第121話 羨望の鍛冶師

Side とある重戦士


翌日、『増蝕の迷宮エクステラビリンス』海のダンジョンにある孤島にて。

俺たちの前には深々と頭を下げた、中学生ぐらいの少年と対峙していた。


「―― 昨日は本当にごめんなさい!」

「もういいって。聞くとこっちの不注意もあったみたいだし」

「そうよ、わざとじゃないんだからそこまで気にしなくていいの……わざとじゃ、ないんだしね!」


時間は少し遡り、不測の事態により相棒と少年が死に戻ったあのあとのこと。


俺はすぐさま転移アイテムで街に戻ると、当事者の二人が何と気まずい雰囲気を醸して対峙しているところに遭遇した。

何でそうなったかと聞くと、俺がふたりを探してる間にある程度事情説明が終わり、あの衝突の原因が判明してたからである。


何でもこの少年……と言ってもちょっと背が低めなだけで俺たちとそこまで年は離れてなさそうだが。多分中学生ぐらいだ。


とにかくこのプレイヤー……ストスはひとりであのダンジョンを探索していたらしい。ソロであのダンジョンを大したものだと思いながら続きを聞くと、また目を覆いたくなる事実が告げられる。


ストスも俺たち同様、移動パズルに解きながら進んでいく途中、突如として暗い靄のようなものが視界を隠した。それのせいで方向感覚を失いうっかり重力場に突入。

そのまま重力場に引かれて横に落ちてしまい……ああなってしまったという。


うん、聞くと俺たち……というか、調子に乗って魔法を無作為にばら撒いてた相棒が悪い。

いやまあ、よくよく考えれば分かっていたことだから先に止めなかった俺にも多少責任はあるか。


その時はもう夜だった明日話すとフレンド登録だけ済ませて……今に至る。


「今回被害を被った分、お互い協力してダンジョンを攻略し利益を分ける。それで話は付いたんだから畏まる必要はない」

「そそ、気になるならその分ダンジョンで活躍すればいいの。分かった」

「はい、ありがとうございます! 僕、頑張りますから!」


そこまで言うとやっとストスの顔が明るくなった。

よかった、いつまで暗い顔されたらそっちが気を使うからな。


と、どうにか和気藹々な雰囲気になったまま海に入り、ダンジョンへと踏み入る。マッピングを終えた11階層をイワシ度も蹴散らしながら最短で通り抜け、12階層へと着く。


「おふたりとも凄い連携でした! 僕が割っている隙がないまるでありませんでしたよ!」


その間の戦闘を見ていたストスが目を輝かせながら俺たちを褒める。


「まぁ、これとは長い付き合いだから、それなりはな」

「ふふん。あんた見る目があるじゃない」


俺がちょっとむず痒そう言うと、側の相棒はふんぞり返って何故か上から目線だった

何でこいつは昨日あんなやらかしといて自信満々何だろうか?

解せぬ。


「それを言うならストスだって大したもんじゃないか」

「あの爆発する剣凄かったわ! あの群れを瞬殺だったじゃない」


ここまでストスも交代で何度かモンスターと戦ったのだが、昨日はソロで進めただけありこれまた凄まじいものだった。

やってたことはロングソードほどの剣で振り回してただけだが、その剣から振るう度に広範囲の爆発が起こり、瞬時に群れを葬っていたのだ。

あまり殲滅速度故、イワシの目潰しもカジキの奇襲も起こる暇すらなく潰されていたのは圧巻の様子だった。


「いや、あれは……元々そういう剣じゃなくて」

「「うん?」」


ストスが言うに……あの剣は本来なら高熱の炎を出す魔剣だったらしい。

ただここは海の中、多分剣から出た高熱により水蒸気爆発が起きていて偶然あの殲滅力なってただけで本来はもっと控えめな攻撃範囲なんだとか。


「そういうこともあるんだな」

「いえ、多分他の属性付与しただけの武器ならこんなことは起きてません」

「そうなの?」

「普通の属性付与の場合はそれっぽいエフェクトが付いて属性ダメージが追加されるだけで実際の火が出る判定とかはされないんです。これは炎を扱うモンスターの素材から剣戟に合わせて火が出るよう僕のオリジナルレシピから作った特製ですから」

「ほー……ん? え、その剣自作なの!?」

「じゃあ生産者ジョブなのかお前!?」

「はい、サブに戦闘補助が出来るものは入れてますが、メインは生産者系ですね。あれ? 言ってませんでしたけ」


あまりにも意外な事実に俺たちはふたり揃って愕然とした。

まさか、このダンジョンをソロで通り抜けれるほどのプレイヤーで生産者メインがいるとは思わなかった。


「いやでも、ここはそれでいい。上の階層は……他は対策練ればどうにかなるとして、あの10階層のボスはどうやって倒したんだ。生産者系でソロじゃ流石にあれは……」

「あ、その化け兎ですね。あれには僕の妖刀シリーズをあげたんです」

「あげた?」


どういうことかと問い質すと、ストスは自分は言わば“ロマン武器”を専門に作る鍛冶師で戦闘には自分が作った武器、防具類を用いて戦うとのこと。

そして彼が言う妖刀シリーズとは、混乱の状態異常を負う代わりに装備者の様々なパラメーターを底上げするストス作の刀剣類だそうだ。


化け兎……のち分かった名前でブロックラビットはボス部屋にいる装備を持ってプレイヤーを攻撃するパターンがある。

これはダンジョン側が用意したものだけでなく、あとで他のプレイヤーがその場に装備を落としたりしても使われるらしい。

多分ブロックラビットは部屋の中に落ちている装備は自由に使えとでも命令されているのだろうな。


ストスはそれを利用して混乱のデメリットのある妖刀シリーズをブロックラビットに持たせ、やつの分離する身体同士で同士討ちさせたりしてハメ殺したとのこと。


それを聞いて俺は啞然とした。


……もしかするとストスは俺が思ってたよりぶっ飛んだやつかも知れない。と思いながら。


「いいじゃない妖刀、私そういうの嫌いじゃないわ!」

「まあ、妖刀シリーズは性能ピーキー過ぎてプレイヤーには見向きもされませんでしてけどね……。この剣だってここで謎のシナジーを発揮してますが、地上では普通にちょっとだけ派手で熱くなるだけの、戦闘力には大して影響のない代物でした」


ちょっと寂しそうな顔でそう呟くストス。

まあそれは、ある程度は仕方がない。どうしても大半の人たちは安定して使える武器を重視する。

どっかのマンガや小説みたいに偶然そういうピーキーや派手さにロマンを求める、少数派の人と巡り合う……というのは簡単なことではないだろう。


「このゲームなら自分で思ったロマン溢れる武器を作ってみんなに知ってもらえると思ってたんですが……どうも受け悪いみたいで。だからソロでやりくりしてるってわけです。あ、何かすみません長々と……」

「別にいいじゃない。あなたの武器、カッコいいから好きよ私は」


つらつらと身の上話をしてたことに気付いて途切れ途切れになったストスに相棒が何でもないように返した。

そういえばこいつもそこそこ派手好きだったな。これは、ストスとも気が合うかもしれない。


「ほ、本当ですか?」

「ええ、とう言うかここの魔石で私の武器も作れない。こう、いい感じに光の杖とか!」

「あ……いいですね! ならこういうのは……」

「それもいいわ! 話は合うみたいね私たち!」

「は、はい!」


楽しいそうに語り合い、明るい笑顔になってきたストスと相棒に姿に俺は……


「では行くわよ! 素材探しに」

「はい!」


「あれ、これもしかして。こいつらの面倒纏めて俺が見ないといけない……のか?」


……そういうあまり気付きたくない展望に気付いてしまったのだった。


――――――――――――――――――

・追記


・魔剣フレイムダンス(ストス作の魔剣)

剣戟に合わせて高熱の炎が吹き出す、性能は二の次にかっこよさだけを重視して作られた魔剣。

刀身に発火機構を、柄に熱に方向性を与える制御装置を、念の為セットの鞘にはそれらと連動して障壁を貼る防御機構を組み込み作れた地味に技術力の高い一品となっている。


ただしギミックを重視するあまり攻撃力はほぼなく、今回のような特殊な状況を除いては“当たればちょっと切れて熱い”程度の武器。ぶっちゃけ2ndステージからのモンスターには全く歯が立たない。

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