を提案する。もちろん契約士を通した正式なやつをだ』
それを言った瞬間コメント欄がブワッと勢いを爆発的に増した。
◇ ◆ ◇
一方そのプレジャの生放送を知り即座にゲーム内で外部ブラウザーを開いていた『Seeker's』と『快食屋』の面々は彼のいう契約とやらの内容を見て目を見開かざるを得なかった。
「おいおい正気かよ。この条件」
「本当に契約士の認証コード入ってる……」
契約士。それはゲーム内での約束事を運営AI監視の元、必ず履行させる契約書類を作るスキル『契約』を持つサブジョブ。
画面越しではプレジャが示したその電子契約書がバッチリ映っており、そこにはこう書かれていた。
・明日の週末の朝8時~18時の間ダンジョン『
・ダンジョンの主
・ただし、もしも契約した者が指定の時間内にダンジョンの主
『―― とごちゃごちゃ書いているが要するに、誰かが俺を倒せば俺の強奪した財産は纏めて総取り、俺が勝てばまた諸君らからたんまり頂戴し暫くの安全を勝ち取る。至ってシンプルだろ』
誰ともなく息を呑む気配がした。
その通り内容自体はシンプルだ。だが、だったの数時間しか……それもどう見ても勝ち目の薄い喧嘩にゲームとは言え全財産を賭けるとか正気の沙汰ではない。しかもこのルールだと誰かひとりがプレジャーを倒せば特に罰金などないという、圧倒的にこちら側が有利な条件ときた。
そんなざわついた空気がここでもネット上でも広がっていた。その空気をぶった切るように彼は高らかに。
『それに何よりだ。お前たちも待ってたんだろ! こんな心躍るイベントを、刺激を! それともまさかこんな後衛ジョブひとりぶっ倒すのさえ出来ない腰抜けしねーのか《イデアールタレント》にはよ!』
胸を打つように、もしくは自分を昂ぶせるように叫ぶ。
それに呼応するようにコメント欄も熱気を帯びていき、罵声はいつしか戦意の雄叫びに染まっていた。何だかんだコンテンツが足りないとよく言われていた《イデアールタレント》に唐突に降って湧いた大規模な
『退屈してたんだろうが! その鬱屈全部―― 返り討ちにしてやるからかかってこい! 大決戦の始まりだ!!』
それを見計らったかのように放たれた最後の言葉にただの興奮から熱狂した雰囲気になったコメント欄を残して放送は終了しプレジャは去っていった。
この場で見てた者たちは暫く呆気にとられ静寂が流れた……かと思えばメルシアの爆笑がそれを打ち消す。
「あーはははは! こいつマジか! マジであの日の光景を再現しようってのか、あははは!」
「ど、どうしたのよいきなり!」
「あはは、だってよ……こいつ、俺たちが“魔王”のやつにボッコボコにされたあれを本気で目指すつもりなんだぜ。それも自分のゲームでの
「あらら、これそういうこと? だとすると……あたしたちもなめられたもんだね」
「ん!」
『Seeker's』の中ではメルシアが目配せを行いクラン員を見回す。みんな反応は様々だがメルシアがこれから何を言い出すのか察したのか毅然とした態度で次の言葉を待つ。
「この勝負、俺たち『Seeker's』は正式に受けるぞ。みんな反対な人は今名乗り出てくれ」
「ここで逃げるとかありえないっしょ」
「ん、同感」
「そうね……あいつには個人的に言いたいことがたっぷりとあるし。今回ばかりは私も賛成よ」
戦意を燃やすメインメンバー4人に続くようにして『Seeker's』の他のメンバーたちも参加を表明し概要欄に貼ってあったリンクからそれ用のページに飛んで契約を結んだ。
その場に居合わせていた『快食屋』はというと……。
「俺たちはどうするっすか、クラマス」
「そうだな……そう言えばあの眷属とは1勝1敗か。ふ、なら今度こそ決着をつけにいかねばな」
「そうっすか。ま、クラマスがそういうなら俺らは付いてくだけっすよ。なぁ、お前ら!」
「「おう! あったりめーよ!」」
こうして『Seeker's』、『快食屋』と《イデアールタレント》の数多なプレイヤーたちがひとりの男が起こした波に嘗てない思いを滾らせ、気持ちをひとつにしていくのであった。
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