第120話 12階層ー2

Side とある重戦士


あの後どうにか流れたというか落ちた相棒を回収して階段の入口まで戻ってきた。


「どうやら、ここはギミック重視の階層みたいだな」

「はぁ……はぁ……。そういう分析はいいから、もっと……早く助けなさいよ」

「自業自得だろ、アホ。そんなことより行くぞ。夜になると一気に不利なる」

「わ、分かってるわよ」


文句を垂れながらも、一応状況は分かっているのか俺の後についてくる相棒。


今言った通り、光が空気の代わりになっているこの空間で夜はやばい。

星や月の明かりでも一応呼吸は出来るが、やっぱり不安定にはなる。ちょっとした遮蔽物があるだけで容易く息が絶え窒息状態に陥るのだ。


モンスターと戦闘の時も最悪で連中は基本、暗い時間帯には攻撃よりカーテンとなってこちらを窒息させることを優先してくる。

窒息状態での戦闘は神経を削るだけでなく、息が詰まる感覚で物凄く動きづらいので戦いどころではない……と、俺たち以外にもここに来てたプレイヤーが掲示板に書き込んでいた。


いつの間にか、このダンジョン専用の攻略掲示板まで立っていたからびっくりしたものだ。


で、ある程度探索が進んだ現在俺たちが何をしてるかというと……。


「今度はこっちは! ああ、また戻っちゃだ……」

「何やってるんだマップ的に、こっちだろ! よし!」


……移動パズルを解いていた。


どうも例の星魔石で重力場を利用した強制移動パズルを作ってあるらしく、これが結構難しい。

何せ一昔前の平面ディスプレイのものと違い、ここの移動パズルは立体構造だ。

上下に吸い寄せられる道があるのはまだ優しいもので、場所によっちゃ宙で曲線描いていたり、そのまま通路同士が交差してシャッフルされる場所もある。


それだけでも相当難しいが、偶に壁や天井に重力が働く場所があって、そこを壁歩きや逆さ歩きしないとそもそも次の通路に辿り着けなかったりもする


正直、見ただけでは訳がわからん。

極めつけは……。


「よし、今度こそ……きゃあ!? また透明ウニが刺さった!」

「お前、それ何回引っ掛かれば気が済むんだ!」

「だってぇ……なんか私が通るとこだけやたら居るもの!」


どうも、透明化しているウニとか爆発もするフグみたいな触れただけダメージを負うモンスターを道すがら設置してるらしく、重力場での強制移動の際に衝突するのだ。

何故か重力場を無視して、その中で停止しているのは……多分こいつらが星魔石で進化させたモンスターだから、だろうな。


ちなみにどうでもいい話だが、相棒はこのモンスターが居る道を半々ぐらいの確率で引いている。盾役として俺が常に前に立ってるはずなのになんでか、それをすり抜けるように相棒だけ罠に引っ掛かるのだ。


相変わらず運のない。ここまで来るとちょっとだけ不憫に思わんでもないが……まあ日頃の行いせいだろ。

俺が役割を熟してもこいつの天運はどうしようもないんだし、それについてはとうに諦めた。


「ここでモンスター側に地の利があるのはいつものことだ。それを嘆いても仕方がない」

「それは分かってるけど……ぬぬぬ。この鬱憤、絶対あいつにぶつけてやるぅ!」


そして相棒の怒りの行き場、結局はまたプレジャここの製作者に向かったしまったようだが……まあそっち方が相棒の精神衛生上良さそうだし、ほっとこ。


―― それからも重力場に飛び込み、マッピングしながら進路を探っていく。

途中また何度も相棒が罠に嵌って重力でぺちゃんこになったり、ルートを間違えて機雷みたく爆発する透明ウニの群れに突っ込んだりもしたが、一応の攻略は進んでいる。


「ほんと、なんで……私ばっかり!」

「うーむ、流石にこのままは良くないか」


相棒も奇跡的に死に戻ってはいないが、ポーションなども無限にある訳じゃない。このペースだと、間違いなく攻略より、夜が先にくる。


「せめて、モンスターを先に見つけられれば……」

「あ、それなら。遮光の風を先に行く先に流し込むのどう? それなら透明化も先に見抜けるでしょ」

「お、その手があったか! よし早速試しもらっていいか?」

「まっかせといて! ウニかフグか知らないけど、全部丸裸してやるわ!」


腕捲くりで気合を入れて魔法を組み上げていく相棒。やっぱり相当苛ついていたらしい。

魔法が完成し、暗い色の風が水に溶け込み、黒い海流となって道を覆っていく。

それに触れた透明化のモンスターは姿を現し、淡く海の景色に浮かび上がってくる。


「っしゃあ! 大成功よ!」

「おお、良くやった! これなら、モンスターを避けて通れる」

「ふふーん、私に掛かればこんなもんよ」


褒められて気を良くしたのか、黒い風をばら撒きながら隠れたモンスターを暴いていく。

その姿を見て、何かイカスミ吐いてるっぽいなと思ったのは胸にしまっておこう。いくら相手が相棒とはいえ、女の子にイカっぽいは失礼にもほどがある。


と、くだらないことを考えながら歩いていたのが良くなかったのか。俺は遠くから迫ってくるそれに気付くの一拍遅れてしまった。


「うわぁあああー! 退いてくれぇ~~!!」

「なっ」

「子供が、こっちに流されて!?」


俺と相棒が同時に、多分近くにあった強い重力場に捕まって落ちてくる少年を見た時は時すでに遅く――


「ぐえ!?」

「うぎゃ!?」


―― 避ける間も防ぐ間もなく、少年は相棒と衝突し……その衝撃で両方あっさりとHPを全損して死に戻っていった。


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