第78話 新たな階へ

「だぁーもう、あの性悪魚女め。どうしてくれようか」

「きゅ~」


セイレーンとその魅了された軍団により海の藻屑になった翌日。

昨日は時間も遅かったのでホームのダンジョンに死に戻ってすぐにログアウトし、ログインした今はその奥で頭を抱えていた。


「やっぱ今のジョブ構成じゃあ、あの海の探索は厳しいよなー……」


直接戦闘に使えるのが大地術士しかないのはやっぱり戦術的に脆い。本来それをカバーしているのが魔統帥ロードでのテイムだったのだが、魅了のあるセイレーン相手には通用しない。


そうなるとまずするべきは俺自身の強化。それも戦闘を上げることを考えると大地術士を転職させることが手っ取り早い。

が、これにもちょっと問題がある。


「ムズいんだよな、次のジョブ……大地導師ランド・ウィザード転職タレントクエスト」


大地術士の転職クエスト《地を降すモノ》の内容そのものはシンプルだ。

チョロライオン……じゃなかった地底王獣グランドライオンを倒すだけ。ただし、土属性の魔法のみを使用して。しかもパーティー戦は禁止。

これ初めに見た時「いや正気か運営」って思わず呟いちまったわ。ちなみに他の特化ジョブも大体こんな感じだ。いやほんと正気か運営。


「大地術士みたいな特化が不人気な理由のひとつだな。これ俺のPS《プレイヤースキル》でいけるのか……でもしないと強くなれないし」


一応、本当に一応だけど攻略は出来る。ダメージも無効化まではしないし回復技とかも別に持っていないので倒すことは不可能ではない。が、この条件に合致したやり方だといったい何時間掛かることやら……。


「……ここで愚痴っててもしょうがないか。とにかく魔法使いギルドに行こう」

「きゅ!」

「あ、ファスト今回は留守番な。クエストの縛りで着いてこれないみたいだから」

「きゅう!?」


そんな~って顔のファストを見ると置いていくのがちょっと辛くなるけど……どの道クエストを受けると登録したセーフティエリアのこのホームに強制帰還されるんだ。それだとファストも無駄足になるしここは心を鬼にして……。


「きゅー……」

「……もう分かったよ。こっちおいでー」

「きゅう!」


ぴょんと俺に飛び込み抱っこされるファスト。ま、まぁこの体勢なら無駄足させてるわけでもないしな、うん。

……それにしても懐かしいなこの感じ。ゲーム初めた頃は耐久脆いこの子をロストしないようによくこうしてたっけ。


「そうだな。初心に帰る感じで、ガムシャラに行ってみなすか」

「きゅ」




◇ ◆ ◇



所変わって場所はマップ南側、1stステージと2ndステージの間にある魔法の街サウスワン、そこにある魔法使いギルド。

稼ぎ用の周回クエストをして来たプレイヤーたち相手に謎のポーズを決めて受付にいる厨二爺さんを見ながら、ここは変わらんなと懐かしみを感じる。

ギルドはどの場所にいるものに入っても同種類のギルドなら別サーバーにある同じ場所に飛ばされる。例えば魔法使いギルドに始まりの街で入ろうと先の別の街で入ろうと同じ場所に出るってことだ。

ただ、だからって近所以外の場所からギルドに入るのが意味がないわけではなく、どこから入ったからでクエストのフラグが立ったりもする。

今回のセカンドジョブの転職クエストもサウスワンで一度でも魔法使いギルドに入ってないといけないから、わざわざ遠路はるばるここまで来たってわけだ。


「にしても今日は一段とギルドが広い。そんだけ人が集まってんのか?」


そしてそんな仕組みであるため、混雑防止のためギルド内部は大きくなったり小さくなったりする。今日は前に来た時より随分と内部が広いと感じるなーと思って周りのやけ多い初期装備アバターを見てからその理由を悟る。


「あ、そう言えば今日だっけ。新規のプレイヤーが入るの」


最近追加ソフトが発売されて新規のプレイヤーが入ってくるという情報を思い出す。

人が増えるとは聞いていたが、魔法使いギルドだけでもここまでとは……100人は軽く越えそうだが、そんなに人気あったけかこのゲーム?


「ま、俺からしたらご都合か」


はやく育って俺のダンジョンに潜れるくらいになれよ。そしてダンジョンが再稼働したら働き蟻のごとく金を運んでくるのだ、ふはは!

と、そのためにも頑張らないとだったな。もたもたしてないで早く受付に……。


「っと失、礼……は?」

「え?」


おいおいこれどういうことだ。なんで。


「エル?」

「プレジャ……ッ」

「あそこだ、追え! 捕まえろ!」


嘗て俺がやった《かご鳥の導き》というクエスト。その囚われのお姫様役として出来たご令嬢。トゥエルお嬢様ごとエル。あの時より背も伸びて少しだけ大人びた顔つきなってはいるが、あのラーの鏡モドキ……アリエルを追従させている少女の顔は紛れもなくあのエルだった。

知らぬ間にHiddenの条件を満たし、イベントの中で振り回され、最後には親交を結んだはずの彼女が何故こんなとこに……という疑問はあの無粋な声により途切れた。


厳つい顔の男が何人かいるな。見た感じ前のクエストの組織員とも違うように見えるが……。


「なんか知らないけど……あれらから逃げればいいのか、エル!」

「そう、なんだけど」

「そっか……。じゃあ行くぞ、捕まってろ!」

「あ……うん!」



まぁ、あいつらが何者なのか。エルはまたなんであんなのに追われて、なんのイベントフラグを踏んだだとか知りたいことは山程あるけど。

今がいつかの夢想を叶える時ならば。俺が迷う理由はどこにもない。


「まだどんな状況かは知らんが……また一緒に遊び回るって解釈でいいか!」

「それでいい! また遊ぼう!」


転職タレントクエスト・2nd《遍く輝きを掴んで》を受注しました』


そんなシステムアナウンスを背に俺たちは魔法使いギルドを飛び出したのであった。


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