第111話 再開

その日、《イデアールタレント》のプレイヤーたちはとあるお知らせに沸き立っていた。

知らないものが見れば、公式が何か大規模イベントやアプデでも発表したのかと思うだろうが、プレイヤーたちをここまで沸き立たせたのはまったく運営とは無関係の非公式からライブによるお知らせ。


ずっと前……もう1ヶ月以上も以前にあった大事件。


プレイヤーたちの間では『皆殺し迷宮事件』とも『第2の魔王降臨祭』とも呼ばれるあるひとりのPKにより起きた事件だ。


この事件により、大量の千を超えるレアアイテムと当時のサーバーの全所有ゴールドの20パーセントぐらいは独占したんじゃないかとすら噂されていた程だ。


そしてその事件を引き起こした張本人である、PN『プレジャ』がついにこの間にまた、前と同じ動画サイトのライブという形でネット上に姿を表したのだ。


その際の一部始終を話すとこうだったという……。


『お久しぶりだな、諸君。ダンジョン『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の主プレジャだ。あったのは随分前だけど覚えててくれたかな?』


『前の諸君らと俺の対決から、すでにひと月以上の時が過ぎた。予期せぬトラブルもあったものの皆が盛り上がったようで俺自身は大変満足している。たぁっぷり稼がせて貰ったしな!』


最後の嫌味が流れた瞬間が物凄い勢いでコメントが流れた。

もっとも比率が多いのはもちろん、奪われたプレイヤーたち憤怒の声。怨嗟、罵詈雑言。とにかく怒りと恨み混ぜたアンチコメの嵐。

その中にチラホラ野次馬やなんと数少ないながらもファンらしきものもあった。


最後の黒騎士との一騎打ち。その時の必死さに感銘を受けた一部のヒールプレイ好きが「今回もデカいのかましたれ!」って感じで応援をくれているのだ。


『さて、わざわざこうしてまたライブ配信を飛ばしているのは他でもない。近日、我がダンジョンを再開しようと思っているから、その告知をするためだ。新しい階層も増えたから期待してくれ』


『おっと、前回の一件でどうせまたそっちだけ一方的に有利なだけのホームエリアを利用してって思っているのだろう。でも安心して欲しい、今回もまた契約士の力を借りてダンジョン運営についていくつか決め事を設定する予定だ。今からそのまとめを見せるので、まずはそれを見てプレイヤー皆が判断し、良ければ意見などを聞かせて欲しい』


※注意:ダンジョン=PN『プレジャ』のホームエリアという前提での記述となりますのでご留意ください。


・今回の開場以降、ダンジョンには入口から必ずPN『プレジャ』までの道を繋ぐことを義務付ける。


・ダンジョンの改装などの大幅な変更前には必ず告知を出してからにする。


・やむない事情などがない場合は必ず決めれた時間にダンジョンの開場、閉場を行うこととする。もしやむない事情が出来た際には必ず事前にそのことをこのアカウントにて告知する。


・ダンジョンを開く時には開場から閉場までの間はPN『プレジャ』は必ずダンジョン内の最下層にて滞在する。


……等々。

それ以外にも細かいルールがずらーっとライブ画面に流れる。

それを見た視聴者のプレイヤーたちは感心しながらもやれこれはこうする方がいいだの、こっちのは不公平だのと意見を交わし、それをひとつひとつ聞き入れて少しづつ修正を加えていく。


やがて投票機能で過半数の賛成したルールが採用ということになり、『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の本格的な起動が決定する。


『これで話は纏まったな。それでは最後に俺からのメッセージを聞いて頂こう』


『ここまで言葉を交わしてもまだ「こいつはどうせまた裏で卑怯なこと考えてるだけだろ」と、そう思ってるやつもいるんじゃなのか?』


『だからはっきり言わせてもらうとだな…………裏でもなにもそりゃ卑怯なこと考えてる決まってるだろうが! 人数差考えろ。これで正々堂々とかふざけんじゃねぇよ』


そう流れた途端。

お前こそふざけんな!、てめぇがふっかけて来たんだろぉ!、開き直るな!……と、それは喧々囂々と非難コメントの嵐が蘇る。

さっきまで積極的にルールを打ち合わせていた視聴者たちもこの言い草は不快だったのか、あんなやつのダンジョンなんて行ってやるもんかって雰囲気が流れ始める。


『おや、皆随分とお怒りのご様子だ。でもまぁ、仕方ないよなぁ。俺が卑怯な手を使ってくるのが怖くて怖くてうちのダンジョンを拝むのも無理~てんなら。稼ぎが目減りするのは悲しいけど……ま、その時は俺の完全勝利、ということでいいんだな?』


“あれ”とは言うまでもなく、攻略レースの最後に挑戦者の皆を理不尽な転移奇襲PKしたことだ。

ここでただ怒ってお前は卑怯だからもう相手しない、とするならそいつはあんな手段でやられておいて、おめおめと泣き寝入りするだけの敗北者だ。


彼はそう言っている。


安い挑発だと皆頭では理解している。だが、こんなことを言われて黙っているようではそれはきっとゲーマーではない。


コメント欄は、いつの間にか彼に対する殺意にも似た熱で盛り上がっていた。


『そうか……俺にびびって震えてないというなら安心だ! なら近日開くダンジョンに絶対に来い。その時にいくらでも相手してやる! では告知ライブはこれにて終了とする、また会おう!』


彼のその言葉を最後に、配信は途絶えてた。


《イデアールタレント》のプレイヤーたちに高揚とも熱狂ともつかない盛り上りだけを残して……。

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