第119話 12階層ー1

Side とある重戦士


『陽火団』との攻略があった数日後。

クラリスさんたちとの依頼も解消されたと言うに相棒が性懲りも無くリベンジをすると言い出したため、俺たちはまた『増蝕の迷宮エクステラビリンス』の11階層に来ていた。


「あー、もう。この前はまたやられたわ!」

「まあまあ、そうカンカンするな。転移門のお陰で今回は楽に来れたし、幸いトリックもすでに明かされたしでいい事ずくめじゃないか」

「ちっともよくなーい! 何だかんだようやく下がってた私の怒りゲージがまた爆上がりしたのよ! キィー! ほんとにあついぶっ飛ばしてやるぅ!」


お前はサルか。

そんなだからいつもカモにされてるんだというに。


あ、ちなみに今の会話は俺と相棒の間に風属性の魔法で物凄く薄い糸電話みたいのを繋いで行っている。水の中でこれは相棒の魔力を地味に使うが、俺たちだけではボイスチャットが使えないから連携のためにも仕方がない。


「それはともかくやっぱりお姉ちゃんは凄いわ。クエストの片手間にこちらに寄ってあっさりとあの仕掛けの秘密を見抜いたもの」

「ああ、そうだな。あの事件の後キャラを作り直しまだでしたそうだが、もう俺たちよりジョブレベルのトータルを上回っていたしな」


現在、メキラさん……リアルの方の姉さんから聞くに『Seeker's』は未だに例の転職クエストに挑んでいるらしい。

ただそれももうすぐ終止符を打てそうだとも言っていた。


その決定打となったのは他でもない姉さんのキャラの作り直しにある。

前の事件の後。力不足を感じた姉さんだったが、今のジョブ構成じゃどう育てても限界を感じたようで暫くかなり悩んでいた。

丸1日ほど悩み悩んだ結果、姉さんは今のキャラを削除し新しくキャラを作り直すことにした。


配信などの都合上キャラ名は引き継ぎ、まっさらデータで新しい鑑定ジョブのビルドを構築したそうだ。


「ここの秘密がまさか光を呼吸出来る形に変異させるってのも驚いたが……。それよりも、姉さんの姿にびっくりしたよな」

「あ、アレね。か、可愛くていい思うけど、私は、ぷっくく」

「おい、笑ってるぞ」

「あんただって口角ビクついてるじゃん」


ここに来て俺たちがやられた窒息ギミックについて調べてもらった時のメキラさんの姿を思い出し、つい笑いが零れそうになる。

だって、もう20も半ばを過ぎるというのにあの格好はなぁ……と、余計なこと思い出していると『警備』が発動し透明カジキを盾で弾く。


「おっと、雑談の時間は終わりか」

「イワシの群れも来たわ。カジキもあの中に隠れたわね」

「光魔石は?」

「まだ余裕だけど、折角だしこいつらから補充してやるわ」


前にまんまと嵌められた組み合わせが再び俺たちに襲いかかってくる。

基本は前と同じ、イワシの捨て身の攻撃を俺が防ぎ、相棒が魔法でモンスターを殲滅する。

これだけだと、前と同じくイワシの乱反射閃光とそれに連携してくるカジキの透明化不意打ちに苦戦は必至だろ。もう依頼は解消したから、今回は前と違ってクラリスさんたちもいない。


だが、違うのはそれだけではない。きっちり対策も練ってきたからだ。


イワシ共が前回同様、鱗を残して死に後ろの固体が閃光を放つ。本来なら『警備』をすでに使ったこっちはこれでどう転ぼうと視界が潰れた隙きをカジキに突かれ翻弄されるしかなかったはずだった。


「遮光魔法、発動したわ!」


相棒の声の後、俺たちの前方に少し暗い色にスキルで染めた風が海水に混ざり、イワシどもの閃光を緩和させる。

これは相棒が独自で編み出した手法で風と光の属性魔法を混ぜて、光を通しにくい風を生み出す魔法なのだという。きっとクラリスさんの『陽水』から着想を得たのだろう。


これで問題なく視界が確保され、視界が潰れることもなくった。そして副次効果として……。


「そこか!」


イワシ群れからこっそりと襲ってきたつもりの透明カジキを難なく弾く返す。

透明カジキの光学迷彩は保護色と光屈折の複合技。その両方でシナジー効果を得ているから発見はなかなか難しい。

だが、今は相棒の風で海が汚れ光が通り辛い。この状況なら透明カジキのスキル効果はガタ落ちする。


「丸見えよ!」


隙きを晒した透明カジキを相棒の魔法が細切れにして光の粒に変えた。

それを何度か繰り返し、イワシの群れ範囲魔法で一掃して……戦闘は終了となる。


「余裕だったわね!」

「そうだが……あんま調子になるな。もう少しで次の階層だから気を引き締めろ」

「あはは、大丈夫だって。光魔石を光源にすればあの窒息トラップも怖くないし。何より今日は絶好調みたいだから。何が来てもそうそうやられはしないわ!」


お前がそういう時が一番不安何だよ。

という本音はどうせやかましくなるだけなので胸に仕舞い込み、向こうの海が透けて見える淡く光る道を進む。


例の重力場を越え、宝箱を回収しながら、また何度かの戦闘を繰り広げ……やがてその場所に辿り着く。


「ここね、次階層に降りる階段は」

「ああ、材質?はここ壁と一緒だが、デザインが今までの階段と同じだから……恐らくそうだな」

「早速降りましょ! また一番は乗りよ!」

「あ、また!」


少し真面目な空気が出てのに油断していたらその隙きをついて相棒が下に駆け下りる。それを慌てて追って俺が見た光景は……。


「とう……え、きゃああああぁぁー!」

「ほんと、お前はなぁー!」


……もの凄い勢いで横に落ちていく相棒という、こう叫ばずには居られないものであった。

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