第110話 虹を刻む

数時間後。


『魔刻』を本格的に使うための諸々の準備を済ませ、俺は再び海のホームへとやって来ていた。


「まずはホームエリア設定を上だけ解除して……これでよし。じゃあ、手始めに本当にさっき考えたのが出来るか検証だ」

「きゅうー」


杖を掲げ、ホームエリアを囲む円錐の柱に魔法を掛ける。

途端に水が柱を登りだし、天辺でそれを噴射。光の反射を弄り虹の輪っかを海面の上空に描く。


この状態で『魔刻』を発動した後、魔法を解除する。


「お、上手くいったな!」

「きゅ~!」


すると登る水が止まるのに合わせ消えるはずだった虹の輪っかが空に刻まれ、基礎の魔法陣として成立する。

スキルの詳細に『どこでも』ってのはマジで『どこでも』だったようだ。


あの虹を土台に魔法陣を描けていけば、かなり迫力のある絵が完成して一石二鳥だな。細かい模様とかも『魔刻』を使って光属性の魔法で引けばいけそうだ。


「にしても、この場合ってどうやって消すんだろ?」


『魔刻』で地面描いた魔法陣は、描いた周りを丸ごと崩壊させないと消せなかった。

それを考えると、あの空……というか多分空間そのものに虹の光で書かれた魔法陣は空間ごと壊さないといけない……ような気がする。


「今のは消すつもりないからいいんだけど……。次に空間に魔法陣を描く時には慎重にやらないとだめだな」


まぁ俺の場合、最悪ヘンダーに頼んで消滅属性を使ってもらえば恐らく空間の魔法陣も消せると思うが……こんなことであの人にあまりに頼るのも、ちょっとな。

前のクエストみたいに喜々として請け負ってくれそうではあるけど、また何か悪巧みされそうだし。


「それはともかく用意した光属性の魔石と身体の星属性の魔石を触媒にして……こう」


円錐の柱から出る引力の噴水とおまけに虹の魔法陣及び海全体を照らす日差しを魔法で作り、魔石たちを動力に繋げて魔法の効果を留めさせる。

俺はまるでCGを多用したウォーターパークのポスターみたく派手になった景色をみて満足気に頷く。


噴水みたいな場合、天体の関係上、月の引力をいつでも使えるわけではないため俺が早く重力の方を操れるようならないとなんだが……こっちまだ要練習と言ったところだ。


まぁ、魔石化を解くのも繊細な操作が必要(調整ミスったら身体割れてあっさり死ぬので)良い訓練なっているし、そのうち出来るようになりそうだ。

というか、重力を操れることを目安にダンジョンを再開させる予定でもある。それが出来る頃には新階層の中身もほぼ完成してそうだからな。


「うん、あとこれでホームエリアに設定し直して……バッチリ完成!」


これで例え空間こと消滅させるような攻撃が来てもゲームシステムが確実に魔法陣を守ってくれることだろう。

つまり攻略中にあの虹の魔法陣の効果が消える心配は無いってことだ。


「魔法陣の設置も光の魔法なら割とどこでもいけそうだ。後は魔石を安定供給さえ出来ればいいけど……。ま、これは俺がサボらず頑張れば問題ないか」


実を言うと魔石は『錬金術』スキルで作成出来る。分類としては基本の素材作成ってことなり、どのモンスターからもドロップする無属性魔石と作りたい属性の魔力があればいくらでも作れる。


今までは特に必要もなかったから作ってなかったが、今後の展望を考えると俺の持っている属性の魔石は定期的に生産しないといけないだろう。


「さて、ここからが本番だな」


そう言いながらあの時にギルドで貰った魔法陣の用紙を取り出す。

あのあとインベントリを見たらいつの間にか勝手にこれが入っていたのだ。


そしてこれを調べて分かったのだが、この中には魔法陣の基礎、そのすべてが詰まっている。

市販にある魔法陣とか情報サイトのサンプルにあったのとこの用紙の魔法陣を比べてみた結果、他の一般的な魔法陣の模様構成が用紙のものをそのまま使うか少し応用しただけの代物だということが分かったのだ。


「つまりこれを研究、検証していけば魔法陣でやれることはすべて出来るようになる」


そこまで極めるのにどれだけ時間が掛かるかは分からないが……ま、俺は自分がやれるだかやるだけだ。そうすればいづれか、行くとこまで行けるだろよ。

現実ならともかく、これはゲームだしな。


「まずは用紙を元に水中でも活動出来るようにする魔法陣から」


これについては階層の壁の方はさっき虹で魔法陣描く時に思いついた。


問題は呼吸をどうするか。


俺に水の性質を直接的に変える手段はない。水属性や風属性を使えるなら簡単だったんだが、自分が切り捨てたものを今更惜しんでも仕方がない。


「別に空気がある空間を作ってそこで息継ぎでもいいけど……。折角だしな、何か新しいギミックを考えたい」


まぁ、今すぐは思いつかなので壁の方を先に作り始めるか。多分かなりの量になるから相当時間も掛かるだろうし、その間に頭を捻ってみよう。


「それではまず海にご入場ー……うわ、冷たっ!」

「きゅ!」


作業を進めるため砂浜っぽく飾った島端の海岸から海に入る。なんかずっと隣で見学していたファストも水面に前足をちょんちょんしてから入ってくる。そのままぷかーって浮いて泳いでついてくる絵面が中々シュールだ。


そういや砂浜の海なんて何年ぶりだろうな……お母さんが常に忙しく、金銭的余裕もなく一緒に行く友達もなかったから下手すれば10年以上は経つか……。


「ええい、そんなことより今はダンジョンだ! ここの浅瀬に魔法陣を描いて……。それから光属性をこう使って…………出来た!」


嫌な思いを振り払うように魔法陣を描き、光属性の魔石と繋いで起動する。

そうすると魔法陣を中心に光が集約し、一箇所に板状に固まってその存在感を表す。

っていうか表し過ぎた。


「うお、眩しい! 目がー……目がー!」

「きゅ~!」


なんてお約束のリアクションも一応取っておく。何かの遊びだと思ったのかファストも短い前足を顔にきゅっと集めて俺の真似をしている。

まぁ、実際は目が潰れるほどではないが……鬱陶しぐらいには眩しいのは事実だ。


「これは次からは光量の放出加減も指定しなとだ。でもその前に……お、乗れた! 光に乗れたぞ!」


遠慮なく周辺に輝きを撒き散らす光の板に乗る。

普通なら絶対に身体がすり抜けるはずのそこに、しっかりと全体重が乗り水底から若干上の高さに俺の足元を浮かせている。


「光を魔法で集め、性質を魔法陣で変えて壁にする。上手くいったな」


この光の板を上手いこと調整して向こう側が透けるようにすれば俺の当初の希望は大体叶う。

海深くでも虹で魔法陣を描いたのと要領で光で模様を描くなら、問題なく海の中にダンジョンを作れる。

そのあとにホームエリアに設定してしまえば立派な破壊不能のホームの壁には……出来たな。なら、海中ダンジョン用の壁はこれで完成だ。


「これを今から海中のあっちこっちに設置して回るわけか。これは骨が折れるな」


口ではそう言いがらも俺の声からはようやく本格的なダンジョンを作り始まるという高揚感がありありと滲み出ていたのだった。

――――――――――――――――――

・追記

次回は時間を少し先に進めてダンジョン完成後からの別視点です

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