第122話 12階層ー3

Side とある重戦士


ストスとダンジョン攻略を初めてから数日後。

俺たちはこの階層の難解さ辟易としていた。


「この階層は広いと言うか、複雑過ぎるな……」

「登ったり、降りたり、回ったりまた降りたり登ったり……もう、切りがないわよ! 通常のマップとか、もうぐちゃぐちゃで訳わかんない!」   


前に言った通りここはギミック重視の階層で通路すべてが重力場による移動パズルとなっている。これを紐解いて先に進む仕組み……なのだが、それにまたえらい時間が掛かっている。


まずやたら遠回りさせられるのもそうだが、水中と透明な……恐らく光の壁とでも呼ぶべき代物が織りなす地形の自由度が高過ぎるのも厄介だ。

それらにより立体的な隙間いう隙間を埋め尽くして作られたこの階層は俺たちの想像を越えて道が長い上に……通常のマップは基本平面図だから道の表示が何重に重なってもうほぼ役に立たないと来た。


「壁が透けるから、次階層の階段がちらっと見えたりするのがまたムカつく!」

「それなのに下の階層は見えないのが不思議ですよね」


ダンジョン構成している透明な壁は横方向の海中の景色は綺麗に見渡せるのに、下にあるはずの次階層や上階層は靄がかかってるみたいに霞んで見えない。

恐らくこれも光属性の応用か……俯瞰でのズルはするなってことだろうな。


「一応重力場を星魔石でゴリ押せなくもないみたいだが……それでひとつの通路を通るのに1時間ほど集めた星魔石を消耗するから、遠慮したいところだ」

「星魔石は売値が高いですもんね」

「NPCの店には当然ないし、モンスタードロップも入ってる宝箱もこのダンジョンにしかいないのがね……」


せめてここ以外にも星魔石が取れたら状況は変わるのだろうが……何故か未だにそれらしい場所やジョブが見付からないらしい。


それらしき転職クエストも先駆者のジョブ構成も分かるのに何故か同じことが出来るジョブにも辿り着けない。

このダンジョンが公開されてから多くの検証班が頭を抱えているのが現状だ。


「せめてもの救いは、善意でカスタマイズしたマップデータを提供してるプレイヤーがいるぐらいか」

「あれは善意というか、恨み節な気がするけどね」


現在俺たちはネット上にいたある立体型のマップデータを埋めながら移動パズルを虱潰しに解いていっている。


普通、こんな利益が出るダンジョンのマップデータがただで流れるなどほぼありえないがここの主は随分と多方面に恨みを買ってるからな。

ここ数日で11階層に進出したパーティーも増えて、とにかく“プレジャしばくべし!”というプレイヤーはかなり増えたからの現象だが……それでもまだ突破出来ない。


進むのが困難な複雑過ぎてやる気を削ぐ通路、夜間探索を抑止する仕掛け、その途中にある持ち帰った方が益になる宝……それらの要素が合わさり明らかに攻略の足並みを乱してきているからだ。


「あいつも、ちょっとは加減しなさいよ。どんだけ馬鹿みたいに広くしてんの……」

「まあ、俺もそうは思うが……数万はある全プレイヤーを相手にする想定ならむしろこれでも狭いぐらいじゃないか?」

「それは……そうかも、ですね」

「どっちにしろ癪に障るわね」

「何はともあれ、今日までに着実に進んでは居る。このマップによる埋め残しもあと少しなんだ。ここはもう一踏ん張りするぞ!」

「「おう!」」


愚痴ばかりになってきたパーティーの雰囲気を引き締めて攻略に戻る。

また重力場をダンジョンを上に下に流れ、時には重力が乱れた通路で天井や壁を歩き、今日も懲りずに相棒がモンスターの罠に引っ掛かる。


そうやってダンジョンを飛び回ること数時間。もうすぐ夜になると言う時間帯にてそいつと遭遇した。


「あれは、何だ? モンスターみたいだが……デカいな」

「通路を塞いでるわね」

「見た目は……タコ何でしょうか? 何か岩みたいのを被ってますが」


コツコツした岩の胴体の下から10を超える数の触手をにょろにょろと蠢かす、巨大なモンスターが次に行くべき通路を塞ぐように陣取っている。

ストスは触手を見てタコだと思ったようだが、あれは恐らく……。


「ローパーだな、あれは。確か、2ndステージの比較的深いところにある湖のエリアで出没するやつだったはず」

「ああ、よくエロモンスターされるやつね。あれって水棲なのね」

「あれが、ローパーなんですね。うぅ……なんか、触手がうねうねしててちょっと気持ち悪いです」


相棒はどうでもよさげだが、ストスはあの触手が動きが受け付けないようだ。


確かに表面が湿っぽく、粘り付くような挙動は生理的嫌悪感を掻き立てる。

相棒が言った通りそっち方面では野郎どもに人気があったりもするモンスターなのだが……ストスは見た目通りの純真な少年で俺は安心したよ。


「ローパーは胴体で防御を固め、攻撃の隙きに素早い触手で反撃するカウンタータイプのモンスターだ。魔法の耐性も高く、接近で一撃必殺を決めないと相応に苦戦する。逆に言うと一発決めれば容易い相手だが……ストスの剣でいけるか?」

「うーん、どうなんでしょ。至近距離なら効くとは思いますが……仕留め損なったら多分僕が一撃で逝きますよ」

「あ、それならさ。星魔石使ってあれを軽くするってのはどう? それぐらいなら私出来るけど」


この中で接近火力が最も高いストスにローパーをやれるか話し合っていると相棒からこんな提案がなされた。

その手には途中で拾った星魔石の輝きを放っている。


「なるほど。それならもし仕留められなくとも爆発の衝撃で吹っ飛ばせるかもしれない。ストスはどうだ?」

「はい、僕もその作戦でいいと思います!」

「なら決まりね!」


―― この時もっと慎重になっていればと、俺は後に後悔することになるのだった。

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