第81話 《遍く輝きを掴んで》ー3

3人称視点です。

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―― アリエル家に聳える巨塔、『天望塔』。その頂上にて。


そこで十字架のようなものに金具でがっつりと拘束されていた男……エルの父親が目を覚ます。


「くっ、うぅ……ここは」

「おっと、お目覚めですかな。《創天の守護者》アリエル家の当主殿」

「何故それを。はっ……そうだ! 娘と妻をどこへやった!」

「奥様ならお傍におりますよ。まぁ、娘さんの方は……カッカッカッ、今頃この下でボロ雑巾になってるかもしれませんねぇー! あなた方を使って色々と仕掛けさてもらいましたから」

「貴様っ! 何が目的でこんなことを……!」


その言葉にすぐ横に同じく拘束され気絶している妻を見て少しだけほっとしてから、続きを聞いて激怒の声をあげる。

矮躯痩身の男はそれを聞いてどこ吹く風で、ニタニタとした顔を浮かべたままだ。


「そんなの決まっているではありませんか、手に入れるためですよ~」


その骨ばった指が上を……空を指す。


「なっ、まさか!」


それの意味を正しく理解したエルの父親は顔面蒼白となり、思わず身震いする。


「神域を侵そうというのか、何と愚かな!」

「カッカッカッ! だってしょうがないじゃありませんかぁ。あなた方と離別した分家の方からさせて頂いた時から気になって気になって、仕方がなかったんですよぅー」


空を見上げ、何かに陶酔したように息を荒げて粘つく声で、独りごちるように続く。


「幼い頃どれだけ手を伸ばしても跳んでも届かない、あの天上に! 世界を創り給うた痕に、ぐっきりと今もなお夜空で我々を照らして輝きに手の届かせられる。そんなこと聞いたら……何が何でも引きずり下ろして穢してやりたくなるではありませんかぁ~……カッカッカッ!」


厭らしく宣いながら空に手を伸ばす男のこちらを見てるようでまで見てない、己のことしか映していないドブのどん底のような濁った瞳が乾いたが嘲笑と共にエルの父親を見返す。

そのあまりのおぞましさに怒りとは別に嫌悪感が背筋を伝うが、それでもと気力を絞り出してやつに吠える。


「狂人、め! それがどれほどの災厄を呼ぶと……」

「知りませんねぇ、そんなくったらいこと。手頃なおもちゃが転がってるから拾う、それだけではないですかぁ? それに……もうすぐに禍々しい神の目が沈み夜が来ます。この意味がお分かりですね」

「ッ!? ならん、そうなる前に貴様だけでも、ぐっ!」


これから何が行われるのか悟ったエルの父親は無理矢理にでも魔法を発動しよとするが、それは叶わない。

まるで何か巨大な栓を打ち込まれているかのように魔力を放出も出来ないのだ。


「抵抗しても無駄ですよ。それはこの塔の技術を流用して逆にあなた達の魔法を封じるようにした特殊な魔道具なのです。あなた個人の力如きじゃ命を懸けてもビクともしません」

「ぐ、ぅ……」

「おぉ、言ってる間に日が完全に沈みましたねぇ。さぁもうすぐフィナーレです! 一等星がその輝くを見せた瞬間が、この……!?」

「な、なんだこの揺れ!?」


痩せ細った体を精一杯広げボルテージを最高潮に上げていた男も、悔しげに顔を歪めていたエルの父親も驚愕に染まる。

それもそのはず。この塔は加護を授かりし不壊の柱。滅多に地震など起ころはずもないこの世界に置いて、決して壊れないはず塔が揺れるというのは誰もが予期出来ぬ異常事態だった。


いったい何が起きているのかと、矮躯痩身の男は塔の端にまでより街全体が見えるそこで地上を見下ろす。するとそこにはこの揺れの原因と先程よりももっと驚くべき光景が目の当たりにいた。


「馬鹿、な……塔が、倒れていく!?」

「何だと!? あり得ん……はっ、まずい! そうなると街が!?」


エルの父親の危惧する通り塔はどんどん傾き街へ破壊……とはならなかった。

どういうわけか塔ゆっくり、あまりにもゆっくりと落ちていき何かに揺らめくを散らしてふわりと。

大して大きな音も立てずに。小枝がそっと置かれただけとばかりに静かに横たわった。

矮躯痩身の男がそれにより床に立ってられなくなり固定されているふたりを他所に水平なった天辺の大きな出っ張りに降り立ったその時だった。


「な、何がにどうなって……」

「――よぅ、小悪党。さっきぶりだな」


謎の現象の連続に困惑しきりの矮躯痩身の男の耳に誰とも知らない声が響く。倒れた塔の壁に乗り天辺だった場所に向かってカツンカツンとわざとらしく足を鳴らして歩き男のいる出っ張りまで降りて来たその魔法使い……プレジャに注目が集まる。


やがてそれを認めた矮躯痩身の男は声を荒げ唾を飛ばさんばかりに大口を開けて叫ぶ。


「な、何だお前はぁ! こ、これはお前の仕業なのかァ!!」

「マジで見えてなかったのかよ……。さっきいたろ下に。あ、今はもう向こうか。ややこしいな?」

「ふざけるなぁー! そんなことはどうでもいい! どうやって塔を倒してたんだ! これは神の加護を受けし不壊の塔だぞ! それが倒れるはずが……」

「あ? 何言うか思えばそんなことか。んなもん地盤ごとひっくり返してやったに決まってんだろ。塔が無敵だろうが地面はそうじゃねーからな。ただ塔が無駄に深くぶっ刺さてたせいでちょーと街がひっくり返ったけど……まぁやっぱ悪事ヒールプレイってのはこんだけスケールないとだからな、あはははー!」

「「なっ!?」」


さもちょっとしたイタズラでもしたかのようにとんでもないことを言って無邪気に大笑いしているプレジャ。

これにより矮躯痩身の男とエルの父親が揃って驚くという奇跡のシンクロを起こしてしまった。

よく見てみると確かに店や住宅が数多くあるはずの周辺にそれらがなく、土剥き出し荒れ地に変わり果てていた。


「だ、だが先程までそんなそぶりどこにも……がはっ!?」

「お喋りはここまでだ。こっちはもうすぐ晩飯の時間なんだよ、ささっと掛かってこい小悪党」


牽制で魔法を飛ばしてから、掌を上に向けてカモンのジェスチャーでの挑発するプレジャ。それが合図となり本格的な戦いの火蓋を切られるのであった。






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