第79話 《遍く輝きを掴んで》ー1

どこかも知れぬ薄暗い路地に赤光を瞬かせる線が走る中、それから逃げる男女と兎1匹の影があった。まぁ、俺とファストとこっちに手を引かれてるエルだ。

勢いでここまでは来たまではよかったのだが、何かとんでもないのが追ってきている正直言って困惑中だ。


「うおっと……それで、結局! あいつらっ、何なんだよ!」

「きゅう!」

「私も知らない! それよりその子何ちょっと撫でさせなさいよ!」

「言ってる、場合かー! モフってる間に、蜂の巣になるわ!」

「何よ、もう。冗談言っただけじゃない。にあっても相変わらず細かいわね!」

「何をー!」


あれから俺たちは、今も後ろからバカスカと謎のレーザーみたいのを撃ってくる追手を撒きながら怒鳴り合うようにして逃げていた。

ギルドを出てそれなりに走り回ったが他のプレイヤーは影も形もない。あるのは街人のNPCだけだ。どうもクエストが始まったことをきっかけに前と同じく見た目そっくりの別サーバーに飛ばされたらしい。これは街中で戦闘が起きる都合上での処置でもあるのだろう。


そのお陰で街の破壊不能も無くなって、エルとの連携で魔法を使い接近された敵をファストが蹴っ飛ばして撒いてはいるが相手が無尽蔵に湧いてくるせいからきりが無い。


「なぁ、どっか隠れられる場所ねーのか! 流石にこのままじゃ捕まっちまう」

「私の家! この街で一番デカい屋敷がそこだから、あそこに逃げ込みましょ。あいつらもそこまでは追って来れないはずよ!」


そう言ってある方向を指差すので追って見る。するとその先には小高い丘の上にある屋敷とそれに付随しているやたら高い塔が目に入った。


あれか……確かに見えはしてたけど不思議な力で近寄れないって掲示板に書いてた場所だ。マップも範囲外でただの背景なんじゃないかとも言われてたけど……なるほど特殊なクエスト時にしか入れない場所だったのか。


「じゃあ急ぐぞ! 派手かっ飛ばすから俺のどこでもいいからしがみついてろ」

「分かった! またあれやるんのね!」


ウキウキ顔のエルが俺の腰辺りに腕を回すのを確認してから地面に魔法を発動。

足元の地面を隆起させグーンと俺たちを乗せたまま屋敷の方向に伸ばす。


「きゃ~!」

「ひっはー!」

「きゅー!」


晴天が広がる青空の下、お嬢様と魔法使いと兎が宙に橋を架けるように飛ぶ。

傍から見ると中々シュールな光景だろうな……と思いながらも丘上までの距離が縮めていき、途中に眼下を見下ろす。

エルを拉致しようとした連中は諦め悪く、宙の俺たちを狙ってレーザーを撃ってくるがそんなもんに当たるほどこっちも軟じゃない。

飛び初めた時には既に『映身』を発動しており、俺たちと同じ幻影が何十と飛ぶようになっている。それにこっちにはエルのあの鏡を使ったマップスキャン能力があるから射線を隠す、なんて小賢しい真似も出来ない。


こんなイージーモードで捕まってたら末代までの恥だな。


「……もうすぐ屋敷に着くな。なぁ、いい加減どういうことか説明してくれ。なんであんな状況になってたんだ?」

「そうね……成り行きとは言え巻き込んでもしまったし。いいわ教えてあげる」

「はは、相変わらず上から目線だな」

「ふふ、もう茶化さないの……。それでどうしてこうなったかというとね――」


エルが拉致されたあの事件からここ

魔法の街サウスワンを代表する名家の令嬢であったエルは俺にも言った通り、それからは親の言いつけを守り家の庇護が届かないところに行くこともなく、その務めに励む日々を送っていたらしい。


そんなある日。自分の働きがどれほどの成果を齎すのか段々理解出来るようになり務めにも誇りとやり甲斐を持ち始めた頃。

家の付き合いで家族揃ってパーティーに出席することなった。そこであの謎のレーザー使いどもが襲来し警備のものが瞬殺され、会場は一瞬でパニックに陥ったそうだ。


まぁ、確かに俺はエルに事前に聞いてたから対応出来たけどレーザーは光速。そんなので奇襲なんじゃされたら備え無しじゃひとたまりもないだろうな。建物の壁に平気で穴をあけるとこを見ると威力も決して弱くないみたいだし。


そのどさくさに家族とはぐれてしまい、頼りの綱として家と関係の深い魔法使いギルドに駆け込んだら……。


「で、そこで俺とばったり会ったと。なら良かったのか俺と一緒にきて」

「何言ってんのよ。強引に連れ出しといて」

「それは……ご、ごめん」

「ふふ、いいわよ別に。約束が果たせたんだから。結果おーらい!」


少しだけ成熟した顔でいたずらっぽくそう言うと無邪気な笑顔を見せるエル。

……こうして会話しててもやっぱNPCとは思えねーな、こいつは。イベント内での時間経過という仮想歳月があってもそこは一緒みたいだ。

ファストもそうだけど、このゲームたまにいるんだよな、こういう人と見分けつかないAI。


ま、だから俺もここまでする気になれたんだからなんでもいいけど。


「もうすぐ到着だ! でもお前の親御さんは大丈夫なのか?」

「平気よ、お父様もお母様もすっこく強いんだから。あんな輩に負けたりしない……絶対」


やめろ、そういうフラグぽい言い方。

そんなことをお前みたいな重要キャラがいうとな――


間もなく丘上の屋敷に到着し、エルの案内のもと中に入ろうとしたその矢先。ニタニタと気色悪い笑みを貼り付けた痩身矮躯の男が行く遮った。


「何よあんた! ここをどこと知っての狼藉よ、早くそこを退きなさい!」

「おやぁ……これはこれはこれはぁ! 捕獲しろと命じたノロマどもが未だに追っかけているはずのトゥエル嬢ではありませんかぁ。どうか大人しくこちら来て頂けませんか? お二方もあちらで待っておりますゆえ」

「お父様、お母様!?」


そしてその奥、屋敷の中にある塔の展望台。そこに拘束されているいかにも高位の者らしい身なりの男女を指しながらそう言った。


―― こうしてもう捕まってたりしてるんだよ。口には出せず思うのであった。








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