第80話 《遍く輝きを掴んで》ー2

エルの実家である屋敷に着き、どこともなく現れた正体不明の男は視線を塔に拘束されている男女……エルの親御さんから離し、再度エルに向ける。

そして変わらずニタニタとした不謹慎な表情と態度でこう続けた。


「――さぁてー。ご両親おわすことですし……こちらに来て頂けますかな? お嬢様」

「誰があんた何かと! それよりふたりを返しなさい!」

「おやぁ、そうですか。残念です。でもいけませんよ彼らは貴重な部品ですから」

「なんですって!?」


その言葉にカッとなったのかエルから魔力が迸り、魔法が展開される。

周りに巨大な水球が生成され、それらがレンズように近くに集めた陽光をこれまた魔法を使ってふざけた態度のあの男に降り注がせる。追手が使っていたのとは違うがエルもレーザー光線みたいな技をここ数年で習得していたらしい。

……が、その攻撃は男の体をすり抜けて空振りに終わる。


「カッカッカッ! わたくしは最初からそこにはおりませんよ。そこいるのはただの幻です。それではわたしくこれで、あなたご両親方と塔の頂上で待っておりので」


それだけ言い残すと痩せ細った体を不気味に震わせなら……その男は展望台のエルの親御さんたち共に空気に溶けるに消えていった。どうやら男だけでなく展望台の親御さんたちも幻影だったようだ。


「ぐ、あのひょろがり男! 今すぐ行って消し炭に……はぐっ!?」

「落ち着け、じゃじゃ馬令嬢」


鼻息荒くして今にもやつが言っていた塔に突撃しようとするエル。

そこでようやく『イベント』のお知らせマークでファスト諸共、身動きを封じられてた俺がエルの首根っこ掴んで制止に入る。

このゲームにもあったんだなイベントシーンとかで強制停止するあれ。あんまり必要以上にクエストとか受けないから今まで知らなかった。

……にしてもあの黒幕っぽいやつ俺は眼中にもなかったな。まるでそこに居ることすら気付いてないようだった。まぁいいか、あれがクエストのボスとかなら次に会って吠え面かかせれば良いいだけだ。


「何するのよ! 早く行かないとお父様とお母様が!」

「分かってるから落ち着け。相手の陣地に無策で突っ込んでも親御さんの二の舞なるだけだ」

「う……で、でも」

「分かってる。行かないとは言ってない。まず色々と試してからだ」


ったく、ようやく暇が出来た。どんだけ急展開なクエストだよ……少し状況を整理しないと。


多分クエストが始まった理由。直前の状況的に俺が魔法使いギルドに入ったことで何かのフラグを踏んだのは間違いない。クエスト関連の情報をもっと詳しく見とけば色々分かってたかもだが……俺、ネタバレ付いてたとこのはつい避けてたこういうストーリー絡んでそうなクエストあんま詳しくないんだよな。

俺はストーリーは出来ればネタバレされたくない派なんだ。


次にクエストの構成。さっきに追ってきたレーザー使いどもとの鬼ごっこが第1フェーズなら、ここから塔を登るのが第2フェーズってとこか。メタ的に考えるとさっきのひょろがり男が今回のクエストのボスだと思われる。


なら今すぐ塔の天辺に乗り込んであれ倒せば即クエスト終了になるか? 

よし、試してみるか。


「ちょっと下がってろ」

「何する気?」

「こういうことだよ!」


魔法でまたさっきのように地面を隆起させ塔の上へ登らす。が、やがてまるで砂糖菓子を崩すが如く崩れ落ちた魔法が土を降らす。何度やっても同じで魔法を出したらその都度崩れだす。


「無駄よ。ここは私の家、アリエル家が誇る不壊の柱『天望塔』。創造と叡智の輝き持つ星にて加護を受けたあの塔の周りで“それ以外”の魔法は許されないの。内部に入ると大丈夫だと思うけど防備の範囲にあるここじゃ無理よ」

「……なるほど」


分からん。

いや、いきなりそんな設定厨どもが喜びそうな言い回しされましてもね?

こっちは前提知識ほぼゼロだから分かんねーよ。だからってこのクエストタイムリミットありそうだから、ここから1から10まで教えてもらう暇もなさそうだし……。

今ので分かったのは運営は不正に塔をショートカットさせる気はないってことだけか。

と、そこで周辺偵察に行かせていたファストが戻ってきた。


「おかえりファスト、周りに敵はいたか」

「きゅ!」


ふむ、なかったか。モンスターでもあればテイムして塔に先行させるつもりだったが無理そうか。


「エル、お前の技で塔の内部は映せるか」

「多分出来ると思う……というより、あの塔はうちの家系の魔法技術で物凄く迷うようになってるから。無しで進むのは無理」

「げ、マジか。エレベーターとかないの?」

「えれべーたー? ってなに?」

「いや、何でもない。こっちの話」


正直、この子が捕まればまたクエスト失敗になってそうだったし。安全な場所に隠すなりしたかったけどそれだと親御さんの救出が間に合わないかも……いや、そもそも間に合わない仕様になってるかも知れない。


「何が何でも塔内部に突撃しろってか」


ここまで来ると多分それがクエストの正しい手順なのは分かる。でも何とういうか……その通りにするのも癪に触るな。

エルが道筋を教えてくれてもこんなだけ高い塔だ。真面目に上がるとどうやっても時間が掛かる。

それに相手もそれは想定内だからどんな罠が張り巡らせているか。それを考えただけでこう……うん、ダルい。

あと何より……自分でも何故かはしらないけど、この如何にも今は悪の本拠地になってますと言わんばかりの雰囲気を醸し出してる塔が心底気に食わない。


「なぁエル。お前必ず親御さんを助けたいか」

「そんなの当たり前でしょ! だから早く塔に登ろうって……」

「でもこのまま塔を登っても多分相手の思うツボだ。もしかすると塔にお前を招き入れること自体が目的の可能性もある」

「そ、それは……」


またこいつが短気を起こしそうだったので少し憶測を込めて言ってみたら露骨に目を逸してモジモジしだした。この反応……何か心当たりがありますよ言ってるのと一緒だぞ、イベント内時間で歳食ってもこういうとこはまだ子供みたいだな。


「エル、お前さ。悪党を完膚無きまで懲らしめるにはどうするのが一番だと思う?」

「え、いきなり何よ。そんなの……こう、英雄とか正義の味方みたいなのがやっつけることじゃないの?」

「全然違うな。あの手の悪ーい輩相手には、そいつらは必ず遅れてくる。そうなれば悪党は機嫌良く高笑いした後だ。そしてその間にも……誰かは死ぬ」

「じ、じゃあどうするってのよ!」

「そんなの決まってる……あんな小物どもより。もっともっと悪ーいことしてやればいいんだよ」

「え?」


怒っていたそれでも泣きそうな少女の顔に向けて、俺は精一杯不敵なでもとてもても、悪るーい笑みを貼り付けてから塔を……ではなく。丘の下の街をじーっと見下ろすのであった。


――――――――――――――――――

・追記

21・11/15誤字の修正と一部の文章に不足があったために補完。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る