第61話 9階層
3人称視点です。
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「この先がついに9階層か……でかしたカグシ! 流石だ!」
「むふー」
『Seeker's』、『快食屋』が揃った9階層階段前。
メルシアの惜しみない称賛にカグシが満足気な息を漏らす。でもそのあとすぐに姿勢をただし『快食屋』の方をみてこう言った。
「でも……コックの人なかったら。気付かず死んだかも、だから」
「そうか、そうか。ありがとなコックの人! あんま心配してなかったけど、やっぱこんなもしもはあるからな。本当に助かったよ」
「いや、どうもっす。ほんとの偶然なんすけとね」
「平然なふりしちゃって。口で何だかんだ言って一番の心配してた人がよくいうよね。あの人がカグシのとこ行くってなった時でもあんたがそんなに心配なら~とか言って白々しく背中押したくせに」
「それにバレてないと思ってるみたいだけど、戦闘中にもソワソワしてたものね」
「おいそこ! 離れたとこでこそこそ話しない! 大体聞こえてるんだからな!?」
と、そんな感じで両クラン揃っててんやわんやと騒がしく親睦を深めていると9階層の先行偵察を自ら買って出たモルダードら『快食屋』のメンバーが戻ってきた。
「ふぅー。ただいま帰還した」
「お、クラマス。どうだったんすか。9階層は?」
「ああ、入口付近で様子を見ただけだが……あれは相当ヤバいな」
「おいおい、あんたがそんなに言うほどか。それは……ワクワクしてくるじゃないか」
「はいはいあんたは一旦黙ってて。話が進まないから。それでモルダードさん、正確にどんな感じだったんでしょうか?」
美しい顔に獰猛な笑みを浮かべるメルシアを脇に退けで、メキラが本題とばかりモルダードに尋ねる。それを苦笑しながら見ていたモルダードはふたりのやり取りが落ち着いたタイミングを見計らって9階層の様相を語る。
「……と言ってもそんな説明する内容はない。階層のエリア自体はただの平面の大広間。それも6階層を越えた最大規模のだ。多分9階層は大広間一枚だけで構成はされている……が、そこがちょっと厄介なことになっていてな」
「厄介なこと?」
「まず9階層全域がモンスターで溢れかえっていた。それもここまで見たほぼすべての種類を網羅してな」
「うげ、それって……」
「ラインラビットを土嚢代わりにし吐栗鼠らしきものを銃よろしく携えた5階層ボスの群れを見たときには流石に自分の目を疑ったものだ」
「歩兵隊かよ」
「ちょー面倒くさいやつじゃないっすか」
ここにいるメンツほぼ全員がその光景を思い浮かべては顔を顰める。
ただ話はそれだけで終わらないようで、モルダードの口は止まらない。
「しかも連中と一戦交えた感想、手応えが変だった」
「変って、具体的にはどこが?」
「そうだな……上層の個体に比べてやたらと硬かった、気がする。偵察で戦ったのは漏れ出た雑魚だったからはっきりしたことは言えないがな」
「じゃあ、それも確認がてら降りてみるしかないか」
「……まぁそれしかないわね」
メキラは「あんたは自分が行きたいだけでしょ」という言葉を飲み込み頷く。モルダードが言ったのが事実なら出来るだけ行動を早めたほうがいいからだ。
『
こうしてくっちゃべっている間にも敵は増え続けている。時間を与えるだけこっちが不利だ。
「というわけで早速出発!」
「「おおー!」」
こうして『Seeker's』、『快食屋』のクラン連合は9階層に足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇
―― そして、そこから地獄の時間が始まった。
「撃て撃て撃て! 怯むな! こいつらは待ってくれね―ぞ!」
「あーもう! しっつこい! いい加減死ねし!」
「本当に……硬い!」
「堪えて! 今弱点を探ってる最中だから! ああもう数が多過ぎよ!」
「むぅ……まるで効いてる気がせんな。
「うおおお! てめぇら、何してる! ペース落ちんでぞ! もっとガンガン火に食材ぶち込め!」
9階層の様相を一言で表すならば正しく魑魅魍魎。
今まで『
そのくせに仲間を庇い、お互いの隙きを補いと妙に統率だけ取れているのだから質が悪い。そういうわけもあって9階層での戦闘は完全に膠着状態に陥っていた。
「はは、目標は分かりやすいのが真ん中に堂々と居るってのにな!」
「まっっったく近付ける気がしないね! あはは」
「笑いことじゃないでしょうが!」
その上、何故かどれだけ攻撃しても大してダメージを追わせられない。レベルが高い個体だとしてもありえない耐久性であり、何か絡繰りがあるのは間違いない。そしてそれらしきものも見えてはいる。
中央に自分がここでは一番偉いとばかりにドンと鎮座した山のようにデカい……ピンク毛の兎。背中には仏像とかによくある光背が毛皮の模様として黄金色で生えており、薄っすらとだが光を発していた。
「見た限りあれがここのモンスターを産んでるみたいだな」
「それも自分の進化系譜じゃないものまで産めてるから、『繁殖』以外に別のスキルも使ってるのは間違いないわね」
「それでどうするの! 誰か特攻でもかましてひと当てにいく!?」
倒せない敵と先が見えない状況に戦法の関係上、一番の撃墜数が多く、または忙しくなったバッキュンが思わず悪態をつく。本人もやけで言っただけのそれを本気で拾った
「そうだな……それで行くか。おい誰か俺の荷物預けてくれ!」
「ちょ、あんたが突っ込むつもり!?」
「このままじゃ埒が明かないだろ。こういう状況の死に戻り特攻はゲーマーの嗜みってな。ああ先に言っとくが付いてくるなよ、これは俺がやりたくてやってんだからよ」
「ん、わかった」
「そっか……じゃあガンバ、メルっち!」
「もう、勝手にしなさい!」
同僚たちなりの激励を背に支援に来ていた『Seeker's』の多数のメンバーに奪われては困る荷物と持っているゴールドを預けるメルシア。
軽く体をほぐして体調を整え……敵陣へとダッシュ!
敵モンスターの間をすり抜け、時に退かし、どれもダメそうなら進行先にいたやつだけ自慢の連撃を集中させて叩き伏せて敵陣の奥深くに潜る。
そのような繰り返し武具をいくつかだめにしながらもついにピンクの巨大兎のもとに辿り着く。
「近くで見るとさらにデケーな、おい。3階建ぐらいあるんじゃねーか」
見上げる巨体にも怯むことなく軽口を叩きまずはひと当てと剣を振るう。
「む、この手応え。またお前らか」
ピンク兎の長い体毛、その下に隠れていたラインラビットがチェーンメイルの如く体に巻き付いていた。とそこでカウンターと言わんばかり『自爆』したラインラビットがメルシアに飛んでくる。
「おっと。もしもの為に割合ダメージを混ぜたのが相当効いたっぽいな」
それぐらいは予想していたのか余裕をもって躱し、まずラインラビットを削るべきと次の攻撃に移る。
さっきと同じ
「なっ、全然効かない!?」
各種耐性があることを想定してすべての属性、耐性に対応できるラインナップでの
―― そこをすかさず白い軌跡が射抜いた。
両の腕が折れ、ダメージエフェクトが飛び散る。ポーション類まで預けた今はもう治しようがない致命傷。それを見てあちゃーと間違ってちょっとしたものを壊した時にみたいな顔なったメルシアは……。
「あー今回はわざととは言え……またやられたー! ……ま、今日はしょうがないか。そんじゃお前の主人によろしくとだけ頼むぜ、眷属くん」
「きゅう」
最初からそのつもりだったからだろう。大して悔しげでもなくメルシアはそれだけ言って死に戻っていった。
そのあとメルシアから「今アレ殺すのは無理」と一報が届いた事により、両クランが情報を整理するため一旦ダンジョンから引いたのは言うまでもなかった。
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